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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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戻しと山菜


「さて……まずは戻し作業から。

 凍み大根や凍み豆腐、身欠きニシンなんかの乾物は基本的に冷水で一晩かけて戻すのが良いとされているね。

 一晩かけてじっくり……なんだけど、今はそんな待ってられないから時短で行くよ。

 戻し汁は後で使うから綺麗な耐熱容器を用意して、そこにお湯を入れて凍み大根を入れたら……レンジで温める。

 温めたらしばらく放置で大体戻るから、これを一つ一つやっていくとしよう」


 と、そんなことを言いながらガラス容器を準備し、それにお湯を入れて頂いた凍み大根を入れて、レンジに入れていると、さよりちゃんがいつもの椅子から疑問を投げかけてくる。


「えっと……一晩かけなきゃいけないのをレンジでやっちゃって良いんですか?」


「あんまり良くない……けども、急ぎの時は仕方ないよね。

 それに劇的に味が落ちるって訳でもないからね……食感も少し変わるけど、これはこれで一つの楽しみ方なんだと思えば悪くない食感だと思うよ。

 食べられない程味が酷くなるとか、食材が駄目になるとかはないから、忙しい人はガンガン時短しちゃて良いんじゃないかな」


 なんてことを言っているとレンジがアラームを慣らし……鍋つかみでガラス容器を取り出したら、今度は身欠きニシンをまな板の上に並べて……そこであることを思い出し、急遽お米を洗って炊飯器に入れてスイッチを入れ、炊飯を開始する。


「……なんでご飯炊いてるの? ご飯足りなかった?」


「……えっと、ニシンはそのままで良いんですか?」


 するとコン君とさよりちゃんがそう聞いてきて……事情を知っている御衣縫さんがニヤニヤする中、新しいガラス容器を用意し、そこにお米の研ぎ汁を流し込みながらコン君達に疑問の答えを返す。


「えっとね、お米の研ぎ汁……というかぬかはカッチカチの身欠きニシンを柔らかくしてくれるのと、臭みの原因である酸化した脂分を取り除いてくれるんだよね。

 だから米糠があるならそれを溶かしたお湯で戻しても良いし、こうやって米の研ぎ汁で戻しても良いんだ。

 逆に糠なり研ぎ汁なりを使わないと、中々きつい匂いになっちゃうから注意だね。

 それと米の研ぎ汁って痛みやすいから、常温で放置はせずに冷蔵庫なんかで一晩寝かせたほうが良いね。

 冷蔵庫が無理なら……やっぱりレンジになるのかな、ニシンは凍み大根よりもカッチカッチだから少し長めにした方が良いかな、もちろん一晩かけたほうが柔らかくなるし、臭みも抜けてくれると思うよ」


 なんて事を言いながらレンジに入れてスイッチを入れ……お次は凍み豆腐。


 凍み豆腐は、凍み大根や身欠きニシンよりは気を使わなくても良いというか、適当にお湯で戻しても良いとされているので遠慮せずにレンジで温め……それらが戻るまでの間に、残りの具を用意し切り分けていく。


「凍み大根や身欠きニシンと相性が良いのはやっぱりニンジンかな、そしてタケノコ。

 あとはシイタケやコンニャクがあっても良いし……あとはワラビを入れたりもするんだったかな。

 昆布も良いんだけど……テチさんがいるから今回は無しかな、昆布はヨウ素が多めだからね」


 なんて説明をしながら具材を用意し、切り分け、適当な器に入れていると、ワラビと言う部分にピクリと反応した御衣縫さんが説明の続きをしてくれる。


「ワラビを入れたら田植え煮物ってな、田植えん時にその煮物と握り飯を持っていって、休憩時に腹ごしらえをしたんだ。

 それと……おいら達のご先祖様にはニシンの漁場側で暮らしてたもんもいてな、春になったらニシンの干場にいって、身欠きニシンをちょいと失敬してイタドリの茎とヤマブドウの新芽を合わせて軽く塩を振ったのをごちそうとして楽しんでいたらしい。

