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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第七章 レモネード、梅干し、そして栗

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美味しいご飯


 それからあれこれと細かい所まで教えてもらったレイさんの授業が終わって……産婆さんやレイさん、ご両親が帰宅し、帰っても良いのにテチさんを守るためにとコン君とさよりちゃんがうちに泊まることになり……夜。


 昼間に作ったカレーを温め直し、夕飯ということで食べて……飽きることなく良い勢いで食べ尽くしてくれての夕食後のゆったりとした時間に、俺とテチさんそれぞれが学んだことをお互いに知っておいたほうが良いだろうからと話していくことになった。


 まずはテチさんの話を聞いて、それから俺が聞いた話をして……そしてレイさんから聞いた話をすると、テチさんは半目となって言葉を返してくる。


「あるれいの言ったことは間違いではないんだが……少し大げさというか、勘違いがあるというか、実椋にする忠告としては的外れというか……。

 妊娠中の誰も彼もが気が立つ訳ではない、そういった事例が多いというだけのことで……気が立つにも理由があったりするからなぁ。

 ……まぁそこは男女の視点の違いになるんだろうなぁ」


 その言葉を受けて俺とコン君は同時に首を傾げることになり、そんな俺達を見てテチさんが言葉を続けてくる。


「たとえば妻がこれから出産だというのに飲み歩くとか、ギャンブルに興じるとか、女遊びをするとか。

 そういったことをする旦那というのは家庭の敵な訳だ、そんな敵を排除しようとするのは当然のことで……排除したいのを我慢している状態を指して気が立っているという男もいるんだ。

 実椋はそういった遊びを一切しないからなぁ……だから分からないかもしれないが、こういうことはよくあることなんだ。

遊ばないだけでなく家のことをよくしてくれているし、他の部分でも家庭の害になるようなこともしないだろうから……我が家でそういった問題になることはまずないだろう」


 その話はコン君達の前でするには少し過激な内容に思えて眉をひそめるけども、テチさんは言葉を続けながら俺の方を見て、こくりと小さく頷く。


 俺の懸念は分かっている、それでも話しておきたいから話した。


 そんなことを無言のまま伝えてきて……まぁ、確かにコン君も家庭を持つことが決まっているのだから、そろそろ知っておいても良いことなのかもしれないと頷き返す。


 そもそも俺が子供の頃なんか、テレビのバラエティでそういった内容をガンガンやっていたからなぁ……話で耳にするだけなら映像で見るよりもマシかもしれない。


「そうやってこちらの言いたいことをよく理解してくれて……そんな旦那は中々いないのが現実だ。

 テレビで見る門の向こうと違って、こちら側は少し価値観というか、認識が遅れているからなぁ……飲む打つ買うは当然のことというか、男の特権と考えているような男も少なくないんだ」


 俺の様子を見てか、テチさんは更にそんなことを言ってきて……俺は何とも言えない渋い顔でどう返したものかと頭を悩ませる。


 門の向こうもこちらも変わらないというか、そこら辺は人それぞれで一概に言えないような気もするなぁ。


 熊人のタケさん達なんかはお酒は飲むけども他の遊びはしていないみたいだし、狸人の御衣縫さんのような愛妻家もいる。


 俺の場合はただただ偶然そこら辺に興味が無いだけというか、もっと他のことに興味が行っているだけのことで……清く正しくとか、そういう意図があってのことじゃないしなぁ……。


 だというのにテチさんの言葉に甘えても良いものだろうか、なんてことを考えて考えて悩んでいると、テチさんはそれを見透かしたかのように笑って、笑い声を含んだ弾んだ声を上げる。


「そうやって悩むところも含めて実椋だからなぁ。

 ……まぁ、理由がどうあれ悪いことに興味が無いのならそれで良いし、そこまで悩むことでもないさ。

 それに気が立ったとしても今日みたいな美味しいご飯を食べて腹が膨れれば、それで気も収まるはずだし、お腹の中の赤ん坊も満足するはずだ」


 するとずっと黙って難しい顔をして腕を組んでいたコン君が、パッと表情を明るくさせて、元気な声を上げてくる。


「なんか難しい話でよく分かんなかったけど、今のは分かった!

 今日のカレーすっごく美味しくてまだまだ食べたいもん! いくら食べても飽きなくて噛むのと飲み込むのが楽しくて……食べてるのに夢中になってたらどんな嫌なことも吹っ飛んじゃいそう!

 だからにーちゃんは赤ちゃんが生まれるまで美味しいご飯作りまくってれば良いんだよ!!」


「まー……食は全ての基本ですし妊娠中が食が細くなる方もいるそうですから、悪くないと思いますよ。

 コン君も私の時にはそうしてくださいね」


 するとさよりちゃんがニッコリとした笑顔でそう続き……コン君は少しだけ怯みながらも「うん」とそう言って頷く。


 気が立ったら美味しいご飯で鎮めれば良い、か。

 まぁ確かにあれこれ言い合ったりするよりかは健全というか、良い解決方法なのかもしれない。


「……うん、そうだね、妊婦さんにも楽しんでもらえる美味しいご飯を色々作っていくとしようか。

 まぁ、獣人だから色々食べられるものの幅が大きいみたいだし、美味しいご飯はたくさん作れるんじゃないかな。

 ……もう少ししたら検査も受けられるし、そこで分かったことを参考にしながら頑張っていくよ」


 俺がそう言うとテチさんもコン君もさよりちゃんも笑顔になってくれて、皆で笑ってくれて……そうしたならゆっくりと立ち上がり皆で皿洗いなどの後片付けをしていく。


 片付けが終わったなら順番に風呂に入って、風呂から上がったら皆でゆっくり、妊娠時に良いとされるストレッチをして……ストレッチをしながらテレビをゆっくりと楽しむ。


 そうしたら俺は俺の寝室へ、テチさんとコン君達はテチさんの寝室へ向かい……少し早めに床につき、ゆっくりと眠ることにする。


 もう少ししたらまた畑にも行くことになるし、収穫もそろそろだし、妊娠のことと合わせて忙しくなりそうだけど……まぁ、美味しいご飯をたっぷり食べて満足しながら眠ることが出来ているのだから、なんとかなるのだろうなと、そんなことを思う。


 なんとかならなくてもテチさん達となら一緒に頑張っていけるはずで……そんなことを考えているうちに意識が落ちていって、なんとも良い気分で眠りにつくことになるのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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