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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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プール


 結局テチさん達の意識を海から遠ざけることは出来なかった。


 何を見ても海を思い浮かべ、日に日に上がる天気予報さえもが海へのカウントダウンで……結局俺は諦めることにし、変にアレコレ画策するのではなく、そのままにしておくことにした。


 そうして何日かが過ぎて……これからしばらく雨が続くとなり、畑仕事を当分休むことになったある日の朝食時、テチさんが突然こんな声を上げた。


「プールに行こう、車で行ける距離にあるんだ」


「んん……まぁ、水泳は妊婦さんの運動としては定番だし、良いんじゃないかな?

 送り迎えの運転はしっかりするから、いつでも声かけてよ」


 と、俺がそう返すとテチさんは半目となって……そうじゃないと首を左右に振ってから言葉を続けてくる。


「違う違う、泳ぎの練習をしたいんだ、私は。

 海に行って全く泳げないでは片手落ちだからなぁ……しっかり練習をしておかないと。

 水着も用意してあるからそれの試着も兼ねてだな」


「……まぁ、うん、良いと思うよ? 練習でも何でも、プールに行きたいなら協力するよ。

 しかし練習しないとってことは、テチさんって泳げなかったり?」


「いや? 普通に泳げるぞ。子供の頃は川ら湖だと水遊びもしていたからな。

 ただまぁ……それも頻繁ではなかったし、いきなり海に行って失敗してもアレだからな、しっかり鍛え直しておきたいんだ」


「……ま、まぁ、その頃には出産も終わっているはずだし、鍛え直した上でガッツリ泳ぐのも悪くない……のかな。

 ならまぁ……テチさんが鍛え直せたと満足出来るまで付き合うよ」


「ああ、ありがとう。

 コンとさよりにも声をかけておいたからすぐにでも来るはずだ、二人が到着したら

早速行くとしよう」


 と、そう言われて俺は、そういうことは早く言って欲しかったなぁ、なんてことを思いながら朝食をささっと終わらせ……食器を水に浸してから歯を磨き、着替えをし、ついでに水着を引っ張り出しての準備を始める。


 何年も前に買ったサーフパンツだけども、しっかり運動して太ったりはしていないから今でも履けるはずだ。


 それとタオルやら念の為の着替えやら、色々用意して……テチさんのための本も数冊カバンに入れておく。


 妊婦さん向けの水泳運動について書かれた本やら何やら。


 そんな準備をしていると、いつも以上の勢いで駆けてくる足音が聞こえてきて……大きなリュックを背負ったコン君とさよりちゃんまでが、縁側に飛び込んでくる。


「きたよ!」

「きました!!」


 そして元気な声。


 ……あの大人しいさよりちゃんまでがテンションを上げているとは……ただプールに行けるというだけでなく、その先にある海が二人のテンションを爆上がりさせているのかもしれない。


「おはよう、コン君、さよりちゃん。

 水着とタオル、着替えも用意してあるかな?」


 と、俺が声をかけると、


「あるよ!」

「しっかりあります!!」


 更にテンション高く声が返ってくる。


 もちろんテチさんも準備完了で、俺も準備完了。


 ならばと車へと移動し……テチさんは妊婦さん用のシートベルトを装着した助手席へ、コン君達はチャイルドシートのある後部座席へ。


 そして全員の準備が完了したのを確認してからエンジンスタート、テチさんのナビに従いながらゆっくりと車を走らせていく。


 妊婦さんを乗せているのだから超安全運転で……と、言っても交通量が物凄く少ない獣ヶ森だ、車とすれ違うのも稀で、後続車もなく……そこまでする必要はなかったりする。


 けどもベルト他で負担がかかるのも嫌なのでゆっくりゆっくり……後続車がいないからこその、気兼ねのない低速運転でプールに向かう。


 そうして到着したのは、初めて行く一帯で……町営体育館みたいなものでもあるのかと思ったら、獣ヶ森第二プールとのシンプルな看板を構えた……恐らく中にはプール関連の施設しかないのだろうなぁということが察せられる、なんともシンプルな建物が視界に入り込む。


 一階建て、四角く奥に長く……窓は少なく、駐車場はそれなりに広い。


 ここが第二なら第一はどこなんだろうなぁと、そんなことを考えながら車を停めて下りて……入口に向かうと、募金箱のような箱が置いてあって、一人100円との文字。


 全員分の400円を払って中に入ると……まぁまぁ普通に見えるプールの入口が視界に入り込む。


 まず下駄箱があり、道具のレンタルなどをする受付、その奥にはプール後に飲むためか、自動販売機がずらっと並んでいて……その右には軽食コーナーもあるようだ。


 そして左にはプールに続く通路があり……下駄箱でスリッパに履き替えたならそちらへと足を向ける。


 あとはまぁ……定番の流れだった。


 まずトイレがあり、次に更衣室、更衣室で着替えたなら消毒シャワーと消毒プール。


 特に獣人は毛の中に虫が……なんてこともあるらしく、しっかり洗うようにとの指示ポスターがあり、俺と同じくサーフパンツ姿となったコン君のことをわしゃわしゃと丁寧に洗ってあげる。


 そうこうしているとテチさんとさよりちゃんがやってきて……テチさんはなんというか、水着らしくない水着だった。


 この形状の水着をなんと呼ぶのか……まず上は、胸をしっかり覆うピンクの布地の上にレース生地が被せてあり……そのレース生地は横に広がって肩までを覆っている。


 ああいうのって普段着でも見かけるけど、どうやって着ているんだろうなぁ……。


 下は同じくピンク色のスカートで、お腹を冷やさないためか、追加の腹巻きのような水着も身につけている。


 そしてさよりちゃんは……水着というよりもドレス、確かビーチドレスというタイプだったか、カラフルで花柄なそれを着ている。


 俺もコン君も紺色の無地のサーフパンツで……なんともはや差が大きいなぁ。


 まぁ、男女の水着なんてそんなものかと考えながらコン君を徹底的に洗い、テチさんに頼まれたのでテチさんの尻尾も洗い……それから自動ドアの先にあるプールへと向かう。


 プールは大きく分けて3つ、子供用、大人用、競技用。


 子供用には滑り台があり、見るからに浅く、大人用にはウォーキングコースや、妊婦さんのためのものと思われるコース、リハビリコースなんかも用意されている。


 競技用は深く長く……簡単な飛び込み台まであるみたいだ。


「おぉー……結構本格的、だけども平日の昼間だからか誰もいないねぇ……。

 まぁ、これはこれでラッキーだったのかな?」


 と、プールを見回しながら俺がそんなことを言うとコン君とさよりちゃんが凄まじい勢いで駆け出そうとし……テチさんにその首根っこをぎゅっと掴まれる。


「しっかり準備運動をしてからだ」


 と、そう言ってからテチさんはコン君達をプールから離れたとこまで持っていき……そこでしっかりと準備運動をさせるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
最近こちら作品を見つけ、大変楽しく拝読させていただいております。 ちょっと細かいことかもしれないですが187話湖畔でにて、てちさんが爆速で泳いでいる描写があるのですがこのプールのお話で主人公がてちさ…
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