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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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語るレイさん


 カレー勝負が終わり、片付けやら歯磨きタイムが終わり……そしてお茶を飲んで一息ついてのまったりとした時間。


 テチさんとコン君、さよりちゃんの三人が洗濯の練習をしたいとかで、カレーの汁がちょっとだけ飛んでしまった割烹着を洗いにお風呂場へと向かい、居間はなんとも静かな空気に包まれていた。


フキちゃんはコタツに足を突っ込み寝転がってすやすやと寝息を立てての完全なふて寝モードに入っていて……そんなフキちゃんを起こしてしまわないように俺もレイさんもただ静かにするしかなかったのだ。

 

 とは言え、いつまでもそうしているのも変な話で……席を少しだけ移動し、フキちゃんから距離を取った上で、こたつを挟んで向かい側に座ったレイさんに小声で話しかける。


「……フキちゃんには婚約者がいたはずだけど、それでも気になった相手に恋人がいるとなると、あんな風になるもんなんですね」


 するとお茶を飲んでいたレイさんは、苦笑してから小声を返してくる。


「あのくらいの年齢の子にはよくあることだな。

 テレビとかで見る青春とか恋愛はこことは別物で……婚約とかはほぼなくて、自由で楽しい高校か大学生活の中で相手を自分で見つける恋愛に憧れるっていうかな。

なんで自分はテレビの向こうの世界にいないんだって思っちゃって行動をして……失敗して。

 夢を見ていた分だけショックも大きくて、グレたりする子も少なくはないな。

 まぁ、これはフキちゃんや恋愛ごとに限った話じゃなくて……そこら中でよく聞く古い慣習の欠点ってやつだな」


「なるほど……まぁ、確かに問題も多そうですね。

 子供達の力を借りているうちとしては耳が痛い話ですけど、子供のうちは遊びたい、普通に子供でいたいって子は多いはずですし……古い慣習を変えた方が子供達のためなんですかね」


「どーだろうなぁ……若いうちに稼げるだけ稼いでおけば将来の不安はうんと減るし、焦って変な職につくこともないからな、長い目で見ると悪いとも言い切れないんだよな。

 実際、富保爺さんのとこで働いた人は皆、良い暮らししてっからな……中には中央の、あー……門の外で言うところの議員みたいなのになった人も結構いるんだぜ。

 オレみたいに商売で成功しているのも多いし……そういう成功例があることを思うと、中々なぁ。

 つるけしみたいに大人になっても獣の力を残せるなら色々な道があっても良いと思うんだけどな……」


 御衣縫つるけしさん、近所の神社の神主である御衣縫さんは大人となった今でもタヌキそっくりの姿で……獣としての身体能力を有したままらしい。


 それはとても稀な、偶然によるものらしく……意図してそうなることはできないらしい。


 大人になれば人の姿となり、獣の力を失い……出来る仕事が少なくなってしまう。


 だから獣の力が残っている子供のうちに働いて稼いで、稼いだ財産を守るため良い相手との婚約をして……将来の安定を保証する。


 一度社会を経験した身からすると納得出来る部分もあるのだけど……フキちゃんのようにそうではない道というか世界というか、青春時代を過ごしたいと思う子もいるのだろうなぁ。


「……フキちゃんみたいな子って、どうなんです? 恋愛に憧れて我を通したとして幸せに暮らせるものなんですか?」


 そう問いかけるとレイさんは目を丸くしながら言葉を返してくる。


「そりゃそうだろ。

 っていうか、その例がお前の目の前にいるだろ? オレだって自由恋愛の成功者だぜ?

 フキみたいな子は主流じゃないかもしれないが、それなりにいるし、そういった子が集まって……集団デートっつうか修学旅行の真似? みたいなことをして、青春っぽいことを楽しもうとしたりもしてるんだぜ。

 それに眉をひそめる連中もいるが、それで幸せになるなら構わないという大人も多いしなぁ、全然問題ないだろ。

 ……そもそもあの子、婚約してんの? 相手は何してんだよ、学生時代の数少ない冬休み、一緒にいなきゃ駄目だろうが。

 コンやさよりみたいに常に一緒にいるくらいが普通なんだぞ、婚約者って」


 そう言われて俺が……勝手にあれこれ言うのもアレなので距離を置かれているらしいということと簡単な説明をすると、レイさんは唖然といった表情となり、そしてすぐに呆れでいっぱいといった表情となる。


「そりゃそんなことされたら愛想をつかして当然っつか、恋愛に憧れたくもなるだろうよ。

 ……つーか、家族は何してんだよ? ちゃんとフォローしてやれってんだよ……。

 んでとかてちのとこに相談にきて、とかてちは頼る相手として友達を紹介することにして実椋は将来のために家事を教えてやってる……と。

 ……あー、さてはとかてち、フキちゃんの実家に根回しか何かしてるな? それでその結果が出るまでフキちゃんを目の届くとこに置こうとしてるんだろ。

 まー……子供を預かる保育士としちゃぁ心配になるのも分かるが、あんまり他人があれこれやりすぎてもよくねぇんだがなぁ。

 んー……しょうがねぇなぁ、ここはこのお兄様がとっても頼れる人材を一人、紹介してやるとするかなぁ」


 と、そんなことを言ってレイさんは自分の膝をバシンッと叩いて立ち上がり、ポケットからスマホを取り出し、どこかに電話するためか廊下に出ていく。


 それと入れ替わりになる形でお風呂場での漬け置き洗いを終えたというか、割烹着を漬け置き液に漬け込んできたらしいテチさん達が戻ってくる。


「……そんなに難しくなかったな? 私は今までなんでもかんでも洗濯機に入れればそれで良いと思っていたよ」


「簡単だったけどあの洗剤、毛が変になるからちょっと嫌だなー」


「あとでしっかり手入れしておきましょうね」


 テチさん、コン君、さよりちゃんの順番でそんなことを言いながらコタツに入り込み、それからフキちゃんが寝ていることに気付いて、コン君とさよりちゃんは指に人差し指を当てて「しー!」と言い合う。


 そしてテチさんはコタツの側に置いてあるバスケットの中から毛布を取り出し、フキちゃんの肩にそっとかけてあげる。


 コタツに入ったままそんなことをすると暑くなりすぎると思うのだけど……まぁ、体を冷やしてしまうよりは良いのかもしれない。

 

 暑すぎれば嫌でも起きるのだろうし、起きれば毛布を跳ね除けるはずだ。


 なんてことを考えているとレイさんがスマホ片手に戻ってきて、良い笑顔でのウィンクをして親指を立ててくる。


 頼りになる誰かに話をつけたということなのだろう、それを受けて俺はテチさんに、レイさんが何をしたかと伝えるため、小声で話しかけるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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