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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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遊びの誘い


「みーくらくーん、あーそーぼ!」


 数日後の朝食を終えての洗面所での歯磨きタイムに、突然そんな声が聞こえてきて俺とテチさんは硬直する。


 それから顔を見合わせ、まさかという表情を作り、声の主に心当たりはあるものの信じられないといった視線での会話を行い……手早く歯磨きを終えたなら居間に足を向ける。


 すると縁側側に御衣縫さんが立っていて……釣り竿を肩にかけ、魚をいれるための竹籠、びくを腰に下げたというとんでもない格好を見せつけてくる。


 タヌキそっくりの姿をした御衣縫さんには妙に合っているというか、作務衣姿がなんとも映えているというか……そんな御衣縫さんがなんだってまたさっきみたいな声をかけてきたのかと疑問に思っていると、俺達の顔を見てかひとしきりに笑った御衣縫さんが口を開く。


「むっはっは、ドッキリは大成功じゃないか。

 まぁ、あれだ、新しく出来た釣り堀にでもいかねぇかとな声をかけに来たんだ。

 なんでもあの釣り堀、実椋の発案で出来上がったそうじゃねぇか……アジだなんだを釣れる面白い釣り堀だって、話題になってんぞ」


 その言葉を受けて目を丸くした俺は、ドッキリが連続してくるなぁと、そんなことを思いながら言葉を返す。


「釣り堀ってもうできちゃったんですか? その話をしたの数日前なんですけど……。

 釣り堀を作るにしたって、もう少し時間が必要そうっていうか……一体何をどうしたらこんな短時間で出来ちゃうんですか……」


「さぁー、そこら辺のことはおいらもよくは知らねぇけど、お前さんと話をした翌日には工事に取り掛かって、翌々日には出来たって話だぜ。

 ……ま、そこら辺の謎も実際に行ってみれば分かるだろうよ」


 と、そう返して御衣縫さんは、縁側に立てかけてあった四本の竿を手に取り、こちらにずいっと差し出してくる。


 それらは恐らく俺とテチさんとコン君達のもので……木材を削ってつくったとてもシンプルな構造のもののようだ。


 竿の先に糸を結んで、その先に針を結んで餌をつける……みたいな。


 リールと呼ばれるような道具をつけるパーツはなく、ただ持ち手に布が巻いてあるだけのもので……これで本当に魚が釣れるのかと思ってしまうが、御衣縫さんが好意で用意してくれたのだからと、素直に受け取り感謝の言葉を口にする。


 するとそこに、


「きーたよ!」

「きましたー!」


 と、いつものように声を上げたコン君達が駆けてきて……俺が手にした釣り竿を見て、コン君の目は一瞬で煌めき、キラッキラッと瞳を輝かせながら、無言で両手をわたわたとこちらに向けてくる。


 竿を持ちたくてしょうがないらしいコン君に一本渡し、それからさよりちゃんにも渡すと、二人はそれを嬉しそうにぎゅっと握って……まるで魚がかかったかのように竿を振り、釣り気分を味わい始める。


 そうやってしばらく遊んでから、


「釣りにいくの!?」

 

 と、コン君が元気な声を上げてきて、俺が「行くよ」と返すとコン君は凄まじい速度で俺の車の方へと駆けていく。


「色々と準備するから待ってね」


 そう声をかけてから俺達は手早くお出かけの準備を済ませ、それから車に乗り込み……運転席に俺、助手席にテチさん。


 後部座席にコン君、さよりちゃん、御衣縫さんという感じで座ってもらう。


 コン君とさよりちゃんはチャイルドシートで、御衣縫さんの座る場所はとても狭くなっている……が、御衣縫さんもだいぶ小柄なので問題はないようだ。


 そして竿は後部収納から座席に立てかけるように固定することでどうにか積み込み……その状態での安全運転でもって、養殖魚センターへ向かっていく。


 すると養殖魚センターの一画、大きめの建物の前に養殖釣り堀なる看板が立っていて……そこの駐車場に車を止めて中に入ると、受付があり、そこで一人1500円を払ったなら、釣り堀用の針……返しのない針のついた釣り糸と練りエサを受け取り、スタッフの指示通りに足を進めていく。


 釣り堀の中は、大きく縦長の体育館のようになっていた。


 屋根が高く、鉄骨が組まれていて、窓が大きく……空調などがしっかりしている。


 そんな建物の中にこれまた縦長のプールがあって……そのプール側の階段を登ると、プールの全体像が視界に入り込む。


 プールはかなり縦長で、ドーナツ状になっており……ドーナツ状のプールの中には一定の水流があって魚がその水流に乗って泳いでいる。


 プールの中央部分……ドーナツで言えば穴にあたる部分には様々な機材が置いてあり、それらで水質やら水流を管理しているようだ。


 なんとなく回転寿司みたいだな……と思うプールの縁には足場が組まれていて、俺達が今上がっている階段はその縁に上がるためのもの。


 その縁にはいくつもの椅子が並んでいて……他のお客さんの様子を見るにその椅子から針を垂らしての釣りが行われているようだ。


「……つまりアレかな、養殖プールにただ足場を作っただけのものを釣り堀と言い張っているのかな……。

 いやまぁ、これなら簡単には出来るだろうけども……色々と大丈夫なんだろうか、あの機材とか壊れたりしないか不安になるなぁ」


 なんて声を上げると案内をしてくれていたスタッフさん……イタチかなにかの獣人らしい女性が言葉を返してくる。


「ちゃんと糸から離れてしまった釣り針を回収する装置や、餌をろ過する装置も稼働しているので大丈夫ですよ。

 それとここは使っていなかった養殖プールを使ってつくった仮設の釣り堀でして、本格的な釣り堀は今計画中の設計中となりまして、来年の夏には出来上がる予定となっております」


「な、なるほど……仮設なんですね、これ」


 と、そんな会話をしたなら釣り方や諸注意を教えてもらい……それからそれぞれ椅子に座っての準備を始める。


 釣り竿の先にある布に糸を結び、その糸の先に針を結び、針に練り餌をつけてしっかりと固める。


 それからそっとそれをプールに沈めると、びっくりするくらいの勢いで魚が群がってきて、ぐんっと竿が曲がり……針にくいついたらしいアジが水の中で大暴れを見せる。


 それをどうにかいなして釣り上げて……スタッフの人が用意してくれた水入りバケツの上に持っていき、針を手に持ってくるんと返すと、すっと針が外れてバケツの中に魚がぽちゃんと落ちる。


 針に返しがないとこういう時は楽だなぁ、なんてことを考えているとバケツの中で魚が大暴れ、いやこれどうするんだと考えていると、テチさん、コン君、さよりちゃんが次々に魚を釣り上げ始める。


 そしてその全員が何故か俺のバケツに魚を入れ始めて……あっという間にバケツが魚でいっぱいになってしまうのだった。


お読みいただきありがとうございました。



そしてお知らせです

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