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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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冬も終わり


 凍み豆腐や凍み餅はほぼほぼ凍み大根と同じ作り方だ。


 干して凍らせることで水分を飛ばし、フリーズドライ的に保存食にし……味や旨味を凝縮させる。


 餅に関しては普通に乾燥させるだけでも長持ちするし、市販品もかなり長い賞味期限だったりするが……せっかく凍みシリーズが作れる程外気温が低く、乾燥している地域という好条件の地域に住んでいるのだからと、作ってみることにする。


 そしていぶりがっこは……しっかりとした作り方ではないけども、これも作ってみることにしよう。


 発酵部分に関しては上手くいくかは分からないけど……まぁ、これも経験だろう。


「いぶりがっこ、オレ知ってる! たくあんの燻製でしょ!」


 と、いう訳で台所で大根を洗っていると、いつもの椅子に座ったコン君がそんな声を上げてくる。


「たくあんの燻製と言うか……燻製のたくあんと言うか……。

 たくあん漬けにした大根を燻製するんじゃなくて、燻製した大根をたくあんにするというのがポイントだね。

 どんな木で燻製にするのか、どんな漬け方をするのかも様々で……作っているとこで味が違うのも面白い所だねぇ。

 あえてたくあんを燻製にして作る人もいるし、まんま燻製のような作り方をするような人もいるし……そこら辺は本当に様々だね。

 今回はオーソドックスに燻製した後にぬか漬けにするつもりなんだけど……俺は過去、散々ぬか漬けの管理に失敗しているから……成功するかはなんとも言えないねぇ。

 ぬか漬けが上手くいけば……一気に作れる保存食が増えるんだけどね、ぬか床は瓶詰めと違って放置出来ないのが難しいところだねぇ」


 ぬか床……米糠を煮沸し、食塩水を混ぜて発酵させたもので……これを一から作ろうと思うと2~4ヶ月ほどかかってしまう。


 なので今回は市販のぬか床……買って容器に詰めて、あとはそれに野菜を漬け込めばOKというものを使う予定だが、それでも管理は必要で、漬け込んでただ放置しておけば良いというものではない。


 毎日かき混ぜる必要があるし、水分が多ければそれを調整する必要があるし、温度管理なんかも大切で……ちょっと油断するとカビたり腐ったりして、ぬか床はもちろん、漬け込んでいる野菜も駄目になってしまう。


 仕事をしているときに何度か挑戦したのだけど……仕事が忙しいと管理を忘れがちで、何度も何度も腐らせてしまっていた。


 そもそも一人暮らしだと本格的なぬか床では出来上がる漬物が多すぎるというか、消費しきれず……市販の簡単ぬか漬けセットで適当にやるか、完成品のぬか漬けを買った方が良かったりもする。


 そういう訳で苦手意識があるのだけど……上手くいけば美味しく出来上がるし、今はたくさん食べてくれる家族がいるので、挑戦する価値はあるはずだ。


「にーちゃんって、結構失敗してたりするんだよねぇ。

 オレも自分でやるようになったらそうなるのかなー……それともにーちゃんから教えてもらったことで上手くいくのかなー。

 うーん、今から楽しみ!」


「私も手伝いますから大丈夫ですよ」


 あれこれと説明をしながら作業を進めていると、コン君達がそんなことを言い始めて……その様子を微笑ましく思いながら作業を進めていく。


 まずは大根をよく洗う、よく洗ったら皮を剥いても剥かなくても良いらしく、あとはこれを好みのチップで……1~2日というかなりの長時間燻製を行う。


 ……まぁ、うん、大根の水分を飛ばそうと思ったらそうなるんだろうなぁ。


 という訳で少しでも燻製がうまくいきやすいように皮を剥くことにし……燻製は以前購入したタイマー付きの、自動で色々管理してくれる燻製器に任せることにした。


 それが終わったら市販のぬか漬けセットに漬け込んで……後はぬかを管理する、だけ。


 そう、それだけだったのに上手くいかなかった。


 凍み豆腐も凍み餅もしっかりと軒先に干して、軒先が干した食べ物だらけになって……なんともそれらしい光景が出来上がり……でもいぶりがっこだけは中々上手くいかず、四苦八苦。


 妊婦のテチさんもいるので完全に上手くいったという確証が得られないことには食卓に上げられないし……と、そんな風にしているうちに時が流れていって……段々と寒さも緩み、少しずつ雪が溶け始めて……冬が終わろうとしていた。


 やっぱり自分にぬか床は相性が悪いのかなぁ、なんて思い始めた頃、ようやくぬか床の管理が上手くいくようになり……御衣縫さんの助言もあって唐辛子を入れ始めたらちゃんと美味しく仕上がってくれて……そうして皆で食べられるレベルになった頃にはもう春で、新たな日々が始まろうとしていた。


 そうして雪がだいぶ減ってきたある日の夕方、春らしい薄手の、ロングスカート姿となったテチさんが畑から戻ってきて……畑の側でとってきたのか、たくさんのフキノトウの入った袋をこちらに差し出し、声をかけてくる。


「実椋、フキノトウが食べたい気分だからとってきた。

 これで何か作ってくれ……出来たらうんと苦くして欲しい」


「えぇっと……フキノトウは良いんだけど、アク抜きするから苦みも抜けちゃう……かな。

 確かフキノトウのアクはお腹の子供にあまりよくない成分だったから、しっかり抜く感じになるね。

 山菜のアク全般がそんな感じだから……春の味覚ではあるんだけど、量も控えめになっちゃうね。

 ……ただその代わりといってはなんだけど、おいっしい天ぷらにするから、仕上がりは期待していてよ」


 と、俺が返すとテチさんは、少しだけショックを受けたような顔になるけども、美味しい天ぷらが食べられると聞いて機嫌を直してくれたのか、小さく微笑み、居間へと歩いていく。


 居間にはお義母さんが持ってきてくれた大きめのクッションや、お義父さんが作ってくれたらしいこれまた大きめの、ゆったりと座れる座椅子があり……それにお腹をかばうというか、支えるための独特の座り方でテチさんが腰掛けていると、春となって少し薄着となったコン君達が駆けてきて……いつもの、


「きーたよ!」

「きましたー!」


 との声と共に家の中に入ってきて、洗面所へ向かって手洗いうがいからの居間へ突入といういつもの流れを見せてくる。


 そうしてコン君達は台所ではなく、居間でくつろぎ始め……テチさんに寄り添い、テチさんとあれこれと言葉を交わす。


 最近のコン君達は料理よりもテチさんに……というか赤ちゃんに興味津々なようだ。


 ただ興味津々なだけではなくテチさんを手伝い、フォローをし……出産が無事に終わるようにと気遣ってくれている。


 お義父さんやお義母さんもよく顔を出しにくるし、実家にいつでも来てくれと言ってくれていて……あれこれ手伝ってくれているけども、コン君達の方がやる気も回数も増し増しといった感じだ。


 おかげで俺としては助かるばかりで……そんな様子を横目で見たなら、皆に美味しい天ぷらを食べてもらうために気合を入れて、調理に取り掛かるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] うんと苦いの、花が咲いてちょっと伸びたくらいのをアクを取らずにフキ味噌にする、とかでしょうか…自分はほろ苦い位が良いかなー(・∀・;) 好きな人はむしろ苦いのが良いと聞いたことはありますが…
[一言] 簡単に何でも作れる訳じゃないんだよね。 コン君も実椋の保存食失敗から学ぶのは新鮮っぽい
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