白玉とかの話
翌日、朝食後。
俺はコン君と一緒に……今日の午後に行われる梅デザートパーティのための買い出しに出ていた。
また今度、余裕がある時に作りますよ……と、そんなことを言ったら、まさかの翌日が休日で、休日なら余裕があるだろってことになり、今日作ることになり……。
個人的には2・3日後というか、それなりに日数が経ってからのつもりだったのだけど、全くなんでこんなことになってしまったのやら。
救いは今日作る予定のものはどれもこれも、簡単なものばかりということだろう。
という訳でまずは青果コーナーで果物を買っていく。
オレンジやグレープフルーツ、スイカにパイナップル、キウイにイチゴ。
きっと皆たくさん食べるだろうから多めに買っていって……コン君が目を輝かせながら持ってきたメロンも一つだけ買い物かごの中に入れる。
「はー……今日は果物いっぱい買うんだなー、美味しそうだなー……。
これに梅ジュースをかけてフルーツポンチにするんだっけ?」
メロンが入った買い物かごのことを見上げながらコン君がそんなことを言ってきて……俺は製菓コーナーへと足を進めながら言葉を返す。
「うん、そうだね。
梅ジュースというか、梅サイダーというか、炭酸水で梅シロップを割ったものだね。
梅ジャムでも良いし、シロップでも良いし……程よく混ぜて風味と酸味を与えて、それをフルーツにかける……んだけど、フルーツにも酸味があるからね、バランス調整というか味を整えるためにというか、これも入れておきたい所だね」
そう言って俺は白玉粉を手に取り……白玉のことは知っているらしいコン君は、目を更に輝かせての笑顔になって言葉を返してくる。
「白玉粉だ! オレ、白玉も好き!
かーちゃんがよく作ってくれるんだ! 白玉おしるこ!
あ、それとねー、他にもねー、揚げたりねー、お鍋に入れたりも美味しいんだよ!」
「まさかの揚げ白玉!?
……いや、ま……白玉もお餅の仲間みたいなものだから、揚げ餅と思えば悪くないのか。
お鍋もまぁ、うん……悪くなさそうだね」
「でしょー!
他にもお味噌汁とかお雑煮にも入れるかなー、もちもちでとっても美味しくなるね!」
「流石和食党の三昧耶さん……色々作っているんだなぁ。
俺は……なんというか、白玉と言えばデザートって固定概念があって、デザート用に使ってばっかりだったかな。
さっき言っていたおしることか、フルーツポンチに入れるフルーツ白玉とか。
このつるつるもちもちの触感と、ほんのり甘くて優しい味がフルーツの酸味とマッチするんだよねぇ。
もちろん梅とも相性よくて、梅のすっぱさをしっかりと受け入れてくれる感じだね」
「へーへーへー!!
にーちゃんが作ってくれるものだから美味しいんだろうとは思ってたけど、思ってた以上に美味しそうだなー!!
……あー、今から楽しみ!!」
なんてことを言ってコン君は、タタタッと駆けていって……そのままレジまで駆けていくかと思ったら、途中でブレーキをかけて足を止めて……くるっと振り返ってこちらを見つめてくる。
「そう言えばにーちゃん、かーちゃんがジャム作りに挑戦してさ、失敗しちゃったみたいんだけど……どうしたらいいと思う?」
その言葉を受けて俺は、料理上手の三昧耶さんでも失敗することがあるんだなぁと驚きながら言葉を返す。
「どんな失敗をしちゃったんだい?
焦がしちゃったとかだと……焦げの匂いがついちゃうからリカバリーは難しいかなぁ」
「えっとね、なんかこー……ジャムが固くなっちゃってた!」
「ああ、なるほど、そういうことか。
ジャムが固くなってしまった場合は……そのまま煮込み料理に使うとか、水に溶かしてジュースっぽくするっていう手もあるけども、水を足して煮詰め直すのが一番かな?
ようするに水分を飛ばしすぎてしまったってことだからね。
果物によって水分量が違って、固まりやすい成分があったりして結構そういうことになっちゃうことはあるんだけど、焦がしたんじゃなければリカバリーは効く感じだよ。
後は……あれだね、鍋をホーロー鍋にすると違うかもね」
「ホーロー鍋って、あのにーちゃんが使ってる白いやつ?
白いと何か違うの?」
「色……というか、作り方というか、まぁホーロー鍋とか銅鍋とかの、重い鍋は熱伝導率が良いんだよ。
熱伝導率が良いからさっと煮詰めることが出来て、水分が飛ぶ前に、焦げる前にジャムを仕上げる事ができるんだね。
銅鍋の場合は果物の成分次第で変な味が変な匂いがついたりするから、やっぱりジャムと言えばホーロー鍋が安定かな。
ガラス蓋のホーロー鍋にして、水分が飛ばないようにこまめに蓋をして、蓋をしながら中の確認をして、焦がさないように木べらでかき混ぜて……とか繰り返すのも手かもね」
と、俺がそう言うと……コン君は首を右に傾げて左に傾げて……そうやって何度も左右に首を傾げながら、今俺がした話を懸命に覚えようとし始める。
覚えて理解してお母さんにちゃんと伝えようとしているコン君に俺は、笑いながら言葉を続ける。
「後でメモ用紙に今言ったことを書いて渡してあげるから、それをお母さんに渡すと良いよ。
ホーロー鍋は煮物とかにも使える鍋だし、お家にあれば使うようになるはずだし、なければないで買うことを検討しても良いと思うし……うん、おすすめのメーカーとかも一緒に書いておくとするよ。
高くても良いならフランスの……スト……ストーブだったかな? 確かそんな名前のメーカーのピコなんとかってのが良いお鍋だったはず。
なんかこう、作りが水分を逃さない形になっているとかで……ジャム以外の料理でも頑張ってくれるらしいね。
料理とかに関しては本当に流石フランスって感じだよねぇ」
そんな俺の言葉を受けていつもの、目をぎゅっとつぶっての笑顔になったコン君は、力いっぱいに大きく頷いてから「ありがとう!」と元気な声を上げてくる。
そうしたなら元気いっぱいに駆け出して……レジの方へと一直線に向かっていって、そうして空いていたレジへと駆け上り、そこで待機していた店員さんに……、
「今日はねー、梅シロップでいろいろなデザート作るんだよ!
作って皆で食べて、パーティするんだって!」
なんて声をかけはじめる。
すると……猫科か何かの耳を揺らした店員さんは、嫌な顔ひとつせずに笑顔を返して、俺が到着するまでの間、コン君の相手をしてくれるのだった。
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