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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第五章 梅仕事やら冷凍保存やら

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獣人とゲーム


 翌日。


 いつも通りの日常に戻り、いつも通りに家事をこなし……いつも通りに家事を終えてのまったりとした時間を居間で過ごしていると、今日もまたコン君が「きーたよ」という声と共にやってくる。


 家の中に駆け上がり、洗面所に一直線、手洗いうがいをしっかりこなしてから……居間へとやってきて、テレビを見ている俺の横にちょこんと座る。


 するとちょうどそのタイミングでテレビに最新ゲーム機のCMが映り込み……俺はふと気付いたことがあって、コン君に声をかける。


「あれ? そう言えばコン君達ってゲームとかってやらないよね?

 遊びと言えば外で遊んでいるばっかりで……」


 するとコン君はこくんと大きく頷いてから……その小さな手を見せてきて、にぎにぎと小さな指を動かして見せる。


 人間の子供で言えば何歳くらいなのか、その手はとても小さく、指も当然短く……俺はそれを見て「ああ……」と呟く。


 その小さな手と小さな指ではゲームのコントローラーを上手く握ることが出来ないのだろう。

 それでもゲームをプレイすること自体は可能なんだろうけども、快適にプレイ出来るかというと出来ないはずで……そういう理由で遊ばないというか、遊べないという訳か。


「なるほどなぁ……獣人用のコントローラーでもあればいいんだけどねぇ」


 続いて俺がそう呟くとコン君は……「んー」と声を上げながら悩むような仕草を見せて、そうしてから言葉を返してくる。


「コントローラーもなんだけど、難易度も調整してほしいかな。

 だって、どのゲームも簡単なのばっかりなんだもん」


「あー……まぁ、コン君くらいの歳の子向けのゲームは、簡単なのが多いかもしれないねぇ」


「えっとえっと、そうじゃなくて、大人向けでも簡単なんだよ。

 何しろ人間の作ったゲームだからね!」


 そんなコン君の言葉を受けて俺は「うん?」と、そんな声を上げながら首を傾げる。

 子供とか大人とかの問題ではなくて『人間の作ったゲームだから』……?


 それはつまり……えぇっと、人間の作ったゲームは獣人にとって簡単過ぎる、ということ……?


「……えぇっと、もしかして獣人って身体能力だけじゃなくて、反射神経とかも凄かったりするの?」


「うん、結構違うみたいだよ」


「……そんなに? ゲームが簡単で仕方ないなんてことになる程に違うの?」


 俺の問いにコン君はさらっとした答えを返してきて、更に俺がそう問うとコン君は、少し悩むような素振りを見せてから「ちょっと待ってて!」とそう言って家の外へと駆け出ていって……それから10分程してから、ポシェットのようなものを抱えて駆け戻ってくる。

 

 そうしてもう一度手洗いうがいをこなしてから、居間へと駆けてきて……ポシェットの中にあった数世代前の携帯ゲーム機を引っ張り出す。


「ああ、ゲーム機自体は持っているんだねぇ、随分古いものだけど」


 ゲーム機を引っ張り出し、電源コードをコンセントに繋ぎ……主電源を入れて起動させているコン君を見やりながら俺がそう言うと、コン君はゲーム機をちゃぶ台の上に起き、折りたたみ式の画面を立ち上げ、ゲーム機本体の横脇に刺さっているタッチペンを引き抜き構える。


「このゲーム機はねー、コントローラーとかじゃなくて、オレ達にも持てるタッチペンで遊べるからってちょっと前に流行ったんだ。

 本体もソフトも古くて安く買えるってのもあって、皆が持ってて……そして皆すぐに飽きちゃったんだ」


 なんてことを言いながらコン君は、タッチペンでペペペッと画面を操作し、手際よくあるゲームを起動する。


 それはいわゆる音ゲー……音楽に合わせてボタンを押したりするゲームジャンルの作品のようで、タッチパネルでのプレイモードを選んだ場合は、音楽に合わせて出現する円をタッチペンでタッチしたり動かしたり、ぐるぐると回したりすることで得点を得られるというルールになっているようだ。


 そしてそのゲームを起動したコン君は、クリア率100%と表示されているセーブデータを読み込み……一番難度の高い楽曲の最高難度をペペペッと選び、プレイを開始する。


 そうして始まったコン君のタッチペンさばきは……なんとも凄まじいものだった。


 ちゃぶ台に向かって正座をし、タッチペンをまるで習字の筆であるかのように構え、かなりの速度でゲーム画面が動き回って、かなりの難度のプレイを要求してきているのに、一切怯むことなく動揺することなく、少しシュールだと思ってしまう程に冷静かつ的確にタッチペンを動かしていく。


 その判定全てがPERFECTで、点数がどんどんと加算されていって……音楽が盛り上がりに盛り上がり、画面に表示される円の数がとんでもないことになり、とんでもない操作を要求され始めても、そのプレイスタイルが揺らぐことはない。


 最初から最後までがPERFECTで、一度のミスもなくて……音楽が終わり、リザルト画面が終わり、スコアランキング画面に移行すると……1~10位まで全てが同じ点数、一度のミスもないパーフェクトスコアばかりがずらりと並んでいた。


「ねー……? 簡単過ぎてつまんないんだよー。

 バットとか持てなくて実際に遊べない野球ゲームとかやってみても全部ホームランだし……最初は難しいかもって話題になったゴルフゲームも全部ホールインワンかチップインするようになっちゃったし……。

 結局オレ達がクリア出来なかったのは将棋ゲームとかそういうのだけになっちゃったかなー。

 ……あ、でもとーちゃんとかかーちゃんとかじーちゃん達は、頭を鍛えるトレーニングとかを遊び続けてるみたいだよ。

 それと大人なら普通のコントローラーも持てるし、オレ達には出来ない色んなゲームをやってたりするね!

後はカードゲームとかは普通に楽しめるかも?」


 なんてことを言ってからコン君は、ゲームを終了させ、ゲーム機の電源を切り……丁寧にポシェットの中にしまい始める。


「なるほど……獣人用の難易度……か。

 ネットで話題の理不尽な難易度のゲームとかならちょうど良いのかな?

 ……んー……ただなぁ、難しいだけのゲームって面白いものでもないし、勧めるには微妙かぁ。

 メーカーに頼んで有名なゲームの難易度を調整してもらうのがやっぱりベストなのかなぁ。

 ……あ、っていうか、獣人の皆さんがオンラインプレイとかしたら、物凄いことになっちゃうんじゃないの?

 コン君が見せた反射神経と手捌きで無双プレイができちゃうっていうか」


 俺がそんなことを言うとコン君は目を伏せてふるふるとその顔を左右に振る。


「にーちゃん、対戦ゲームってのは同じ条件で同じくらいの強さの人とやるからたのしーんだよ。

 獣人の皆とやるのはいーけど、オンラインでそんなことしちゃうのはつまんないし、マナー悪いんだよ」


 静かに子供をさとすかのように、そう言ってくるコン君に、俺は思わず「ご、ごめんなさい」との言葉を返す。


 するとコン君は目を伏せたまま「分かれば良いんだよ」とそう言ってきて……そして俺とコン君は『ぷはっ』と二人同時に吹き出し、ゲラゲラと笑い声を上げる。


 しょうもないことではあるし、そこまで笑うことではないのかもしれないけど、なんだかツボにハマってしまって、妙におかしくなってしまって、目の前のコン君が一緒に笑ってくれるのもあってその笑いはしばらくの間続くことになり……そうして存分に笑った俺達は、ゲームじゃない別の遊びでもしようか、なんてことを言いながらゆっくりと立ち上がるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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