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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第九章 いなり寿司、収穫、お餅に年取りのごちそう

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焼き立て


 たこ焼き器を流し台に運んだなら、軽く洗って水気を拭き取り、キッチンペーパーの上に置いて乾燥させて……それから食材の準備をしようとしていると、手伝いをしてくれていたコン君の耳がピンと立つ。


 どうやら何かを聞きつけたらしいコン君の視線は、縁側の方を向いていて……縁側から買い物袋を下げたレイさんが「よっ!」なんて声を上げながら顔を出す。


「……お久しぶりです、お店は良いんですか?」


 そんなレイさんに俺がそう声をかけるとレイさんは、縁側から家に入り……答えを返す前に洗面所へと向かい、手洗いうがいを済ませてから、腕まくり姿で台所にやってきて声を返してくる。


「今日は休みだよ、休み。

 そんな休みに御衣縫さんに頼まれたからな、来てやったという訳だよ」


「御衣縫さん……と言うと、タコ焼きの話を聞きました?」


「ああ、実椋の料理はあくまで家庭レベルだから、経験のあるオレに教えてやってくれ、だってさ。

 という訳で、素人でもある程度簡単に作れるタコ焼きの作り方を教えてやろう」


 そう言ってレイさんは買い物袋を流し台の横に置き……そこから菜箸を取り出し、洗いながら説明をし始める。


「まず大事な大事な生地についてだな。

 生地はまぁー……市販のたこ焼き粉を使っても良いだろうな、こだわるならエビ粉や出汁粉を用意して薄力粉と混ぜてオリジナルのを作っても良い。

 混ぜる際には牛乳を使うのもありでな、中々美味しくなるぞ。

 ……で、いきなり全部を混ぜてしまうんじゃなくて、水と卵、あるいは牛乳と卵をまず混ぜて、それからたこ焼き粉なり薄力粉を混ぜて最後に出汁粉だな。

 この段階で更に青のりを混ぜても良いし……まぁ、ここら辺の配合に関しては好みもあるから、色々試してみると良い」


 そう言ってレイさんは手早く……勝手知ったる他人の家みたいなノリで材料とボウルやらを用意し、ささっと生地を作り上げていく。


 生地を作り上げたならそれを……タコ焼き用のではなく、持ってきた安物の、100円ショップとかで買えるピッチャーの中に入れる。


 これで生地は準備完了ということらしく、次はたこ焼き器の方へと向き直り、火を漬け……油用のハケでしっかりと油を塗っていく。


「生地が出来たら今度はたこ焼き器の準備……っても、しっかり熱して油をたっぷり使えばそれでOKだ。

 油をケチってもしょうがないから多めにな。

 で、たこ焼き器に具を入れていく順番も大事でな、少しの生地を入れたならしっかり焼いて……丁寧に火を通したいタコを最初に、次に天かすを入れることで油で覆う感じになって更に火が通りやすくなるな。

 それからネギや紅ショウガなんかのそこまで火を入れる必要のない具材を入れて……具材にある程度火が通ったら更に生地を……溢れる直前のギリギリまで入れていく訳だな」


 更に説明をしながらレイさんはささっとタコ焼き作りを始めて……いや、うん、本当に手際が良いなぁ。


 俺が何かをする必要も何かを言う必要もなく、淡々と作業が進められていく。


「生地に火が通ってきたら、返しでもって返して丸めていく訳だが……専用の返しも竹串も良いんだが、オレ的にはこれがおすすめだな、菜箸。

 菜箸の先端を軽く削って尖らせたら、それで普通に挟んで返していけば良い。

 作り慣れていないやつにいきなり難しいことをやらせるよりも、菜箸でやっちまうのが確実で……料理に慣れている実椋ならこれの方が何倍も楽だろ?

 別に菜箸じゃなくて割り箸でも良いが、掴みやすいよう返しやすいように先端を尖らせるのを忘れずにな。

 返す際は周りの余った生地も押し込むようにして……丸く整形していく。

 これに関してはもう何度もやって慣れるしかないから、慣れるまで頑張れ」


 と、そう言ってレイさんは菜箸でなんとも器用にタコ焼きを返していく。


 そうするうちに形が出来上がって、形が出来上がってきたならまたハケで油を……薄く表面に塗って、もう一度返してカリッとした表面になるよう焼き上げていく。


「焼き上がったら皿に盛り付けていって、後はソースやらをかけていくんだが、ソースも適当にかけちまうと不味くなるからな。

 一つ一つに……溶けたチョコレートでコーティングするようなイメージで、丁寧にしっかりとゆっくりと、厚めになるようかけていくんだぞ。

 多すぎても駄目だが少なすぎても駄目で……オレとしては返しよりもこっちに気を使うな。

 しっかりソースがかかっていれば、その後の青のりも鰹節もしっかりと絡んで美味しくなるから、本当にここが大事なんだよ」


 そう言ってレイさんは盛り付けて、味付けまで手早く……驚く程に手早く仕上げていく。


 さすがプロと言うかなんと言うか……特にソースのかけ方に関しては自分には真似出来ない凄まじい技を見せてくる。


 ソースのボトルを手にとって、盛り付けたタコ焼きの上に線を描くようにして動かして……適当にやっているように見えて、どのタコ焼きにも均等に厚めにソースをかけていっている。


 顔を横に倒し皿にぐっと近付けて、目を見開き凄まじい集中力でもってその作業をやっていって……全てのタコ焼きに綺麗にソースをかけ終えたなら、青のりと鰹節を……これまた同じような集中力でかけていく。


「……よーし、出来たぞ。

 出来たら食え、すぐに食え、出来立てこそ最高のスパイスってやつだ。

 冷めたりしたらまたたこ焼き器で焼くのが良いんだが……ソースとかで汚したくないならフライパンだな。

 レンチンは絶対に駄目だぞ」


 そう言ってレイさんはお皿をこちらにすすっと押してきて……俺は慌てて箸を3人分用意し、レイさんとコン君に手渡す。


 それから言われた通りすぐに食べるために出来立てのタコ焼きに箸を伸ばし……熱々であることを覚悟しながら口の中に運ぶ。


 ソースと青のりと鰹節の良い香りが一気に口の中に広がり、噛んだ瞬間熱さも広がり、俺がハフハフとどうにか口の中で冷まそうとする中、コン君は頬袋を大きく膨らませて深く大きく呼吸をすることで、口の中に空気を循環させてタコ焼きを冷ますという凄い技を見せてくる。

 

 そうやって俺の何倍も早く程々の熱さに冷ましたならモグモグッと食べて……そしていつもの目をぎゅっとつぶっての良い笑顔になる。


「……まさかそんな頬袋の使い方があったとはな……オレも子供の頃にやっときゃ良かったよ」


 それを見てレイさんがそんなことを言ってきて……俺はそれに小さく笑いながら、次のタコ焼きへと箸を伸ばすのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] かわいい期間限定の荒業… ね、簡単でしょ?って言われても困るパターンの授業な気がする
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