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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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養殖魚を……


 干物の炊き込みご飯はテチさんにも好評で、特にショウガとの相性が気に入ったのか、物凄い勢いで食べてくれた。


 疲れもあってか少し食欲が落ちていたらしいけど、それも一気に復活し、反動もあってか爆発していた。


 干物になるとテチさんにとって嫌な匂いが消えてくれるようで、生魚も焼き魚も食べられないが干物ならいけるらしく……それも食欲の爆発を助けたのだろう。


 そういう訳でそれからはしばらく干物を作りまくることになり、ついでに美味しい干物の作り方を模索したが……これがまた難しかった。


 歴史が長くてシンプルで、既にさんざん研究されていて……そんな状況で素人が新しい作り方など見つけられるはずがなかったのだ。


 ピチッとするシートを使うのが精一杯の工夫でそれ以上はなかった。


 それでも養殖魚センターから魚を買い付けては干物にする生活を送り……そんなある日のこと。


 いつものように注文をしようと電話をすると、注文後に電話の向こうからこんな声が返ってきた。


『本当にいつもありがとうございます、たくさん買っていただいて……。

 こうやって直接買っていただけるのは本当にありがたくて、こういったお客様がもっと増えると良いのですけど―――』


 と、そんな言葉から始まったのは、ほぼほぼ愚痴のような相談だった。


 獣ヶ森で海魚は養殖が基本、外から入ってくる場合ももちろんあるが、そのほとんどは冷凍で、検疫の関係で日数も経っているのであまり美味しくはない。


 美味しくはないのだけど天然物をありがたがる風潮があり、時には美味しくない天然物が養殖の2~3倍の値段になることもあり、悔しい思いがある。


 味も鮮度も安全度も自分達の方が勝っているのに、絶対の自信があるのに中々受け入れてもらえない……と、そんな内容の。


 これはまぁー……分からないでもない話だった。


 獣ヶ森の住民にとって海とは絶対に行くことの出来ない世界で、憧れの気持ちがいっぱいにつまった場所で……その気持ちが海の天然物を美味しく感じさせているのだろう。


 養殖魚の方が餌をたっぷりもらって、ストレスのない生活でよく肥えて美味しいことが多いのだけど……それよりも何よりも気持ちの問題が大きい。


 これを覆すというのは中々大変で……、


『―――何か良いアイデアありませんか?』


 なんてことを言われても困ってしまうのだけど、まぁー素人の俺にそこまでの答えを期待している訳ではないのだろう。


 ただ愚痴相手が欲しいというか、常連となった俺と話をしたいというか、そんな考えに違いなく……特に深く考えることなく言葉を返す。


「釣り堀とかやったらどうですか? この辺りで海魚を釣れるなんて機会はまずない訳で、それを楽しめるとなったらお客さんがたくさん来ると思うんですよね。

 そして自分で釣った魚ならそれだけで美味しく感じる訳で……それが特別美味しい養殖魚となったらもう、他の魚なんて食べられないくらいにハマっちゃうんじゃないですか?」


『……釣り堀! その手がありましたね!

 幸い近場で川魚の釣り堀はやっていますし……あとはそれを改良するだけ……。

 色々と失敗もするかもしれませんが、挑戦の価値はありそうです……うん、とても良いですね』


 予想外の答えが返ってきた。いや、まさかそんなに好評だとは……。


『……よし、詳細を詰めて上司と相談してみます。

 この度は本当にありがとうございました! 流石は門の外出身! ……いやぁ、敵いませんね』


 と、そう言って養殖魚センターの職員さんは通話を終了させ……俺はスマホを見つめながらなんとも言えない気分となる。


 まさか雑談でも冗談でもなく本気の相談だったとは……。

 

 海魚の釣り堀は実在はするものの、海上に作った天然海水と海流を利用したものだったはず。


 山の中から一から人力で作って成功するかは……なんとも言えない気がする。


 ああ、いやでも、お店の中で魚を釣ってその場で調理するお店とかあったはずだから、そういう形ならいける……のかな?


 養殖自体には成功していて、魚を活かす施設はある訳で……そこに釣り針を垂らすだけなら、そこまで難しくない……はずだ。


 うぅん、所詮素人、あれこれ考えても答えは出てこず……深く考えるのはやめてスマホをポケットにしまう。


 それから俺は倉庫へと足を進め……倉庫の冷蔵庫のドアを開ける。


 その中にはいくつものトレーがあり、試作干物がこれでもかと並べられていた。


 全てテチさん用であり、普通の冷蔵庫では賄えなくなってのこちらでの製造だ。


 他にも倉庫の換気扇側に吊るしカゴをいくつかぶら下げ、そこでの乾燥に挑戦していたり、庭の日当たりの良いとこに棚を置いてそこでも乾燥チャレンジをしていたりする。


 ……季節的に上手くいくかはギャンブルだが、これも経験……やるだけやってみようとなった訳だ。


 そしてこうやって干物のチェックをしているといつのまにか背後に……、


「今日は何の干物? 今日はアジが良い」


 と、そんなことを言いながらテチさんが現れるのが定番で、冷蔵庫の中をじぃっと覗き込む。


「じゃぁアジにするけど……試作したアジ以外のも食べてもらおうかな。

 それで美味しければ量産するって感じで……。

 ああ、そう言えば養殖魚センターの人が、釣り堀に挑戦するって言っていたよ、もし上手くいったら皆でいくのも良いかもね」


「……釣りか? 釣りはまぁ、嫌いじゃないが、どうせなら自分の手でつかみ取りをしたいな」


 俺が言葉を返すとテチさんはそんなことを言ってきて……俺はなんとも言えない気分となりながら冷蔵庫のドアを閉じ、言葉を返す。


「海魚のつかみ取りは難しいんじゃないかなぁ……まぁ、釣り堀の形次第だろうけども。

 っていうか、完成する頃にはお腹が大きくなってそれどころじゃないんじゃないの?」


「うん? そんなこともないだろう。

 お腹に関してももう十分大きくなって、これ以上は大きくならないだろうしな……。

 ……ああ、人間はかなり大きくなるんだったな? それはあくまで人間のことで獣人は違う場合も多いんだ。

 熊獣人なんかはすごく大きくなるらしいけどな」


 ……そう言えばリスの赤ちゃんってすごく小さいんだっけ? いやでも、それはそもそもリスが小さいからで……。


 いや、コン君達のことを思うとそうでもないのか……コン君達も同い年の人間と比べるとかなり小さいし、体重も軽いからなぁ……赤ちゃんもそれくらいの差が出るのかもしれない。


 まぁ、あまりテチさんの負担にならないなら良かったと、そんなことを思いながら俺は干し棚の方へと足を向けて……テチさんと一緒に日干し干物の確認をしていくのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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