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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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おすそ分けの使い道


 用意した牛肉がどんどん消えていく、ついでに野菜も消えていく。

 

 ご飯なんて必要ないとばかりに、ただただすき焼きだけを食べ進めるテチさん達に気圧されていると、そこにゾロゾロと明夫さんやフキちゃんユカリちゃん、それと従業員の皆さんもやってきて……テチさん達を見るなり、自分達も食べたくなったのか、物凄い勢いですき焼きの準備を始める。


 そして出来上がるなり食べ始めて……二、三口程食べて落ち着いた頃に、色々な種類の猫の獣人がいるらしい従業員の一人……青黒い毛の男性が声を上げてくる。


「……うぉ!? よく見たら耳がない!? に、人間だ、本当にいたんだなぁ!」


 ……その言葉を受けて今まで気付いていなかったのか、なんてことを考えていると別の従業員が声を上げる。

 

「あー……テレビで普通に見るせいか、いざ目の前にいても違和感ないもんだなぁ」


「前から噂になってたじゃん、スーパーとかで見かけるって」


「こうして目の前にしてみると……なんか普通だな」


 もうそろそろ獣ヶ森に来て10ヶ月になるのだけど、それでもこんな認識なんだなぁ。


 生活空間のどこかですれ違っていても良さそうだけど……夏は熱中症予防に麦わら帽子とか被っているし、そうなると見分けがつかないのかもしれないなぁ。


「栗畑で働いている森谷です、よろしくお願いします」


 一応挨拶した方が良いかとそう返すと、従業員さん達は順番に挨拶をしてくれて……そしてすぐにすき焼きに意識を戻し、食事を再開させる。


 初めて見る人間に興味がありつつも、食欲の方が強いらしく夢中で食べ続け……そうしてまずテチさん達が満足して食事を終えて、それに続いて明夫さん達も食事を終える。


 とっくのとうに満腹になっていた俺は、すぐに片付けを始め……従業員さん達も手伝ってくれて、フキちゃんもしっかり手伝いをしてくれる。


 そんな片付け作業の中でフキちゃんは一生懸命従業員さん達に話しかけていて……そうやって仲良くなろうとしているようだ。


 懸命に話しかけ名前を覚え……元々明るい性格でコミュニケーションも得意だからか、ぎこちなさもなく順調に進んでいる。


 なんだかんだ良い牧場主になるんじゃないかなと思うと同時に、本気でやろうとしていることが分かって他人ながら嬉しくなってしまう。


 そして……片付けが行われているキッチンの入り口には、こっそり覗き込んでいるつもりらしい明夫さんがいて、孫娘の成長が嬉しいのか、とんでもなく緩んだ顔をしていて……その顔のままどこかへ行ってしまう。


 ……まぁ、お爺ちゃんというのはそういうものなんだろうな……と、そんなことを考えていると、従業員さん達が動き始め、何故だかキッチン隅にあったビニール袋やらを広げ始める。


 ゴミ袋はちゃんとあるし、わざわざそんなもの用意する必要なんてないだろうに……と、思うのだけどそれでも従業員達は何かに向けての準備をしていて……そこに明夫さんがやってくる。


 両手で野菜がいっぱい押し込まれたダンボールを持って……。


「なんだか今日は楽しくなっちゃったから、皆持って帰ってよ。

 これから肉も用意するし、野菜もまだまだあるからさ……ちょっとまっててね」


「ありがとうございます、社長」


「いつもお世話になってます、社長」


「おかげで食費が浮いて大助かりです」


 明夫さんの言葉に従業員達は慣れた様子で言葉を返していて……どうやらいつものことのようで、もらった野菜やらを持ち帰るためのビニール袋だったようだ。


 少し前から疑っていたけど、どうやら明夫さんは畑もやっているようで……肉と野菜をこんなに貰えたなら食費がかなり浮くのだろうなぁ。


「森谷さんも追加で色々用意させていただくんで、遠慮しないでくださいね。

 まぁ、なんでもない野菜ばっかりになりますが……ああ、そうだ、あれもあったな」


 そして明夫さんはそんな事を言ってからまたどこかに行き……そしてすぐに大量の新聞の塊を持って帰ってくる。


 それは新聞の塊というか何かを新聞で包んだもののようで……大きさから大根かな? なんてことを考えていると明夫さんが新聞を剥いて大きな大根を見せてくる。


「この大根、うんまいんだが大きい上に数が多くて食いきれないんでね、どうぞ持ち帰ってくださいよ。

 他にも肉と野菜もありますから……何か入れ物がいりますね」


 と、そう言って明夫さんはまたどこかに行って……またダンボールやら野菜やら追加の大根やらを持ってきて、それからキッチンの冷凍庫から肉の塊を出してくる。


 そしてそれらをビニール袋に入れた上でダンボールに詰めて詰めて……大きなダンボール3個分程の荷物が出来上がる。


「おー……野菜いっぱいだ、大根が特に多い!

 オレ、にーちゃんが作る大根煮込みすきー」


「あれ美味しいですよね」


「甘味噌がちょうど良いんだよなぁ」


 その様子を見てコン君、さよりちゃん、テチさんがそんなことを言い……俺は特に多い大根を見やりながら、この量をどう消化したものかと頭を悩ませる。


 大根……今は冬。おでんにしても良いけど、おでんとなると他の消費が多くなるし……大根はあまり消費出来ないだろう。


 大根煮込みも美味しいけど……そればっかりだけだと飽きるしなぁ。


 大根は保存性の悪くない野菜だけど、かといって悪くならない訳じゃないし……。


 ……あ、そうか、アレがあったな、一応保存食のアレなら悪くないかもしれない。


 美味しいかと言われるとまぁそこまでじゃないけど、色々な料理に使えるしなぁ。


「ありがとうございます、これら使って料理とか保存食とか色々作りたいと思います。

 ちょうど今寒い時期なんで……凍み大根とか良さそうで、ちょっとワクワクしますね」


 と、俺がそう返すと明夫さんは笑顔でうんうんと頷き……そしてテチさんとコン君達はきょとんとした顔で首を傾げる。


「シミダイコン?」


「なんか変な名前」


「あー……なんか、なんか聞いたことあります!」


 そしてテチさん、コン君、さよりちゃんの順でそう言って……そんな皆に俺は、


「面白い保存食だよ」


 と、そう言ってからダンボールを抱えて、駐車場の車へと運び始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近は普通に料理してから、久しぶりの昔ながらの保存食系な気がする。 果物系も干したら甘さが凝縮されるみたいだし、いろいろ出来そう。
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