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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第六章 リフォーム、ホテル、レストラン

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部屋の中には……


 職員さんの説明が終わり、部屋を後にして……そうして豪華過ぎる程に豪華な部屋に泊まることになってしまった俺は、部屋の中を改めてぐるりと見回してから……ひとまず鉢植えをなんとかしようと窓の方へと近付いていく。


 スイートルームの窓はとても大きいもので、壁一面が窓と言っても良いくらいのもので、その向こうにはベランダがあり、ベランダにはいくつものプランター……というか、レンガを積み上げて作った花壇のようなものがあり、季節の花々がこれでもかと咲き乱れている。


 更にパラソルがあってテーブルがあって椅子があって……思わずそこでのんびりと過ごしたくなる空間が出来上がっていて……俺は窓の脇にある、電動開閉器のボタンを押し込んで窓を左右にスライドさせてからその空間へと出ていく。

 

 そうしたなら花壇の一画……一番日当たりが良さそうな一画の余地に鉢植えをそっと置いて……飾りなのか、それともお客さんに花壇の世話をしてもらおうという意図なのか、なんとも高そうなデザインのじょうろが置かれていたので、それを手に取り、側にあった蛇口をひねり……じょうろに水を入れて、それをすぐさま鉢植えへと注ぎ込む。


 夏場だから少し多めに、だけれども入れすぎない程度に。


 今日は雲ひとつない青空で、雨が降ることもなさそうで、鉢植えはこのままここに置いておけば良さそうだと大きく頷いて……そうしてから部屋に中へと戻り、また開閉器のボタンを押して窓を閉める。


「んん!?」


 ベランダに出て鉢植えを置いて水をあげて。

 時間にして1分か2分かそのくらいのことだったと思うのだけど、たったのそれだけの間にテチさん達の姿が見えなくなっている。


 まさか一言もなく部屋を出ていくなんてことはしないだろうと、視線を巡らせると、寝室の部屋のドアが大きく開け放たれていて、そちらからわーわーと声が聞こえてくる。


 なるほど、寝室を見に行ったのかとそちらに向かうとドアの向こうには大きなベッドや、ソファ、食事用と思われるテーブルと椅子までがある広々とした部屋が広がっていて、これだけでホテルの部屋として完結しちゃっているだろと驚いていると、ベッドの周囲にいるテチさん達が持っているものが、更に俺を驚かせてくる。


 テチさんやコン君、さよりちゃんが手にしていたのはいかにも子供向けといった感じの玩具の数々だった。


 パズルのようなものに、パーティグッズのようなものに、上等な木材で作っているらしい積み木のようなものに。


 いくつもの玩具がベッドの上に置かれていたようで……更にベッドの脇にはパンフレットまでが用意されている。


 そのパンフレットを手にとってみると、これらは全て備品なのでご自由にお使いくださいとの文字があり……そしてお求めの場合はバトラーに声をかければ新品をご用意します、とも……。


 バトラー……部屋を出ていく前に職員さんがしてた説明によると執事のことだったっけ?

 この部屋専属の職員さんを指す言葉で……つまりはまぁ、さっきの職員さんのことなのだろう。


 改めてよく見てみると、コン君達が遊んでいる玩具の中にはいかにもお土産でございますって感じの民芸品もいくつか紛れ込んでいて……どうやら商品の宣伝というか、試供品的な意味合いも含んでいる品であるようだ。


「玩具があるってことは……ここは子供部屋ってことなのかな」


 パンフレットを見ながらそんなことを呟くと、テチさんがキラキラとした目をしながらこちらに振り返ってくる。


「なら私達の部屋には何があるんだろうな!」


 突然上等な部屋に案内されたのと、初めての旅行というのもあってか、いつにないテンションでそんなことを言ってくるテチさん。


 流石に大人部屋にも同じ感じで試供品が置いてあるってことは無いと思うのだけど……と、そんなことを考えながらも、俺もちょっと興味があったので、玩具に夢中になっているコン君達をそのままにして、テチさんと二人でもう一つの寝室へと足を向ける。


 コン君達の寝室は入り口から見て右側にあり……もう一つの寝室は左側にある。


 その距離は結構なものとなっていて……まぁ、うん、防音とか、そういうのもしっかりしているのだろうなぁ。


 扉を開けたなら基本的な構造というか、左右対称なだけで家具も窓の位置も、壁紙やカーテンなんかも同じものとなっていて……そしてベッドの上に玩具はなく、その代わりになのか、食事用のテーブルの上にいくつかの品々が置かれている。


「ワインに真空パックの食品に……上等な包み紙に包まれたお菓子に。

 それとこれは……ギフトのパンフレットかな?

 ……なるほど、ここで注文して住所を伝えておけばお土産ってことで配送までしてくれるのか……」


 テーブルの上に置かれていた品々はパンフレットの中に書かれていたものでも特に高額なもので……乳製品やアイスといった要冷蔵要冷凍のものは、部屋の隅に置かれた冷蔵庫や、さっきの空間……メインホールとでも言えばいいのか、あそこにあった冷蔵庫の中にも入れてあるらしい。


 それらは全て料金のうち、サービスに含まれているんだそうで……これらもまた試供品というか試食品の意味合いが強そうだ。


 スイートルームに泊まる程の客ならばお土産もたっぷり買ってくれるはずで、試供品試食品を用意しておくことで購買意欲を刺激してやろうと、そういう目論見であるらしい。


 そして真空パック食品の中には、なんとも立派なハムとソーセージの姿があり……それを手にとったテチさんが、こちらへと振り返り何かを期待しているような視線をじっと向けてくる。


「い、いやいやいや、いやいやいやいや。

 折角ホテルに来たんだし、食事はホテルのレストランか、せめてルームサービスにしようよ。

 追々そこら辺の食事に飽きてからそれに手を出すならわかるけども……いきなりがそれっていうのは……」


 と、そんな言葉をかけるもテチさんの表情が変わることなく……いや、むしろ悪化というかなんというか、より食欲に満ちたものとなっていて……俺は諦めのため息を吐き出してから、それらの真空パックを受け取る。


「んー……まぁ、これもある種の保存食だし……保存食の勉強ってことで、うん、食べちゃおうか。

 簡単に食べられるのはソーセージだから、ソーセージにしようか。

 ただ焼くか……一度湯がいてから焼くのも良いんだったかな」


 受け取り、そんなことを言っているとテチさんは、柔らかく嬉しそうに微笑んでくれて……そんな微笑みに背中を押された俺は、真空パックを手にキッチンへと向かうのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 動くソーセ(森に呑まれました)
[良い点] > いや、むしろ悪化というかなんというか、より食欲に満ちたものとなっていて…… 朝から笑っちゃいました。テチさんの気持ち、分かる気がする。 ホテル自家製でランチなどで同じものが出るとして…
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