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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第九章 いなり寿司、収穫、お餅に年取りのごちそう

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冬の前に


 あれから数日が経ち、厳しくなるという獣ヶ森の冬を前にして、まず行ったのが模様替えだ。


 夏服などをタンスにしまい、冬服を引っ張り出して状態の確認をして……そこで驚いたのが獣人用の防寒帽子だった。


 穴が開いている、耳を出すための穴がしっかりと開けられている。


 防寒なんだから耳も帽子の中にしまうものと思っていたのだけど、そうすると獣人の耳は違和感を覚えてしまうらしい。


 人間で言うなら高い山などに登った時にあるアレ、耳の中に空気が詰まるかのようなアレが起きて、起きっぱなしになって酷い場合には車酔いみたいな現象まで起きてしまうらしい。


 そういう訳で耳を帽子の外に出すのだけど、それじゃぁせっかくの防寒が意味ないというか、寒くないのかな? なんてことを思ったのだけど、そもそも獣人の耳は毛で覆われている訳で、寒くないらしい。


 いやまぁ、当然か、そのための体毛なんだし。


 冬毛に生え変わるとそれはもうモフモフで、冬用の羊毛セーター一枚分の暖かさがあるとかで……そうなると何もなくても防寒装備をしているようなものになるんだろうなぁ。


 尻尾も同様に毛で覆われているから平気で……そもそも獣人は人間より新陳代謝が激しいというか、筋肉が多く摂取カロリーが多いからか体温保温能力が高く、多少の寒さでも平気なんだそうだ。


 獣人にとって寒さより問題なのは日照時間で……太陽を浴びない日々が続くと冬だから冬眠しろとか、冬だから出来るだけ動かずに過ごせとか、そんな風に本能が体に働きかけてきて、本人の気持ちとは裏腹に体が動かなくなってしまうらしい。


 そういう訳で冬の間はそれなりに外に出つつ、かつ体を冷やさないように気をつける必要があり……特に妊婦のテチさんは色々と気を使うことになりそうだ。


 テチさんに風邪を移したりしないよう、俺も健康に気をつける必要があり……この冬はいつもとは違ったものとなりそうだ。


 と、俺の自室で向こうから持ってきた冬服を引っ張り出しながらそんなことを考えていると、


「……実椋の冬服はパーカーばっかりなんだな」


 廊下から覗き込んだテチさんがそんな声をかけてくる。


「あー……うん、向こうではスーツが基本だったというか、休日もそんなに出歩かない方だったから、楽な服ばかり買っていたんだよねぇ。

 土日に着るだけだから……パーカーばっかり2・3着もあれば十分だったかな」


 俺がそう返すとテチさんは、なんとも言えない微妙な表情をしながら言葉を返してくる。


「仕事から帰ってきてからは、どうしていたんだ?」


「うーん、スウェットみたいな部屋着とかパジャマとか……シャツだけとか、色々かな」


「……明日は服を買いに行くとするか。

 ズボン下なんかの肌着もないとここの寒さは耐えられないだろうしなぁ……。

 買ったら尻尾穴も縫い合わせてもらわないといけないし……少し高くつくぞ」


「ああ、うん、そっか……こっちでは尻尾穴があることが普通なんだもんねぇ。

 ……尻尾穴から冷たい空気が入ってきたりはしないの?」


「しないな……いや、実際はしているのかもしれないが気にはならない。

 普通の服だって袖から冷たい空気が入ってくることを気にしたりはしないだろう?」


「あー……そんな感じなのか。

 ……全身体毛のコン君達は、冬でも厚着をする必要はないんだろうねぇ」


「寒さが苦手な種族はしたりもするが……コン達はいつも通りの服装だろうな。

 服はそのままで冬毛がふくらんで……そのせいでこう、服が膨らんで太っているようにも見えるかもしれないな」


 と、そんなことを話していると、実家の方の用事だとかで数日振りとなるいつもの足音が、トテテテテッと聞こえてくる。


 外から縁側、縁側から廊下、廊下から居間、台所を見て……そこに俺達がいないからと、こちらへと廊下を駆けてくる。


「きーたよ!」

「きましたー」


 そしていつもの挨拶、いつも通りオーバーオール姿のコン君と、ワンピース姿のさよりちゃんが顔を出して……その頬がいつもよりぶわっと膨らんでいる。


 いや、頬というか頬毛というか……そして尻尾もぶわっとしていて、コン君のオーバーオールからはまるで胸毛の如く体毛がはみ出していて……オーバーオール自体もぴっちぴちに膨らんでいる。


 さよりちゃんも似たような感じになっていて……うん、なんというか抱きしめたくなる膨らみ具合だ。


 テチさんはまだ生え変わりが進んでいないのか、そこまで尻尾がぶわってないけど、そのうちコン君達のようになるはずで……うぅむ、かなりの保温能力がありそうだなぁ。


「ふわっふわで暖かそうで、いいねぇ、二人共」


 そんな二人にそう声をかけると、コン君は目をぎゅっとつむってのいつもの笑顔をし、さよりちゃんは両手で頬を抑えながら照れた様子を見せる。


 それは思っていた以上に嬉しそうな反応で、そこまで喜ぶことなのだろうかと軽く疑問に思っていると、テチさんが説明をしてくれる。


「冬毛をふわふわに保つのには丁寧な手入れが必須だからな、それを褒められるというのは実椋が思っているよりも嬉しいことなんだ」


 ただ冬毛になったというだけではふわふわにはならないそうで、しっかり洗ってしっかり手入れをして、櫛で梳いてドライヤーで乾かして……そういった手入れの結果がこのふわふわらしい。


 普段からテチさん達が体毛の手入れに気を使っていたのは知っていたけども……特に量が多くなる冬毛の手入れは、特別なものであるようだ。


「手入れはただ綺麗になるだけでなく、保温能力にも関わってくるからな、大切なことなんだ。

 手入れをしないと汗とか脂でべっとりと固まって……そうなると保温能力もだが、病気の心配や虫の心配なんかも出てくる。

 ……ノミやダニは私達の天敵だからな、実椋が綺麗好きで助かってるよ」


 その言葉に俺はなるほど、と頷く。


 自分が特別綺麗好きとは思わないが、畳や布団の管理には色々と気を使っている。


 よく晴れた日なんかには出来るだけ布団を干すようにしているし、夏のカラッと晴れた日には畳なんかも干しているし……獣人の体毛どうこう関係なく、そこら辺のことには気をつけている。


 冬のためにダニ殺虫機能のある布団乾燥機も買ってあるし……そこら辺からテチさん達に虫が移ることはないはずだ。

 

「じゃぁ俺の方でも色々と気をつけるようにしておくよ。

 洗濯とか……これから出すコタツとかも出す前にしっかり日干ししておかないとね」


 と、俺がそう言うとテチさんとコン君、さよりちゃんは目をギラリと輝かせる。


 体毛があっても寒さに強くてもコタツが好きなことには変わりがないようで……外を見てよく晴れていることを確認したなら、早速とばかりに倉庫の方へと駆けていってしまう。


 ……コタツを出すのはまだまだ先と考えていたんだけども……まぁ、テチさん達がやる気になっているのなら良いか。


 コタツのことはテチさん達に任せて俺は冬服の確認を進めるかと、タンスへと手を伸ばすのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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