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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第五章 梅仕事やら冷凍保存やら

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のし梅


 梅サイダーを飲んで満足したのか、それでレイさんは帰っていって……それから俺はコン君と一緒に台所に立ち、残りの梅シロップを使って何を作るかで頭を悩ませていた。


 今一番食べたいというか、作りたいのはゼリーなのだけど……梅ゼリーを作るのならばどうしても梅の実本体を入れたい所だ。

 シロップ漬けで甘くなって柔らかくなった、梅酒に入っているやつのような美味しい梅の実を。


 それがあってこその梅ゼリーであり、梅の実なしの梅ゼリーというのはどうしても作りたくないという思いがあり……頭の中でしばらくの間、そんな葛藤をした俺は……ゼリーは自作シロップが出来上がってから、シロップ漬けの梅の実をちゃんと使って作ろうとの結論を出す。


 そうすると後はフルーツポンチかなとも思うのだけど……正直、フルーツポンチはわざわざ前もって作るまでもない、お手軽メニューだ。


 フルーツを切って炭酸水を流し込んで梅シロップを適量かけて終わり。


 白玉を入れる場合は白玉の準備があるけども、それも出来るだけギリギリのタイミングというか、食べる直前に作りたい一品なので……明日開かれることになった梅シロップパーティのために、今から作るというのもおかしな話だろう。


 梅シロップヨーグルトもただ混ぜるだけで、特にやることはないし―――


「―――そうすると後は、のし梅くらいかなぁ」


 と、頭の中であれこれと悩みに悩んだ俺がそんな言葉を、思わず吐き出すと、コン君はいつもの椅子に座りながらこくんと首を傾げて声をかけてくる。


「のし梅ってなぁに?」


「あれ? 知らない?

 のし梅っていうのはこー……平らな梅ゼリーていうか、いや、ゼリーではないんだけども、ゼリーに近いものっていうか……いや、そうか、羊羹って言った方が適切か。

 あんことかを使わないで梅シロップで作る羊羹って感じかな」


 と、俺がそう返すとコン君は……そんなことを言われても想像出来ないよとばかりに、傾げていた首を更に大きく傾げる。


「……ああ、うん、そうだね。

 じゃぁまぁ、口で説明するよりも実際に見てもらった方が早いてことで、作ってみるとしようか」


 首を傾げすぎて転びそうになっているコン君にそう言ったなら、早速準備を進めていく。


 のし梅は……まぁ、割と簡単に出来るお菓子だと思う。


 お店で売っているようレベルに綺麗かつ美味しく作るとなると、それこそ職人レベルの技量が必要なのだけども、程々にそこそこの味と完成度で良いのなら、そこまで難しくはなかったりする。


 まずはお菓子作り用の粉寒天を用意する。

 棒寒天から作るのも手なんだけども……水に戻したりアクをとったり、色々と手間がかかる品なので、ここは楽をして市販の粉寒天で済ませてしまおう。。


 鍋に水を入れて沸かしてお湯にしたなら、粉寒天を入れてしっかりと混ぜる。

 どれだけしっかりかというと泡立て器を使っても良いくらいのレベルで……俺は楽をしたがる人間なので泡立て器でわーっとかき混ぜてしまう。


 かき混ぜたなら少しの砂糖を入れて、更にかき混ぜて溶かして……しっかりと溶かしたなら梅シロップを流し入れる。


 流し入れたなら弱火にし……しっかりと煮詰める。


 寒天は弱火でしっかり煮詰めるとしっかり風味が立って、歯ごたえもしっかりとして美味しくなるそうなので、長めにじっくりと……大体10分程、水分が飛びすぎない程度にやっておく。


