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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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反応


 布団から這い出て、着替えを済ませて洗面所に向かい、顔を洗いヒゲを剃り……と、身支度をしたなら居間に向かってテレビをつける。


 これから朝食作りをするための一呼吸、テレビを見てぼーっとして、自分の中のスイッチを入れるための時間を過ごしていると……ネットで話題になっている動画特集という、朝の番組の1コーナーでどこかで見た動画が放送される。


 ……それはどう見ても昨日のコン君の動画だった。


 いや、細部は違う、コン君の目の上にはぶっとい眉毛があるし、微妙に着ている服が違うし、背景の木々もなんか別物な感じがするし、コン君のようでコン君ではない、何者かの動画となっている。


 しかし細部が違っても、その内容はあの動画で……うぅん、これはもしかして?


「……加工編集したのかな……」


 俺が直接動画をどこかに投稿した訳ではない、花応院さんが用意してくれたスタッフさんに動画を送っただけで、あとのことは全て任せていて……恐らくだけど、ネットなどに出しても問題ないように細部を加工編集してあるのだろう。


 コン君の顔まで編集しているのは……個人の特定を避けるため、だろうか?


 正直獣人の顔を見分けられる人なんて希少だと思うのだけど……それでも念の為ということなのかもしれない。


 場所を特定されないよう背景も加工して、影の方向にデタラメとなっていてどちらに太陽があるのかよく分からなくなっていて……かなりの技術が使われていることが分かる。


 そしてその動画は今ネットで50万回も再生されているんだそうで……俺は目を丸くしながらスマホのチェックを始める。


 まずメール……両親や親戚からあの動画はコン君か? と、そんな内容のものが送られていた。


 いくら加工編集がしてあっても、分かる人が見れば分かってしまうようだ。


 そしてスタッフさんから動画投稿完了や、すぐに高評価があったと、そんな報告メールが来ていて……それからテレビから使用許可依頼があったとか、母親からテレビで見たよとか、そんなメールも送られてきている。


「うわーお……思っていた以上に人気になっているみたいだなぁ。

 コン君が見たっていうドラマの影響もある……のかなぁ。

 ドラマ放送直後の本物の動画投稿なら……まぁ、話題になって当然か」


 なんて独り言を言っているうちにコーナーが終わり……とりあえず朝食を作るかと立ち上がって台所に向かう。


 そして朝食を作っているうちにテチさんが起きてきて……最近のテチさんのお気に入りの、山盛り野菜炒めを出すと、それだけをもりもりと食べ始める。


 本当はご飯や味噌汁も食べて欲しいのだけど、体調的に今ひとつというか、受け入れにくいらしく、今日は野菜炒めオンリーだ。


 その分だけサツマイモなどを多めに入れていて、これが主食代わりになってくれるはずだ。


 そして昼食中にもテレビでコン君の動画が流れ始めて……それを見たテチさんは目を丸くして驚きながらも、野菜炒めをもくもくもくもくと食べ続ける。


「なんか、花応院さん達の方で加工してくれたみたいだね、眉毛とか服とか色々。

 でもまぁ、こうやってみるとコン君だって丸わかりだよねぇ」


 自分の分の朝食や、お茶なんかを配膳しながらテチさんに声をかけると、テチさんはもぐもぐっと勢いよく口を動かし、中のものを綺麗に飲み下してから言葉を返してくる。


「……そうか、今のはやっぱりコンだったか。

 眉毛とかがまるで別人だったからなぁ……私達以外に動画投稿した者がいたのかと驚いてしまったよ。

 ううん、眉毛があるだけで違って見えるものなのだなぁ」


「え? 獣人的にはそうなの? 俺の目にはコン君にしか見えないし、そこまで付き合いのない両親もコン君だって気付いていたけど……。

 うぅーん、獣人の目で見るとまた違って見えるのかなぁ」


「……普段から幼い姿に見慣れているかどうかの違いもありそうだが……すっかり見慣れた実椋もそういう反応となると、実椋が言う通り何かがあるのかもしれないなぁ」


 なんてことを言いながら朝食を済ませ、片付けや歯磨きをし、洗濯掃除など家事を進めていって……そしてテチさんと一緒に畑に行く準備をする。


 そろそろ畑仕事が本格化する、子供達も畑にやってくる、産婦人科の医者も畑仕事の監督くらいなら大丈夫とそう言ってくれているので……体を冷やさないよう、ブランケットなどをしっかり用意をし……それから2人で畑に向かう。


 畑に向かうと既に子供達がいて……子供達の話題はやっぱり朝見たあの動画のことで、一体どこの誰なんだろう? と、そんなことを言い合っていた。


 ……やっぱりコン君だって気付けていないのかぁ……。


 なんてことを考えていると、ズドドドドドと荒っぽい足跡が聞こえてきて……コン君とさよりちゃんがやや遅刻といったタイミングで駆け込んでくる。


 いやまぁ、今日は畑に来ないはずだったから遅刻でもなんでもないのだけど、畑で働くのだとしたら普通に遅刻扱いだろう。


「に、に、に、にーちゃん! ど、ど、ど、動画! て、テレビ!」


 うん、やっぱりここに来た目的は働くことではなく、動画のことを確認しにきたようだ。


 ならばとテチさんに目配せをし、テチさんはさっさと点呼を済ませて子供達に働くよう指示を出し……それから俺、テチさん、コン君、さよりちゃんの4人で休憩所の椅子に座る。


「あ、あれあれ、あれってオレだよね? なんか顔と服が変だったけど……」


 そして第一声、コン君がそう言ってきたので俺は頷き、花応院さん達が加工してくれたらしいということを伝える。


 それからスマホを取り出し、花応院さん達が用意してくれたSNSアプリを起動させ……例の動画についたコメントを確認する。


 そのコメントはどれもこれも、好意的なものばかりだった。


 可愛いとか格好いいとか、もっと見たいとか、あれこれして欲しいとか。


 仮に昔の俺だったら、この動画を見てまず最初に思うことは『本物か?』で、次に映画とかの宣伝じゃないのか? とか、加工して作られたフェイク動画じゃないのか? とか、そんなことを思うはずなのだけども……そういったコメントは一切ない。


 恐らくはスタッフさんがそういったコメントを規制するなり削除するなりの対応をしているのだろう。


 これならば見せて問題ないだろうなと、コン君達にもスマホの画面を見せてあげると……コン君は大盛りあがり。


「オレ、テレビに出ちゃったよ!! しかも皆褒めてくれてる!!」


 と、そう言って嬉しそうに目を輝かせ、嬉しすぎてどうしたら良いのか分からなくなったらしく、右を見てソワソワ、左を見てソワソワ、まるで芸能人気分で周囲を警戒したりし始める。


「とりあえず皆格好良いって言ってくれてるし、当初の目的は果たせたみたいだね。

 かなり好評でテレビでも紹介されて……また何か動画にしたいことがあったらやっても良いかもね。

 ……ただまぁ、連日だとスタッフさんに迷惑だろうから、程々に日を開けてから、かな」


 と、俺がそう声をかけるとコン君は、力強く頷いて……微笑ましげにニコニコとしているさよりちゃんと、これからどんな動画を撮っていこうかと、そんなことを話し始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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