 ……だがイタドリはえぐみがたっぷりで食いすぎると腹壊してぶっ倒れるから、いつの頃からか食べなくなったらしくてな、その代わりにワラビを使ったとかなんとか。

 だからかこの辺じゃワラビが大人気でなぁ……近所に山程生えてくれるからな、今度持ってきてやろう」


「おぉー……良いですねぇ、ワラビ。

 ……そうかぁ、この寒い季節を乗り越えたら山菜の季節かぁ、俺、フキノトウとかも好きなんですよねぇ」


 と、俺がそう返すと御衣縫さんは目を鋭くしてニヤリと笑い、言葉を返してくる。


「そうかそうか!

 獣ヶ森の早春はそこら中で山菜が採れるからなぁ、楽しみにしとくといい。

 ウド、ワラビ、ゼンマイ、フキ、ノビル、タケノコ、タラの芽、三つ葉。

 食っても食ってもなくならない、春の恵み……ま、山菜はどれも食べすぎると腹下すからな、程々にしとくんだぞ」


 そう言われて俺は少し驚き手を止めてしまい……そんな様子に気付くことなくコン君とさよりちゃんが声を上げる。


「オレ、タケノコ大好き! いくらでも食べちゃう!」


「私はタラの芽が大好きです、とれたての天ぷら、春になったら山程食べちゃいます!」


 すると御衣縫さんは、


「そうかそうか、腹壊さない程度にいっぱい食べると良い。

 山菜は冬の毒を取り去ってくれる、とも言われているからなぁ……食べ過ぎもよくないが、全く食べないのもよくないからな、よぉぅ食べると良い。

 タケノコもタラの芽も、うちの近所で腐る程手に入るから、いつでもとりにおいで」


 と、返し……ようやく作業を再開させた俺は、鍋を用意し煮込みの準備をしながら、浮かんできたある疑問を口にする。


「……この辺ってそんなに山菜採れるんですか?

 俺がよく行っていた山は、あっという間に近隣の人に採られちゃってほとんど手に入らないっていうか、見つけられたらラッキーレベルなんですが……」


 すると御衣縫さんはにっかりと笑って言葉を返してくる。


「知っとる知っとる、門の向こうじゃそんな感じで、高値で取引されてるんだろう?

 だがこっちでは値段がつかんくらいには余ってるもんで……これも扶桑様の恵みってところなんだろうな。

 うちでも収穫して門の外に出荷したりもしてるが……ここらじゃ考えられん程の高値で売れるもんで、良い小遣い稼ぎになっとるよ」


 まさか山菜が余るレベルとは……それは春が楽しみになったなぁ。


 特にタラの芽やフキノトウの天ぷらは信じられない程に美味しいし……うん、春が楽しみになってきた。


 なんてことを考えながら戻し汁ごと凍み大根、凍み豆腐を鍋に入れ……残りの具材を、身欠きニシン以外を入れて醤油、さとう、みりん、日本酒を入れたら中火で煮込み始める。


 そして身欠きニシンは……戻し汁から上げたら、深さのある器に入れて、熱々の番茶をかけ……少しの間、番茶に浸す。


 それが終わったら流水で洗い、綺麗に鱗を取り……適当な大きさに切り分けてから鍋に入れ、他の具材と一緒に煮込んでいく。


「ほー、番茶か。

 うちは緑茶でやっちまうなぁ……所違えばってことなのかねぇ」


 すると御衣縫さんがそんなことを言ってきて……、


「いや、緑茶は贅沢すぎません……?」


 と、そんな言葉を返す。


 まさかここらでは緑茶も格安で手に入ったりするのだろうか? なんてことを考えながらもう一つ鍋を用意し、野菜多めの味噌汁を作り……そうこうしているうちにご飯が炊きあがり、炊きたてご飯、具材たっぷり煮物、味噌汁が出来上がる。


 あとはそれらを盛り付け、テチさんが待っている居間に持っていって配膳して……それが終わったなら御衣縫さんを含めた皆で席につき『いただきます!』と皆で声を上げたなら箸を手に取り、それから一斉に出来たての煮物へと箸を伸ばすのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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