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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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長森さん


 お爺さんが用意してくれたのはかなり大きい肉塊だったのだけど、テチさんとコン君達だけでなくフキちゃん達まで参戦したことであっという間に食べ尽くされてしまった。


 よくもまぁアレだけの塊を食べてしまえるものだと驚くけども……さすが獣人という所なのだろう。


 そして食べ終えるなり冷静さを取り戻したフキちゃん達は、ダイエットだと外に飛び出していって……エネルギー充填完了で元気さを持て余しているコン君達もそれに続く。


 俺もそれを追いかけようかと思ったけども、テチさんは休憩するようなのでそれに付き合うことにし、大人しく事務所のソファにテチさんと並んでゆったりと座って待機することにする。


 するとお爺さんが事務所の棚から集めのファイルを取り出してからこちらにやってきて、俺達の前のテーブルに広げて「どうぞ」なんて声をかけてくる。


 一体何のファイルだろうと目を通すと、各部位ごとに切り分けられた肉の写真と1キロ辺りの値段が書かれていて……どうやらこのファイルはこの牧場に肉を注文した場合する際のメニューであるらしい。


 牛肉、豚肉、鶏肉、羊肉……何枚もの付箋で区切られたそのページには多種多様な肉の写真がファイリングされていて……ページをめくりながら首を傾げた俺は、お爺さんにある疑問を投げかける。


「豚とかニワトリって見かけませんでしたけど、どこか他の場所で飼っているんですか?」


 するとお爺さんは事務所の裏手の方を指さしながら言葉を返してくる。


「ああ、豚とニワトリはこの奥にある専用の厩舎で飼ってますよ。

 豚もニワトリもほら、感染症が怖くてねぇ、外から完全隔離した特別製の厩舎じゃないと危ないんだよねぇ。

 野生の鳥とかネズミとかが入らないようにした、無菌室に近いとこで飼ってて……世話をするために人が入る時にも二重三重の消毒と着替えが必須なんさ。

 だからこっちのついでに飼うとかはまず無理だから、そっちは人を雇って完全に任せちゃってるな」


「あー……鳥インフルとか豚インフルですか……」


「そうそう、獣ヶ森はほら……豚とニワトリには特別気を使わないとなんだよねぇ。

 獣人を経由することで人獣共通感染症がおかしな変異をしかねない環境だからぁ……ま、扶桑の木があればそこら辺を心配する必要はない、なんてことを言う連中もいるんですけどね、それでも気をつけるに越したことはないでしょ?」


「あー……そうですねぇ、変に病気が流行してからじゃ遅いですしね。

 ……っていうか扶桑の木って感染症にも影響するんですか? 防いでくれたりするんですか?」


「ん~……まぁ、ほら。

 扶桑の木は生命力を増やしてくれるっていうかな、そういう感じで? で、その影響を受けて育った野菜とかを食べていると自然と抵抗力が上がるし……いざ病気になったら扶桑の種を食べれば良いっていう連中もいるんだよねぇ。

 扶桑の種は高カロリーで色んな栄養が含まれていて、それでいて消化されやすいからぁ……病気の時に食うには一番なんだよねぇ。

 医者によっては点滴より体に良いって言うやつがいるほどさ」


「あー……あー……そうか、そう言う感じになるんですねぇ。

 なら赤ちゃんにも良かったりするんですかねぇ?」


 と、俺がそんなことを言うと、隣で黒豆茶をゆっくりと飲んでいたテチさんが声を上げてくる。


「私は食べないぞ、よく分からないものを赤ちゃんにあげたくないからな」


 扶桑の種は昔からこの森にあるものでテチさんも既になんらかの影響を受けているはずで、何ならコン君達も食べていて特に体調を崩した様子もないのだけど……それでも何か気になるものがあるらしい。


 ……普段のテチさんならあまり気にしなさそうだけど、妊娠中ということで普段とは違った感じに気を張っているのかもしれない……うん、そういうことなら特に何も言わず、テチさんの希望通りにした方が良いのだろう。


 ということで俺は何も言わずに頷き、お爺さんも「それが良い」とそれだけを言って頷き、おかわりの黒豆茶を用意してくれる。


「黒豆茶はうちのばーさんや、娘も妊娠中に飲んでいて……むくみとか冷え性とか、そういうのが良くなるとかで妊娠中に飲むには良い茶らしいよぉ。

 カフェインは良くないから、出産までは黒豆茶を飲むようにすると良い。

 美容にも良いし、よく眠れるようにもなるらしいし……他にも色々良いことがあると聞いたねぇ。

 家に在庫がないならうちに余ってるのを持っていったら良いし、更に欲しいなら連絡すると良い、知り合いの農家が作った有機栽培ってやつのを用意しておくよ」


 おかわりを用意しテーブルに置くついでにお爺さんがそんなことを教えてくれると、テチさんの目がギラリと光り、淹れたての黒豆茶を飲みながら「お願いします」と、力を込めた声が上がる。


 するとお爺さんは機嫌良くにっこりと笑い……在庫の黒豆茶を持ってきてくれるのか、事務所の奥へと歩き去る。


「……ついでに肉も持ってってぇ! うちで色々作ってる加工品もあってぇ! それもいくらか用意しておくよぉ!

 んで、また食べたくなったらそのファイルに書いてある電話番号で注文してぇ! 加工品は後ろのページにあるからぁ! どれもこれも今日食った肉みたいに美味いもんばっかだよぉ!」


 歩き去ったかと思えば、そんな大声が響いてきて……どうやら事務所の奥で黒豆茶だけでなくあれこれとお肉を用意してくれているようだ。


 そしてよく見てみればファイルの表紙には森谷家用注文表なる文字が書いてあり……どうやらこのファイルは事務所に常備してあるものではなく、俺達のためにわざわざ用意してくれたものらしい。


 そうなると……黒豆茶も俺達のためにわざわざ用意してくれた可能性が高く、どうやらフキちゃんのお爺さんは世話好きというかなんというか……とても良い人であるようだ。


 そんなお爺さんの名前は……ファイルの下部に書いてあり、長森 明夫あきおさんという名前であるらしい。


 長森牧場の社長である明夫さんは、数分後に事務所の奥から満面の笑みで戻ってきて……その両手にはやたらと大きい、今にも破れてしまいそうなくらいに色々なものを詰め込まれたトートバッグがぶら下がっていた。


「黒豆茶と肉と加工品と、それと卵とヨーグルトも用意しといたから!

 美味しいもんたっぷり食べて元気な赤ちゃん産まないとね!」


 そして満面の笑みのままそう言ってきて……うん、本当にお世話好きな人であるようだ。


「あの……これだけの量ですし、お金払いますよ?」


 どれもこれも明らかに牧場の商品で、とんでもない量で……タダでもらうわけにはいかないと考えて俺がそう言うと、お爺さんは露骨に不機嫌……というか、落ち込んだような顔をする。


「実椋、ここは長森さんの気持ちに甘えるとしよう」


 するとテチさんがすぐにそう言ってフォローをしてくれて……瞬間、明夫さんの笑顔がまた輝き出す。


 ……商売人としてはどうかと思うけど、助かるのは事実、ここは素直に甘えておくかと頷くと、明夫さんはトートバッグに詰め込んだ自慢の商品の紹介を、なんとも嬉しそうにし始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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