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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第十章

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頼れる助っ人


 三種のカレーを盛り付け、順番に食べ始め……まず口に運んだのはコン君のポークカレーだ。


 至って普通、俺が何度か作ったものだけあって、それを側で見ていたコン君の手際は中々のもので、完成度もかなり良いものとなっている。


 あえて言うなら肉が少し焼きすぎで、表面がカリカリになっているけども、この辺りは好みの問題なので、これはこれで良いという人もいるのだろう。


 コン君はカリカリベーコンが好きだし、そこら辺を意識してのことなのかもしれないな。


 ……うん、野菜も問題なし味も問題なし、レシピを忠実に守っているので特に問題もなく、普通に美味しい。


 次はさよりちゃんのバターナッツカレー。


 これはなんとも好みの分かれそうな結果となった。


 何しろクリが強すぎる、甘いし香りが強いし、スパイスの中でもしっかり自己主張している。


 クリが大好きな人はこれで良いと言うのかもしれないが、そうではない普通にクリが好き程度の人には邪魔になっているかもしれず……個人的には悪くないけども、最高! とも言えない味になっている。


 まぁ、クルミが地味にいい仕事をしているし、味付けも悪くはない塩梅だし、そこまで悪く言うものでもないかもしれない。


 今回はナンを用意できなかったけども、ナンを用意していたらまた印象が変わった……のかもしれない。


 そしてフキちゃんのフルーツカレー。


 フルーツカレーはその名前と印象から食べたことがない人からはあれこれと言われるけども、一度食べてみると「ああ、こういうのも良いね」と言われるようなカレーで……フキちゃんのもそういった仕上がりになっている。


 見た目はフルーツまみれで驚くけども、トロピカルな味の組み立てとなっていて、ナッツがしっかり食感を補強してくれていて、香り強めのスパイスを入れたおかげか、香り豊かなカレーに仕上がっている。


 米も甘みの少ない品種にしたのが効いていて……うん、美味しいと言って良いレベルだろう。


 俺が手伝ったとはいえ、初めての料理でこれなら大したもので……自慢しても良いのかもしれない。


 実際フキちゃんは食べる前にフルーツカレーの写真をスマホで撮影していて……それを友達に送り、リアクションを楽しんでいるようだ。


 しかしそうか……今の世の中だとそういう料理の楽しみ方もありな訳か。


 美味しそうに見える、見栄えのする料理を作って皆に見てもらう……それだけが目的になってしまうと良くないのかもしれないけども、それで少しでも料理が楽しくなってやり甲斐となるのなら悪くないのかもしれない。


 他の家事も……綺麗になった部屋の様子とか、綺麗に洗って干した洗い物とか、自分で作ったり刺繍をしたりした服とか……うん、工夫次第で良い写真になるかもしれないなぁ。


 次回はそういった話もしてみるかと、そんなことを考えながら周囲を見回し……三種のカレーを食べる皆の様子を観察する。


 コン君はポークカレーを楽しんでいて、さよりちゃんはバターナッツカレー、フキちゃんはフルーツカレーで……まぁー、当然の結果かな。


 誰だって自分で作ったものを美味しく感じるもので……自分の好みのものを作ったのだからそれは尚更で、投票となったらそれぞれ自分のカレーに投票するに違いない。


 そして俺が投票するなら正直な所……まぁ自分のカレー、自分好みを探求したポークカレーに投票するのが当たり前で、テチさんは見た感じバターナッツカレーを気に入っているようだ。


 クリが好きだからクルミが好きだからかとても美味しそうに食べていて……多分投票するならバターナッツカレーだろう。


 ……しかしそうなると、フキちゃんのフルーツカレーが一人負けになる、しっかり美味しく出来たのに一人だけ残念賞という形になってしまう。


 まぁこれは人数を考えれば最初から分かっていたことであり……そのための手はすでに打ってある。


「よぉー! カレー勝負だって? オレにも食わせてくれよ!」


 と、そんな声を上げながらやってきたのはテチさんのお兄さん、レイさんだ。


 そして勢いよく家の中に入ってきて……洗面所で手洗いうがいをしてから、席につきカレーを食べ始める。


 食べて食べて周囲を見回して……そして、


「このフルーツカレーってのいいなぁ! パティシエとしちゃぁ見逃せないよな!」

 

 なんて声を上げてフルーツカレーを夢中で食べ始める。


 今回俺はレイさんを呼ぶ際に、カレー勝負をしているから来てくれと、それだけを伝えていて……それ以上のことは何も言っていない。


 誰に投票してくれとか、バランスを取ってくれとか、一切言っておらず……フルーツカレーを選んでくれそうだからとか、そういった意図で人選をした訳でもない。


 勝負だなんだと言っておいて、そんなやらせというか八百長みたいな真似どうかと思うし……ただ来てくれと呼んだだけだ。


 レイさんならこういう時空気を読んでくれるだろうとか、子供に悲しい思いはさせないだろうとか、何も言わずとも呼んだ意図を察してくれるだろうとか、そんな期待はあったけども、見事それに応えてくれたようだ。


「それじゃー、皆が食べ終わったらどのカレーが一番だったか挙手投票で決めよっか」


 なんてことを言ったりもしたけど、結果は見えていて……そんな俺の言葉の通り、食後の投票は2:2:2という予想通りの結果となり、引き分けとなった。


 まぁ、今回のカレー勝負の目的は勝ち負けじゃなかったし……と、満腹になったお腹を服を膨らませてどうにかごまかそうとしながら居間で休憩しているフキちゃんを見ると、どこか満足そうな表情をしていて……うん、悪い結果ではなかったようだ。


 プロのレイさんに褒めてもらえたというのもあるんだろうし、自分で楽しめたというのもあるんだろうし……なんだかんだ俺達も美味しいと言いながら食べていたし、少しは料理を好きになってくれたかもしれない。


 ……ん? なんだかフキちゃんがレイさんのことをよく見ているような……?


 それも熱視線で……。


 そのことに気付いた俺は食後に淹れたお茶を飲み、慌てながらも平静を装い、声を上げる。


「そう言えばレイさん、彌栄さんとはその後どうなの?

 もう付き合い始めて結構経つよね?」


 するとレイさんはきょとんとしつつも、笑顔で言葉を返してくる。


「おお、順調よ、順調!

 今年の正月には向こうの実家に行く予定で……その時の反応っていうか感触が悪くなければ、その先の話にも進むつもりさ!

 ホテルの一件で経営も安定してるっつーか、順調すぎて笑いがとまんないからなぁ、二人の前に障害はなしって感じだナ!」


 少し調子に乗った様子でレイさんがそう言うと、フキちゃんはショックを受けたのか小さく口を開けて、しばし呆然としてしまうのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] まだ傷は浅い段階ですんだのかな 良く考えたら、みんなフキちゃん以外は相手がいる面子なのか
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