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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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お金とか春野菜とか


 コン君(編集済み)が動画デビューをしたことにより、門の向こうはちょっとした騒ぎとなったようだ。


 今までリス獣人に抱いていたイメージが一気に変わり、それどころか獣人の高い身体能力が知れ渡り、古い文献からの推測と妄想を根幹とした獣人観が一気に変わることになったからだ。


 とはいえ、海外ではオープンな状態となっている獣人もいるし、研究も盛んでそちらの情報からある程度、正しい推測が出来そうなものだが……長年創作物の中で描かれ続けた獣人観を覆すまでには至らなかったようだ。


 そもそもリス自体、見た目は可愛らしいが大人しい動物ではなく、それなりに凶暴だし、攻撃力を有しているし、肉も食うしで……その辺りのことを考えればただ可愛らしいだけの獣人にはならないはずなんだけどなぁ。


 ……なんてことを思ったりもしたけども、俺もここに来た当初はそういったイメージを持っていたし、他人のことを言えないというか何というか……実際目にしないことにはそれまでのイメージを捨て去るのは難しいのかもしれないなぁ。


 ともあれ、騒ぎになったことでコン君の動画は度々テレビに出ることになった……が、編集のおかげか獣ヶ森の人々がそれがコン君だと気付くことなく、またコン君が浮足立つこともなかったからか、こちらの日々は平和なものだった。


 あんな風に時代の寵児となれば、コン君くらいの年齢の子は調子に乗ってしまうものなんだけど、とにかく冷静で……動画が皆に見てもらえたことを喜んではいるものの、それ以上の感情は抱いていないようだ。


 いつものようにさよりちゃんと過ごし、いつものように我が家に遊びに来るか、畑で働くかして……たまに次の動画はどうしようか? みたいな話はするものの、どこまでもコン君はいつも通りで……うぅん、大人だなぁと思ってしまう。


 そんなコン君よりも周囲の大人の方が浮足立っている感じで……ご両親は子供の活躍が嬉しいし、俺達もコン君の活躍が嬉しいし……更に活躍して欲しいなんてことも思ってしまうのだけど、そこにコン君がいつもの態度でブレーキをかけるという、なんとも不思議な状態になってしまっている。


 そんなある日のこと、花応院さんからメッセージが届き……台所でアップルミートパイを作っていた俺は、手を洗ってからスマホを確認し……料理に戻るためにもう一度手を洗いながらいつもの椅子に座ったコン君へ声をかける。


「コン君、花応院さんがいつでも良いから口座番号を教えて欲しいってさ。

 動画の広告収入がコン君の口座に入金されるらしいよ……結構な金額になっているみたいだねぇ」


「え? お金? お金もらえるの? 

 う、うん、分かった、お家に帰ったらお母さんに聞いておく」


「まぁ、動画一本くらいじゃ大した金額にはならないだろうから、お小遣いをもらえるくらいの認識で良いんじゃないかな?

 お母さんから聞いたらそれをメモして持ってくるか、メッセージで送ってくれたら後は俺の方で花応院さんに連絡しておくよ。

 ……獣ヶ森だと税金とかを気にしなくて良いのは楽でいいねぇ」


「うん、分かったー。

 税金とかはー……オレもよく分かんないなぁ。

 ……それよりにーちゃん、パイは!? アップルミートパイは大丈夫なの!?」


 と、そう言ってコン君はまな板へと視線を移す。


 お金より食い気……今は目の前の料理に意識が行ってしまっているようだ。


 とは言えアップルミートパイはそんな難しい料理ではない、普通にアップルパイを作る過程で、牛ひき肉にミックススパイスを混ぜたものを混ぜ込めばそれで完成となる料理だ。


 ジューシーなリンゴと旨味たっぷりな牛肉、それにスパイスを混ぜることで、スパイシーかつジューシーかつ満足感のある出来上がりになるというもので……甘さを控えめにする以外はほぼほぼアップルパイと同じ作り方となる。


 パイ生地をあえて丸く広げてピザのようにする調理法もあるのだけど……今日はそれをせずにパイと聞いて一番に想像する、網目パイに仕上げるつもりだ。


「ちょっと放置したくらいで味が落ちるような料理じゃないから大丈夫だよ。

 味付けも準備もほとんど終わって、後は具材を生地に乗せて焼くだけで……オーブンの予熱も終わっているからささっとやっちゃおうか」


 と、そう言ってから具材を乗せていき……パイ生地の形を整えたら予熱をしておいたオーブンに入れてスイッチを入れる。


 そうしたなら手を洗い……テーブルの上に用意した山盛り野菜に向き合う。


 最近テチさんは肉を多く食べている、肉ばかりと言って良いくらいに食べている。


 それだけではいけないのでアップルミートパイとして果物を混ぜ込んだのだけど……そろそろ野菜も食べて欲しい。


 という訳で春野菜……キャベツと菜の花、新玉ネギを使っての野菜メニューを作っていく。


 ……と、言ってもアレコレ手間はかけない、変に手間をかけるとテチさんの敏感になっている嗅覚が受け入れてくれないのでシンプルに。


 キャベツは刻んでコーン缶と混ぜてコールスロードレッシングでサラダに、菜の花は茹でて一口サイズに切って鰹節をふりかけ醤油で味を調整、そして玉ネギは……豪快に輪切りにし、バターでもって焼き上げて玉ネギステーキに仕上げていく。


 バターが受け入れられないかもしれないので、ショウガ醤油ベースの生姜焼きも焼いて、チーズ焼きも作っておこう。


 焼き上げたらチーズの塊を乗せて、じっくり熱して溶かして……とろとろにしたら完成だ。


 最近は忙しいのか、あまり顔を見せないフキちゃんだけど、定期的に自分で絞ったり作ったりした牛乳やヨーグルト、バターやチーズを届けてくれていて……市販のものがダメな時でもそれなら食べてくれる時があったりする。


 お義母さんによると獣人の妊婦さんはたまに、そんな風になってしまうらしい。

 子供が大きくなればなる程、敏感になって神経質になって……出産ギリギリまでそれが続くとかなんとか。


 このギリギリというのがミソで、これが終わる=出産の時が近いという合図にもなるので、あえて嫌うような料理を出して反応を見るのも大事なことであるらしい。


 獣人同士の妊娠ならそこまでしなくて良いらしいが、今回産まれる子供は人間と獣人のハーフ。


 早産となる可能性もあり、予定日をがっつり過ぎる可能性もあり……色々とどうなるか分からない出産なので、そういったこともしていこうという訳だ。


 という訳で、多くの野菜料理を仕上げたなら、それらを居間へと持っていき、配膳していく。


 するとお腹を空かせていたのか、箸を持って待ち構えていたテチさんが動き出し……そして皆が揃う前に素早く、新玉ネギのチーズ焼きへと箸を伸ばす。


 ……うん、ものすごい勢いで食べている、とりあえず食欲には問題ないようだ。


 さて……他の料理にはどう反応するやら、そんなことを考えながら俺はコン君達にも手伝ってもらいながら配膳を進めていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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