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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第八章 収穫、柿、ジビエ肉

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祭りの終わり


 イノシシ・ウェリントン風の料理を子供達と一緒にそれぞれの会場に持っていくと、すぐさま箸が伸びてきて、次々に口の中へと運ばれていった。


 パイ生地に包んで本シメジの旨味をぎゅっと吸わせるという調理法は、そこまで美味しくない肉でも魔法のように美味しくしてくれて……新鮮な肉を使ったこともあってか、とても美味しく出来上がってくれたようだ。


 ウェイントン風を食べ終えると皆は、それで食欲が刺激されたのか他の料理もどんどん食べていって……うん、これは用意した料理全てが食べ尽くされるのも時間の問題だろう。

 

 皆が持ってきてくれた料理もかなりの勢いで消費されていて……これがなかったらどうなっていたやら。


 いや、これがあったからこそ食欲が増したとも言える訳で……まぁ、うん、結果良ければということなんだろう。


 タケさん達なんかは自分達でも狩猟をしていて、毎日毎日狩猟肉を食べているそうで……飽きが来ていて、そんなに食べてくれないかな、なんてことを考えていたけども、そんなこともなく……お酒の力か、場の力か、狩猟肉に飽きていたことなんて、すっかりと忘れてしまっているようだ。

 

 それでも……晩秋の獣人でも食欲には限界があるもので、だんだんと場が落ち着いてきて、皆の食欲も落ち着いてきて……箸を置いたり椅子に腰掛けたりと、休んでいる人の姿がちらほらと視界に入ってくるようになる。


 それを受けて俺と、手伝いを申し出てくれた子供達は、使わなくなった食器などの片付けを開始して……それを見て何人かの大人達も手伝いをしてくれる。


 そうしてある程度片付けが終わって……時間も午後を過ぎて、ゆったりとした時間が流れ始める。


 お茶を淹れて飲む人も淹れば、雑談に興じる人、お腹がいっぱいになったから運動だと駆け回る人もいるし……そんな賑やかさの中で昼寝をしている人もいる。


 せっかく肉を食べ上げたというのに元気いっぱい狩猟に行ってしまう人なんかもいて……まぁ、うん、そっちに関しては放っておくことにしよう。


 実際、まだまだ狩猟をする必要はあるようだし……食べた分だけ運動するというのも悪いことではないはずだ。


 そんな中、俺は皆が解散するまでは注意をする必要があるだろうと周囲を見回っていて……そんな俺の側にはコン君とさよりちゃんと、友達とたくさん話して楽しんで満足したらしいテチさんの姿がある。


 特に何がある訳でもないけど、一緒に歩いていて……食後の散歩のようなものだろうか。


 そうやって皆の様子を見回って、お腹を出して寝ている子供がいたらテチさんが持ってきたタオルケットをかけてあげて……その途中で玄関の前へと立ち寄ると、暴れている扶桑の木の姿が視界に入り込む。


 いや、うん、木が暴れているとは何事かと思うかもしれないが、木全体にかけた防護ネットがバフバフと内側から突き上げられているのだから、暴れていると表現する他になかった。


「……種、かな」


 俺がそう呟くとテチさん達はあえての無言で肯定の意志を示してくる。


「……動きからして全部で3個か、思っていたよりも大人しいというか、増えなかったなぁ。

 皆がお土産を持ってきてくれたからか……久々能智さんのような新たな主候補がいなかったからか……。

 そのどっちもって所かな」


 なんてことを呟いているとコン君とさよりちゃんがサッと構えを取り……そしてテチさんが防護ネットに手をかける。


 そしてテチさんが防護ネットをまくると、そこから種が予想通り3個、飛び出してきて……1個をコン君の前歯が、1個をコン君の両手が、そして最後の1個をさよりちゃんの両手と前歯がガッシリと捕まえる。


 そしてそのままカリカリッと扶桑の種を食べ始めるコン君とさよりちゃん、どうやら二人はこれまでの経験からさっさと食べてしまうのが手っ取り早いと学んでいるようだ。


 おかしな動きをするが栄養は満点、成長期の二人には悪くないおやつと言えて……栄養があるということは恐らく味も悪くないのだろう、あっという間に扶桑の種が削れて割られて中身が食べられていく。


 しばらくの間、そんなコン君達を見守ったなら、また見回りに戻り……そうして庭へと戻ると、本格化した片付けが行われていて……それを手伝いながら段々と帰る人達も出てきて、解散の空気が漂い始める。


 お礼を言ったり、またやってくれと言ったり、酔い過ぎて何も言えずにふらついたり、誰かに肩を借りていたり、そんな皆に言葉を返し見送り……そして町会長の芥菜さんが挨拶に来てくれる。


「おう……良い祭りだったなぁ。

 来年からも狩猟祭ってことでやっても良いかもしれねぇな。

 大人も子供も楽しめるもんだし……この調子なら来年も、たくさんの肉がとれるだろうしな。

 森の住民が楽しんでいい気分になれば、幸せな気分になればそれだけ扶桑の木の力が増して、その恩恵を森全体が与ることになる。

 ……害虫も害獣も関係なく、森に住まう全ての者がな。

 そういう訳だから来年は畑の守りもしっかりしておけよ……収穫量も増すだろうが、その分だけ苦労も増すはずで、まぁ、何もかも上手くいくなんて話はないってことだな」


 その言葉は扶桑の木に詳しいらしい、芥菜さんらしい言葉で……来年はもっと凄いことになるのかと、背筋になんとも言えない悪寒が走る。


「あー……はい、来年も皆楽しく幸せになれるよう、頑張りたいと思います。

 まぁ、その前に年末年始ですけどね」


 俺がそう返すと芥菜さんは頷いて……それから空を見上げる。


「今年は多分、雪も多くなるんじゃねぇかな……。

 普段あの畑はそこまでの冬囲いはしてなかったはずだが……今年はしておいた方が良いかもしれねぇ。

 やるなら早い方が良い、あとで植木屋に連絡しておいてやるから……電話が来たら忘れないで受けるようにしろよ」


「……はい、分かりました。

 雪で木が折れるなんてのは最悪ですからね……予算を惜しまずやっておこうと思います」


 どうして雪の量が分かるのか? というのは、無粋な問いかけなんだろう。


 長年の経験とか知識とかそういうものから来るものなんだろうし……最新科学の天気予報ですら長期予報なんて外れて当たり前って感じなのだからなぁ。


 無駄になったらそれはそれで、笑い話にでもしたら良い、備えはしておくことに損はないだろうと頷く俺に、芥菜さんは満足そうな……それでも笑わずに渋い表情をして、それから家へと帰っていく。


 そんな芥菜さんを見送ったならまた片付けだと動き始めて……子供達やテチさんの友達が手伝ってくれたおかげか、夕方になる前には大体の片付けが完了となるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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