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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第八章 収穫、柿、ジビエ肉

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これからのこととか


 薬味たっぷり豆腐と、しじみの味噌汁、焼き鮭を用意しての昼食は、焼き鮭がメインなのだけど、コン君の目もさよりちゃんの目もテチさんの目も豆腐へと向けられていて、


『いただきます』


 と、言い終わるや否や、三人の箸が豆腐へと伸びていく。


 木綿豆腐をしっかりと水抜きしたものだから、箸で掴むとねっとりとしていて、その上にさっと火を通した香ばしい薬味野菜がたっぷりと乗っていて。


 シャクシャクっとした食感の後に豆腐がねっとりと来て、薬味の香りと豆腐の旨味が来て……そしてほんのりとついた塩味がなんとも良い塩梅で。


 テチさん達三人の皿には大きな豆腐三つ分に山盛り薬味という、多すぎたかな? と思ってしまうくらいの量が乗っているのだけど、それが見る見るうちに減っていって……三人のほっぺたが大きく膨らみ、そこからジャクジャクと音が聞こえてきてしまう。


 そうやって大皿の上の薬味豆腐を食べ尽くして……それから焼き鮭に箸を伸ばして、ゆっくりと食べながらコン君が口を開く。


「豆腐ってなんかいまいちだったけど、にーちゃんが作ると美味しくなるね」


 それを受けて俺は首を傾げながら言葉を返す。


「コン君って豆腐嫌いだったっけ? 今まで味噌汁のとかで食べていたよね?」


「嫌いじゃなくてー、好きでもない感じ。

 ゴーヤのやつとかはしっかり味ついてておいしーんだけど、そのままだと、醤油とかかけてもいまいちかなーって」


「うぅん、獣ヶ森の豆腐は外のよりうんと美味しいんだけどねぇ。

 スーパーで売ってる安いのですら手作りだから、旨味があって風味が強くて、外のとは比べ物にならないんだけどなぁ」


 と、俺がそう言うとコン君だけでなくテチさんまでが目を丸くする。


 どうやらテチさん達にとってはこの豆腐が普通で、これよりも落ちる豆腐は食べたことがないというか、存在を知らないというか、想像もできないものなのだろう。


「手作りだからそれで美味しいって訳じゃないんだけど、スーパーに卸しているとこは良い大豆で丁寧に作っているから、すっごく美味しいんだよ。

 この値段でよく儲かるなーって感じで……そう言えば獣ヶ森って醤油とか味噌も外で見たことのないブランドのが流通しているよね?

 どれも美味しくて安いもんだから気になっていたんだけど……獣ヶ森の市場を独占しているから、あんな値段で出せるとかなのかな?」


 そう俺が続けるが、テチさんもコン君達もよく知らないのか首を傾げて……昼食に意識を向け始める。


 それを受けて俺は、今度そこら辺のことを知っていそうな芥菜さんやレイさんに聞いてみるかなーと考えながら昼食に意識を向ける。


 それからはテレビを見ながらの昼食タイムとなり……食べ終えたなら歯磨き、片付けを済ませて……それから居間に戻ると、テチさんが壁掛けカレンダーにあれこれと書き込んでいる姿が視界に入る。


 検査予定日、収穫予定日、出荷予定日、収穫後の樹木医さん診察日、畑の掃除、剪定の準備、接ぎ木用の木の準備。


 その量はかなりのもので、春から今までのふんわりとしたスケジュールとは違う、きっちりとしたものとなっていて、収穫で終わりではなく、収穫後こそが本番だということを感じ取る事ができる。


「そうかぁ、そうだよね、収穫後は皆に分けたりもあるし、お給料のこともあるし、来年の準備もしなくちゃいけないんだねぇ」


 俺がそう言うとテチさんはカレンダーに向かったまま言葉を返してくる。


「秋はどうしても忙しくなるな、冬になれば暇になって……雪が溶けたら大忙し。

 実椋がこっちにきたのはその忙しさが終わった後だから、そこら辺の忙しさを思い知るのは来年になるな。

 栗を売れば大金が手に入るが、それに浮かれて無駄遣いしないようにして来年をどう生きていくのか決めて……まぁ、そこら辺は暇な冬にやれば良いだろうな」


「そうだねぇ、一年分のお金が入ってきて、それを一気に使っちゃうと大変なことになるもんねぇ。

 それだけの金額だと確定申告も大変……って、そうか、税金は払わなくて良いのか。

 ……良いのかな? 俺、テチさんと結婚してすっかりこっちの住民だけど……」


「別に良いんじゃないか? 問題があるなら向こうから何かを言ってくるだろうし……こちらからわざわざ言う必要もないだろう。

 農薬なんかの領収書はしっかり保管しているし、いざ必要になった時にも困らないようにはしているさ」


「そっか……じゃぁ来年から払うのは年金と保険料でいいのかな?

 そうなると一気に楽になるけど……なんだか申し訳なくもあるねぇ」


 ここに来たばかりの頃に門の職員さん達に言われていた、こちらの政府に税金を払わないようにして欲しいと。


 それをしてしまうと、色々と問題になるというか、事実上こちらの政府を認めたことになるというか……政治的な問題が発生してしまうらしい。


 その問題に対処することを考えれば俺一人の……俺達夫婦の税金くらいなんでもないということなのだろう。


 それでも申し訳なさがあるというか、なんと言うか……モヤっとする気持ちがあってなんとも言えなくなっていると、カレンダーから振り返って笑みを浮かべたテチさんが弾む声をかけてくる。


「税金を払わなくて済むというのに、そんな顔をするとはおかしなやつだな。

 ……どうしても気になるならこちらの学校とか、役所とかに寄付をしたら良い。

 納税でなくて寄付という形なら文句も無いだろう。

 寄付をして、した分だけ公共サービスを利用する……税金本来の目的は果たせるはずだ」


 その言葉を受けて俺が「なるほどなぁ」とそう言って安堵のため息を吐き出してるとテチさんが笑い……話の流れを理解しきれていないコン君とさよりちゃんが首を傾げる。


 そしてコン君達は難しい話よりも、よく分かっている畑の話がしたいのか、居間の棚の中に置かれているノートを……曾祖父ちゃんがあれこれとメモしていたらしい、秘伝のノートを手に取り、俺に渡すために駆け寄ってくる。


「にーちゃん、これ読んで剪定の勉強しよう!」


「剪定は大事な作業ですから、予習が大事ですよ!」


 それから二人で順番にそう言ってきて……ノートを受け取った俺は、食後の勉強会にしようかと、居間のちゃぶ台にお茶を用意しての勉強タイムに突入するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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