 そうしたなら別の鍋で水飴を弱火で温めて……温めた水飴に煮詰めた梅シロップ寒天を流し込む。


 流し込んだなら木べらでしっかりと混ぜ合わせ、混ぜ終えたなら型に流し込み、冷蔵庫で冷やしたら完成、という感じだ。


 更にここで一工夫、梅シロップを流し込む際に小さな梅や梅肉を混ぜ込むのも中々どうして悪くなかったりする。


 砂糖や水飴を使ったことにより甘さが勝っているので、そこに梅味を足すことでバランスを取る感じだ。


 寒天と梅肉は相性が良いのか何なのか、ふわっと香りが立つというか風味が格段によくなるので、出来ることならやっておきたい工夫だ。


 好みの問題でもあるので入れなくても良いし、何なら梅肉ありとなしで2パターン作るのも良いしで……そういう訳で今回は梅肉なしとありの2パターンを作ることにする。


 ちなみにだけど甘さを控えめにしたいなら最初に入れた砂糖をなしにするか、水飴を少なくして水をちょっと足すなどすると良い感じだ。


 ここら辺は完全に好みなので、それぞれで調整すると良い感じになるだろう。


 閑話休題、2つ目の型には梅肉入りのを流し込んで、それも冷蔵庫に入れて……梅シロップの残量的にはもうちょっと作れそうだったのだけど……いや、うん、明日のフルーツポンチやヨーグルトに使う分を残しておく必要があるので、このくらいにしておくとしよう。


「……よし、これで作業は終わり。

 後は冷えて固まるのを待って……固まったら薄く切って完成って感じかな。

 ちなみに完成後にグラニュー糖をかけたりしても良い感じだよ、その分だけ甘くなっちゃう訳だけどね」


 作業を終えて片付けをしながらそう言うと……コン君はよだれをじゅるじゅると口の中でうならせながら言葉を返してくる。


「にーちゃんにーちゃん! すごい良い匂いがしたんだけど! すごい美味しそうだったんだけど!!

 出来上がるまでどれだけ待てばいいの!」


 寒天を煮る匂いというのはそこまで良い匂いではないと思うのだけど……どうやらコン君的には悪くないものだったらしく、その後の甘酸っぱい匂いもあってかよだれがとまらないらしく……そんなコン君に俺は冷酷な言葉を返す。


「うん、だいたい2・3時間かな」


 するとコン君は驚きのあまりに口の中のよだれをごくんと飲み干して……大口をあけての愕然とした表情をする。


「い、いや、うん、ゼリーにせよ寒天にせよ、こういうのはどうしても固まるまでは時間がかかるものなんだよ。

 っていうかそもそも、これは明日食べるやつなんだよ? コン君とレイさんがどうしてもっていうからやることになった、明日の梅シロップパーティ用のものなんだよ?

 2・3時間だから今日中に出来る訳だけども、それを今日食べちゃってどうするのさ」


 と、コン君のあまりの表情に少しだけ怯みながらそう返すと、コン君は絶望的というか、あまりにも悲しそうな……今までに見たことのないような表情をしてくる。


 そんな表情をして目をうるませて、それでもわがままは言わずにぐっと言葉を飲み込んで……そんなコン君の様子に心を砕かれた俺は、項垂れながら言葉を返す。


「じゃ、じゃぁまぁ、一切れだけだよ、一切れだけなら良いよ。

 良いんだけども……それでも2・3時間は待つことになるからね?

 固まりきらないぐずぐずのやつを食べても美味しくはないから……そこは仕方ないものと思って諦めてよ。

 ……そういう訳だから、それまでは家事でもしてさ、家事とか遊びとかに集中していれば2・3時間なんてあっという間だよ」


 と、そんなことを言ってみたものの、子供にとって2・3時間とは大人が感じるよりもうんと長いものだ。


 ましてやそれが美味しそうなオヤツを待っての2・3時間となると更にうんと、格段に長く感じるもので……我ながら冷酷なことを言っているなぁと思いつつも、それでも待つ以外に道はないので、コン君には我慢してもらうしかないだろう。


 そうしてそれからの2・3時間を俺とコン君は……なるべく台所から離れて、冷蔵庫を視界に入れないように、のし梅のことを思い出さないようにしながら過ごしていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 小さいころに棒寒天を棒のままかじったのを思い出しました。 見た目美味しそうに見えたんだよなぁ…
[一言] コン君が「もう、一時間たった?」と聞いて「まだ三十分もたってないよ」と答えるんですよね。 子供あるある。
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