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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十一章

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動画


 暇な時間を見つけては、スパイスアップルパイをどうやったら美味しく作れるかと研究するようになり……レイさんとの情報交換なんかも積極的に行うようになり、数日後。


 いつものようにコン君達が遊びにきた……のだが、いつもとは違い、コン君の元気な「きーたよ」の声がない。


 あまりにも静かに家に入ってきたものだから気付くのが遅れたくらいで……さよりちゃんとの会話の声が聞こえてようやく気付いた俺が、一体何事だろうと居間に顔を出すと……尻尾を力なく垂らし、耳を伏せ、しょんもりとしたコン君が視界に入り込む。


「ど、どうしたの?」


 と、俺が声をかけるとコン君は、


「昨日テレビでー……」


 なんとも暗い声でもって何があったかと話し始める。


 その話はかなり長いものだったが……まとめてしまうと、簡単な話であった。


 昨日テレビで獣人が登場するドラマが放送されていた。


 だけども外の人は獣人のことをよく知らないので……見た目だけ獣人で中身は全くの別物だった。


 それでも面白いドラマだからと見ていると、リスの獣人が出てきて……可愛らしさを強調するためか、弱々しく可愛らしいだけの、マスコットのような扱いとなっていたらしい。


 しかもそのリス獣人は男の子で……と、言っても耳と尻尾だけがリスの勘違い獣人だったのだけども、それでもリス獣人の男の子であるコン君としてはショックだったようだ。


「外の人にはあんな風に思われてるんだなーって……。

 オレ、もっと強いし、力だってあるし、虫も動物も退治できるんだけどなー……あのドラマのせいで弱いと思われちゃうんだなってー……」


 そんな言葉で説明を終えたコン君は更にしょんもりとし……そんなコン君をテチさんとさよりちゃんが慰め始める。


 そしてそんなコン君を見て俺は、ふと思いついたことがあり……スマホを手に取り、花応院さんにメッセージを送る。


 すると数分後、花応院さんからOKとの返事が届き……今度の配達の時に、そのための機材を届けてくれるとのことだ。


 今まではあまりやってこなかったことだけども、これからの相互理解を考えれば良いことだから、その機材を使った上で、花応院さん達のチェックを通ればOKだとのことで……俺はその話をコン君に伝える。


 するとコン君はその目を輝かせて元気を取り戻し……、


「オレ、オレ、頑張るよ! すっげぇ格好よくやるから!!」


 と、そんな声を上げるのだった。



 

 と、いう訳で数日後、花応院さんがやってきて例の機材の入った段ボールを届けてくれて……花応院さんから改めての説明を、機材の到着を待っていたコン君と一緒に受ける。


「うん、分かったよ! 花応院のじーちゃん! ありがとう!!」


 説明をしっかり聞いたコン君は、満面の笑みでそう声を上げ……花応院さんは心底から嬉しそうに微笑み、そんなコン君の頭を撫でる。


 するとコン君は目を細めてそれを受け入れ……それがまた嬉しかったのか、花応院さんは「ふふふふ」と笑いながら撫で続ける。


 撫でて撫でて撫でて……、


「あのその辺で……」


 と、俺が声を上げたことでようやく手を止め……少しだけ恥ずかしそうにしてから簡単な挨拶をし、門の向こうへと帰っていく。


 それを見送ったなら早速準備だと、段ボール箱を開封し……中から機材を取り出す。


 電源を入れてみると既に充電完了、各種設定も終わっていて……何種類かのセキュリティソフトが立ち上がってから、ホーム画面となる。


 それだけでもかなり異様なのだけど、外見からしても異様というか特別製で、このためにわざわざ特別製のものを用意し、すぐに使えるようにしてくれたのだろうなぁ。


「……にーちゃん、これ、なんかゴツゴツしてるね?

