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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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久しぶりの畑仕事


 凍み大根とどんぐり豚の相性が予想以上に良かったことが証明され……あまりに良かったがために我が家の備蓄米が全滅し、米を買いなおしたり、軒先に凍み大根を干したりとし……なんだかんだと日々が過ぎていった。


 そのうちに寒さが緩み、降雪が落ち着き……降り積もった雪が減ってきた所で、畑の栗の木の剪定が行われることになった。


 剪定するとそこから樹液が流れたり、虫や病気が入り込んだりする……が、休眠期である今辺りにやると樹液が流れることはなく……虫や病気も寒さのおかげで入り込みにくくなっている。


 春になれば接ぎ木を開始する必要もあるので、今くらいに剪定をし、穂木……接ぎ木をするための木を作っておく必要があるとかで……久々に子供達が畑に集合している。


 剪定の目的としては、まず主幹と呼ばれる、木の真ん中の一番高い部分を切り落とすことにある。


 そこを切り落としておかないとどんどん木の背丈が高くなり……手入れも収穫も大変になってしまうからだ。


 主幹以外の枝を残し、上に伸ばすのではなく横に広げていくイメージで育てていくと手入れも収穫も楽になり、そうした方が栗の味も良くなるらしい。


 そしてもう一つの目的として古い枝を落としていくことにある。


 古くなった枝に花は咲かず、実もつかないので古い枝を落とし、花を咲かし実をつける新しい枝だけに栄養を行き渡らせる。


 そうすることで安定して美味しい栗を収穫出来るようになる訳で……どこの枝を落とすかとか、どうやって落とすかなどは、木に登り、直接枝の確認をした子供達の判断に任せることになる。


「ひゃっほー!」


「久しぶりに木の匂い!」


「冬は虫いないから楽でいいねー」


「病気も変な傷もないよー! 皆元気!」


「はやくお鍋たべたーい!」


 なんて声を上げながら元気いっぱいの子供達が木に登り、慣れた手つきで次々に剪定していき……落ちてきた枝の中で良さそうなものを拾い上げたテチさんが、それを穂木にするための手入れをしていく。


 タオルで綺麗に拭いて、水気を取って……それから一旦キッチンペーパーに包んで放置することで更に水気を抜き、それから穂木用の保護シートに包む。


 あとは出番が来るまで冷凍庫に入れておけば良いらしく……春になったら樹木医の久々能智さんから買った台木……病気に強い栗の木に接ぎ木をしたら完成だ。

 

 そうすることで病気に強く、先祖代々引き継いできた栗の味の木が出来上がり……それを毎年繰り返し、古くなって枯れた木の代わりに植えることで畑を維持しているという訳だ。


 経年で枯れなくても病気で枯れたりとか、災害……大雪や大風で折れたり、落雷で焼けたりもする訳で、毎年新しい木を作ることも畑を維持するためには大事なことだった。


 そんな皆の作業の様子を見守りながら俺は、休憩所の調理場を使って、3つの大鍋で鍋料理を作っていた。


 寒さが緩んだとは言えまだまだ春は遠く、晴れているとは言え風は冷たく……そんな中で仕事をしてくれた皆のための体を温める鍋料理という訳だ。


 一つは石狩鍋、もう一つは芋煮、そしてもう一つは鍋というかおでんにしていて……どれも子供達のリクエストを受けての内容となっている。


 石狩鍋も芋煮も、そしておでんもテレビでよく見る料理となっていて……一応おでん種とかはスーパーとかでも売っているのだけど、専門のおでん店などは森の中には中々レアで……ましてや子供となると、食べる機会はとても少ない。


 おでんのお店とかは特にお酒を飲むこと前提となっている所も多いからそれも当然で……そういった機会の無い子供達が、お店のようなおでんを食べたいとの声を上げたという訳だ。


 ……正直プロ並の味を期待されると困ってしまうのだが、それでもできる限りのことはやろうと、しっかり出汁を取り、出来るだけ具材を手作りし……ついでにタコやらのちょっとお高い具材を入れての、出来るだけそれっぽくしたものとなっている。


 芋煮もお肉多めにして……石狩鍋もしっかり良い鮭を使って、出来る限り……本当にできる限り美味しくなるようにしたものとなっている。


 そしてそんな鍋の匂いは畑まで漂っていっているようで……時折、作業をしている子供達がこちらへと熱視線を送ってきていた。


「危ないから作業に集中して! ちゃんと皆の分あるから心配しなくて大丈夫だよ!」


 俺がそう声をかけると、子供達は作業へ意識を戻し……少しでも早く鍋が食べたいのかシュババッと素早く動き、作業を進めていく。


 剪定ハサミやノコギリを使い、素早く丁寧にしっかりと仕事をし……お昼を少し過ぎた頃に作業を終わらせた子供達は、テチさんの指導の下、丁寧な手洗いうがいが行われ……それが終わったなら、休憩所に用意しておいた大きめの器を手に取り、食べたい鍋の前に並ぶ。


 俺とテチさんで手分けしながら盛り付けをしてあげると、こぼさないように慎重に慎重に……宝物でも運ぶみたいに器を自分の席へと……休憩所にある木製椅子へと持っていき、それから目の前のテーブルに器を置いて箸を手に取り、


「いただきまーす!」


 と、元気いっぱいな声を上げて器の中身を口へ運び始める。


 あつあつな鍋の具材を勢いよく口に運べば、当然の結果としてはふほふと口の中で具材を冷ますことになるが……それすらも楽しいとばかりに子供達は笑顔を弾けさせ、あつあつの鍋を予想以上の勢いで食べていく。


 久しぶりに友達と集まって、元気いっぱい仕事をして、まだまだ寒いとは言え青空の下で食事をしたならそうなるのも当然で……鍋本来の味以上に美味しく感じる昼食を存分に堪能していく。


 そんな子供達の中にはコン君やさよりちゃんの姿もあり……試作品を何度か食べている二人だったが、そんなこと関係ないとばかりに鍋を堪能している。

 

 食べ慣れた味であっても、この空気の中でなら特別美味しいということなのだろう、その箸の動きが止まることはない。


 そうしてあっという間に3つの大鍋が空となって……冬の剪定と鍋パーティが終了となる。


 その際にテチさんが、


「春になったらまた忙しくなるぞ! 木の植え替えに追肥! 畑全体の手入れに、クルミの世話もある!

 何なら私の出産も控えているし、皆には頑張ってもらうことになる!

 今年もよろしく頼む!」


 と、無駄に気合と力のこもった声をかけると子供達は、


「わーい!」

「がんばるー!」

「赤ちゃん楽しみ!」

「また美味しいご飯食べたい!」


 なんてことを口々に良い……それから久しぶりに友達といっぱい遊べるぞとばかりに駆け出したり、じゃれ合ったりし始め……食後のお遊戯タイムへと突入するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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