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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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養殖魚レストラン


 テチさんに案内してもらいながらの安全運転で向かったそのお店は……全く予想外の外観をしていた。


 養殖魚料理の専門店というから、和食系や居酒屋系を想像していたのだけど、木材をたかーく積み上げてのログハウスチックな大きな建物で……ぱっと見ではおしゃれなレストランのようにしか見えない。


 ログハウスチックと言ったけども、それは雰囲気だけの話で、側面にも天井にも大きな窓があり、外から見える範囲でもかなり明るい雰囲気となっている。


 駐車場に車を停めて店内に入ると、予想以上に広い空間が出迎えてくれて……エプロン姿の店員さんの案内で進んだ先のテーブルは、白いテーブルクロスに包まれ、花瓶が飾ってあるという、なんともおしゃれな席だった。


 まずは椅子を引いてテチさんに座ってもらい……コン君も真似してさよりちゃんに座ってもらい、それから俺とコン君で同時に腰を下ろして、メニューを手に取る。


 するとメニューはなんともシンプルなもので……ランチタイムだからか、ランチコースA・B・Cとドリンクメニューだけという内容となっていた。


 ABCの違いは価格で……それ以外は一切なし、メニューの下部にあった説明を読むと、養殖ではあるものの、いつどんな魚が手に入るかは分からないので、仕入れられた魚で作る日替わりメニューしか用意出来ないらしい。


 そういうことならと、一番お高いメニューを頼むことにし……ついでにドリンクも頼むことにし、テチさんが妊婦であることを伝えた上で、俺とテチさんはオススメハーブティ、コン君とさよりちゃんはフルーツジュースを頼むことにした。


 そんな注文の間にもお客さんはどんどんやってきて、あっという間の満席……猫系の獣人が多いように見えるのは、魚料理のお店だからなのだろうか?


 静かだった店内はあっという間に賑やかになり、あちこちから笑い声が響き……同時に早くご飯を食べたいと、そんな声も聞こえてくる。


「あっという間のこの人、どうやらかなり美味しいお店みたいだねぇ」


 と、俺が話を振るとテチさん達はうんうんと頷き……言葉を返すことはなく、厨房の方をじぃっと見つめる。


 レジカウンターの向こう、ガラス張りとなっている厨房では忙しなく料理人の皆さんが動いていて……テチさん達はそちらが気になって仕方ないらしい。


 ……いや、表情からするに空腹過ぎて我慢がきかないというか、一刻も早く料理を持ってきて欲しいというか、そんな気分となって視線をそちらに向けているようだ。


 なら、あれこれ話すのも無粋かとそれ以上は何も言わず、静かに料理の到着を待ち……どれくらい待ったか、テチさん達が焦れてきた辺りでずいぶんと立派な作りのワゴンで料理が運ばれてくる。


 手すりや側面にしっかり装飾があり、車輪も安物ではないことを伺わせ……良いホテルなんかで見かけるそれに載っていたのは、かなりの量の皿で、それらが一斉に大きめのテーブルの上に配膳されていく。


 ……そうか、ここは獣人のお店なんだもんな。


 テーブルが大きいのは当たり前、皿も大きく、基本ドカ盛り。


 高級レストランではないというか、一応は庶民的なレストランなので、優雅さよりも食欲を満たす方に意識を向けているようで、盛付けが凄まじい。


 たとえば……何かの刺し身がこう、山になっている、刺し身が積み上がっている。


 刺し身の盛り付けでこんなの見たことないよってくらいに山だ、とても雑。


 1人分の刺し身が大皿に山盛りというのも中々衝撃だけど、サラダはボウルのようなお皿に山盛りだし、焼き魚はなんか5尾くらい重なっているし、おかわりのためなのかスープが入っているらしい鍋はワゴンに乗せたまま、テーブルの近くに放置されるしでインパクトが凄い。


 俺も普段からテチさん達のために多めの料理を用意するよう心がけているけど、ここには負ける、とにかくデカ盛りで……大食いのお店だったのかな? と、思う程だが、お客さんの雰囲気からそんなこともないようだ。


 ……まぁ、うん、そんなことをあれこれ気にしても仕方ないか。


 普通の人間の俺には多すぎるけど、余ったならテチさんに食べてもらったら良い訳だし……と、俺は手を合わせて皆を見やり、皆が手を合わせたのを見て、


「いただきます」


 と、声を上げる。


 するとテチさん達も「いただきます」と続き、すぐさま箸に手を伸ばし……早速とばかりに刺し身を口に運び始める。


 ここの刺し身は養殖魚から作っているので、寄生虫とかあれこれのことを気にする必要がないらしい。


 養殖に使っている水もこだわりの水だとかで……妊婦のテチさんでも安心という訳だ。


 そんな刺し身は……なんだこれ、めちゃくちゃ美味いぞ。


 食感としてはややねっとり、脂分が豊富で旨味と甘みが強くて……いや、ただの魚じゃないな、これ。


 どこかで食べたことあるんだけど、何の魚だろうと視線を彷徨わせ……厨房の近くにあった黒板へと視線をやると、そこにチョークで今日の料理に使う魚が書かれていて……刺し身は、アカムツか。


 ……アカムツ? アカムツってあれだよな、ノドグロだよな?


 めちゃくちゃ美味しい高級魚で『深海魚』。


 深海に棲んでいることもあって、生態がよく分かっておらず、その関係で養殖は出来ないというか、まだまだ研究段階のはずなんだけど……あれ? アカムツの養殖刺し身??


 色々と疑問が尽きないけども、これだけの量のノドグロ刺し身を食べられるなんて機会はまずないものなので、食事へと意識を向ける。


 ……いや、本当に美味い、サラリーマン時代に高級店で食べたのより美味いな……。


 養殖だからなのか獣ヶ森産だからなのか……もしかしたら扶桑の木が何かやらかして養殖を成功させているのかもしれないなぁ。


 そもそも高級魚のノドグロの刺し身が、こんなに山になっているって……都会ならこれだけで2・3万円はとられそうだなぁ。


 そんな刺し身の山の……三分の一程を食べたなら、流石に飽きが来たので別の皿へと箸を伸ばす。


 今度は焼き魚……うん、これもよく見たらノドグロだよね、まさかのそこまで高くないランチでノドグロ三昧?


 どうなっているんだこの店……というか獣ヶ森は。


 ……いや、しかしスーパーでノドグロなんて見かけなかったような……?


 料理店にだけ流通させている……のかな?


 なんてことを考えながら口に運んだ焼き魚も当然美味しく、それもバクバクと食べ……それからサラダへと箸を伸ばす。


 サラダは……うん、普通だ、流石にここは普通だ、普通のサラダだ。


 いや、それにしても種類豊富、美味しい野菜をしっかり使い、ドレッシングも恐らく手作りで値段以上に美味しいのだけど……。


 でもなんか、普通に美味しいってことに安心してしまい……それから俺はしばらくの間、夢中で箸を動かしサラダを食べ続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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