 門の向こうはこんなスマホあるんだ??」


 と、そう言ったコン君が視線を向けているのは、俺の手の中にあるスマホで……コン君の言葉の通り、普通のスマホとは違って、やたらとゴツいフレームに覆われている。


 一見してゴツいスマホケースをつけているように見えるけども、そうではなく……スマホを覆う金属パーツ……フレームそのものがごつく仕上がっている。


 明らかに大きく分厚く落としても簡単には壊れず、手が滑って落としてしまわないよう全体に溝が入っていて無骨という、軍用通信機か何か? といった外見で……恐らく盗聴とかそういったことへの対策もされているんだろうなぁ。


 そんな特別製スマホの背面の中央にはどでかいレンズがついていて……スマホ側面のボタンを押すとそれが起動し、動き出し……デジタルカメラを起動した時のようにレンズがにゅっと出てきて、動き……ピントでも合わせているのか、しばらくの間動き続ける。


 それから試しに何枚か写真を撮ってみて……そして肝心の動画撮影も試しにやってみる。


 駆け回るコン君、飛び回るコン君、柱を登って屋根に登って屋根を駆け回って、勢いよく跳んで庭に着地するコン君。


 いかにもなカメラを前に元気いっぱいごきげんモードとなったコン君を撮影していると、テチさんとレイさんと、さよりちゃんが森の中からやってきて……準備が整ったと、ポーズや態度で示してくれる。


 それを受けてコン君は縁側に置いておいた棒を手に取り……それを構えてポーズを決める


 それを受けて俺が、


「よし、じゃぁ撮影スタート!」


 と、声を上げて改めて撮影ボタンを押すと、コン君はダダッと駆け出し森に入り……俺はそれを追いかけていく。


 森に入るとすぐにテチさん達が誘導してくれていた虫達が現れ……それをコン君は棒を見事に振るって駆除していく。


「せぇぇえぃ!」

「とぉぉぉ!」

「やぁぁぁぁ!!」


 なんて声を上げながら軽快に、力強く、アクション映画でも見ないようなアクションでもって動き回り……出来るだけブレないように両手で構えたスマホで、懸命にそれを追いかける。


 そして……駆除を終えたなら勝利のポーズを取って、Vサインを高く掲げて……それを締めとして撮影を終了、動画を保存したなら、保存したものを花応院さんの関係者らしいスタッフさんに送信する。


 あとはスタッフさんがその動画をチェックし、問題ない内容ならそのまま、問題があれば修正などをし……SNSにアップしてくれるんだそうだ。


 これが本当の獣人とか、獣人の本当の姿とか力とか、そんなタイトルをつけるとかで……これが人の目に入れば、獣人の子供がかわいいだけではないということが知れ渡ることになるはずだ。


 それと同時に花応院さん達が目指す、相互理解も進むはずで……動画公開などなどの許可とかは全部花応院さん達が取って準備をしてくれたそうだ。


 SNSアカウントも既に出来上がっているとかで……このスマホで投稿は出来ないけども、その反応はチェック出来ることになっている。


「よし、これでOK

 すぐに反応はこないだろうから……反応のチェックは明日で良いかな。

 とりあえずコン君、お疲れ様、次の撮影がいつになるかは分からないけど、どんな内容にするか決めておこうか」


 と、そう言って俺はスマホの電源をオフにする。


 特別製で、通信方法も特殊で、セキュリティ関連にもかなり気を使っていて……そんなものの電源をオンにしたままというのも怖いので使わない時はオフにしていくつもりだ。


 電源が入っていなければ悪さをされることもないだろうし……通信料などで花応院さん達に負担をかけることもないだろう。


 それから俺達は居間に戻り……次回はどうするか、なんて話し合いをしながらレイさんが用意してくれたオヤツを食べて和気あいあいと過ごし……スマホは俺の自室の棚にしまって、日常に戻る。


 家事をし料理をし、食事をし……テレビを見ながらダラダラと過ごし。


 そして夜になる頃にはスマホのことも忘れて普通に床に入り……翌朝、布団の中で目覚めた俺は、あの特別製スマホではなく、自分のスマホをチェックし……目を丸くする。


 メッセージ数154件、一体誰が……と確認すると両親や親戚、花応院さんやスタッフさんが送り主で……寝ぼけた頭でメッセージを流し読みすると、どうやら昨日の動画のことについてのようだ。


 どうやら皆もあの動画を見てくれたようで……両親からの一通目をチェックしてみると、可愛いとか凄いとか、そんな単語が並んでいて……どうやら動画を純粋に楽しんでの感想メッセージが殺到しているようだ。


 ……そんなメッセージを親戚やら花応院さん達やらが送ってきて154件……。


 よくもまぁそんなにも感想を送れたもんだなと、呆れるやら感心するやら、何とも言えない気分となった俺は……残りのメッセージを確認することなく立ち上がり、とりあえず顔を洗うかと洗面所に足を向けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] コン君が動画配信者に! バズると良いですねぇw
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