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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第一章 塩豚、燻製、おまけでジャム

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倉庫の中は……


 我が家に到着したなら、買ってきた食材入りの買い物袋を抱えて倉庫へと向かう。


 テチさんが面倒を見ている子供達は全部で25人、流石に25人分+俺達の分の食料を入れられる程我が家の冷蔵庫は大きくない。


 という訳でとりあえず今日買った食材は倉庫にある冷蔵庫行きということになる。


 冷蔵庫、といっても普通の大きさの冷蔵庫ではない、保存食作りが趣味の曾祖父ちゃんがわざわざ特注して作らせたという業務用の冷蔵庫で……例のイノシシ3・4頭分の肉が丸々入るんじゃないかという程の大きさの銀色の箱が倉庫の隅にでんと構えている。


 当然冷凍庫もあり、冷凍庫も同じだけの大きさとなっており……倉庫には棚などが並ぶ一画と、それらの冷蔵庫などが並ぶ一画、それと地下室への入り口がある一画という三区画に分かれていて……とてつもなく大きく立派で、金のかかった造りとなっている。


 倉庫そのものも、上等な作りの換気扇があったり、断熱がしっかりされていたりと色々と手が込んだ作りになっていて……これだけの倉庫を作るのに、一体どれだけの金がかかったのか、想像することも出来ないレベルだ。


 そんな冷蔵庫のドアには、現在の内部温度などを表示するディスプレイがあり……その横に大きな取っ手があり、その取っ手を掴んでドアを引き開けると、4段の網棚で区切られた大きな空間が姿を現す。


「うーわ……本当にでっかいな。

 家庭用の大きい冷蔵庫の、何倍くらいの容量があるんだ?

 冷凍食品をダンボール買いして、そのダンボールごと収納できそうなレベルだなぁ。

 っていうか、これだけ大きいと、電気代とかも凄まじいことになるんじゃ?」


 なんてことを言いながら冷蔵庫の中を眺めていると、テチさんが食材を手際よく網棚の上に置きながら言葉を返してくる。


「冷やすときは当然それなりの電気代がかかるが、一度冷えてしまえば言う程ではないぞ。

 ただしそうやってドアを開けっ放しにしたりすると、冷気が外に逃げてしまって、普通の冷蔵庫以上の電気を食うことになり、結果相応の電気代を請求されることになってしまうという訳だ。

 ほら、さっさと食材を中にしまえ、こんな会話をしているうちにもどんどん冷気が逃げていくぞ」


 そう言われて俺は慌てて食材をしまい始めて……何度か冷蔵庫と車を往復しながら二人かかりで手際よくさっさと食材をしまい、冷蔵庫のドアをしっかりと締める。


 ちなみに例のイノシシの肉は、部位ごとに分けた上でステンレス製のトレーの上に、これまたステンレス製の網をしいて、その上に置くという形で、冷蔵庫の棚の最下段に綺麗に並べられていて……なんとも肉肉しい、お腹が空いてしまう楽園のような光景を作り出していた。


 その肉は明日、美味しい美味しいボタン鍋にして食べることになる訳で、鍋に適さない肉は今後好きな時に食べるなり、保存食にするなりして良い訳で……そんなことを考えた俺は思わずごくりと喉を鳴らしてしまう。


「現金なやつだな……解体が始まったときはあんなにも青い顔をしていたというのに。

 ……まぁ、解体シーンを見たせいで食べられなくなりました、よりはマシなのだろうけどな」


 そんな俺のことを見てテチさんがそう言ってきて……俺は頭を掻きながら言葉を返す。


「肉になっていると平気なんだけどね……うぅん、本当に現金というか何というか、面目ない感じだなぁ。

 ……あ、そう言えば、肉の半分はテチさん達が貰うみたいな話を聞いたんだけど、今冷蔵庫にある肉の半分を持っていく感じなのか? それとももう既に半分を持っていった残りがアレなのか?」


「半分を持っていった残りが今の肉だな。

 解体が終わって風呂を借りて、その時に母親に着替えを持ってきてもらったんだが、そのついでに私達の取り分の肉を回収してもらったんだ。

 うちの母親は熟成とか面倒なことはしない人でな……既に焼き肉としていくらかを食べたし、残りもチャーシューや角煮という形で母の手で煮込まれているよ」


「あー……なるほど。

 ちなみにイノシシ焼き肉は美味しかった?」


「んー……こいつはオスだからな、すごく美味い! という感じではなかったな。

 オスは個体にもよるが匂いがきつかたりするからな、やはりイノシシ肉はメスが一番だ。

 ただまぁ、不味いって程でもなかったし……うん、普通に美味しかったって所だろうな」


「あー……なるほど。

 それで今日、生姜を多めに買ったんだな。

 生姜多めに入れて味噌で煮込めば匂いも気にならなくなるってことか」


「そういうことだ。

 ……そして実椋、生姜は冷蔵庫に入れるものではないからな?

 次からは冷蔵庫に入れずに、常温保存しておけよ」


 と、そんなことを言ってテチさんは、いつのまにやら冷蔵庫から俺が冷蔵庫に入れてしまった生姜を抜き取っていたらしく、いくつもの生姜が入った買い物袋を……さっきからずっと手に持っていた買い物袋をガサリとこちらに押し付けてくる。


「え……? 生姜って常温保存するものなの?

 でもスーパーとかでは冷蔵コーナーに置いているような……?」


「スーパーの人も常温が良いとは知らないのだろう。

 生姜はそもそも熱帯の植物だからな、常温で湿度が高い状態の方が長持ちするんだ。

 水で濡らした新聞紙に包む人もいるくらいで、表面がしっとりした状態なら、そこらに置いておいてもそれなりに保つぞ。

 ……まぁ、明日には使ってしまうものだから、今回は冷蔵庫に入れておいても、そう差はでないだろうがな。

 さ、次だ次だ。買った鍋やら食器やらを綺麗に洗っておくぞ、綺麗に洗って乾かしておいて……そうしてから会場の準備だ。

 食材は最悪洗って雑に切ってしまえばそれで良いが、道具や会場はそう簡単にはいかないからな……さっさとやってしまうぞ」


 と、そう言ってテチさんはキビキビと行動を開始し、今度は車の中から鍋やら何やら、明日のパーティのために買った道具を次次と運び出し始める。


 俺も慌ててそれに続いて……テチさんに言われるまま、指示されるまま作業をこなしていく。


 テチさんはこの森の保育士で、子供達の世話を何年も見てきたプロ中のプロで……子供達を集めての食事会とかパーティも既に何度かやったことがあるそうだ。


 だから何が必要かも理解しているし、どんな準備が必要かも理解しているし、子供達のためにどんな会場を用意したら良いかも、経験の中でしっかりと学んでいるらしい。


 そういう訳で俺は、ただただテチさんの指示に従って……テチさんの足手まといにならないようにと、無心で働き続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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