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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第五章 梅仕事やら冷凍保存やら

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倉庫の棚


 ピザを食べ終えて、再度仕事に向かうテチさんを見送り、歯を磨いたり片付けをしたりし……そうしてから俺はコン君と一緒に、家の隣にある倉庫へと足を向けていた。


 倉庫の冷蔵庫には定期的にというか何かあるごとに様々な食材を入れていて、相応に汚れがついているはずで、その汚れを綺麗に掃除するためだ。


 食料を保管する場所である倉庫も冷蔵庫も綺麗にしておく必要がある場所で、そうしなければならない場所で、コン君に手伝ってもらいながらやり逃しのないように丁寧に掃除を進めていって……掃除が終わったなら、調理用アルコールでもって消毒もしておく。


 そんな風に掃除を頑張って……2時間程頑張ってようやく一段落し、ホッとため息を吐き出していると……冷蔵庫の置かれているエリアから少し離れている、いくつもの棚が並ぶエリアへと足を進めたコン君が「あっ!」との声を上げつつ、棚の方へとテテテっと駆けていく。


 それを受けて俺はようやくあれに気付いたかと、そんなことを思いながらコン君の後を追いかけ……俺の前を駆けていくコン君は棚の一番奥側……壁際の一画へと駆け寄って、棚を器用に駆け上がり、そこに置かれた4つの保存瓶をじぃっと見つめる。


「これ、これ、コンフィでしょ! コンフィ!」


 その保存瓶のことを指差しながらコン君がそんなことを言ってきて……それを作った日付と材料とどんな味付けかが書かれているラベルの張られた、保存瓶のことを見つめながら言葉を返す。


「うん、正解、コンフィだよ。

 嘘か本当かコンフィは熟成させると美味しくなるって話だったからね、試しに作ってみたんだ。

 ……で、折角だから倉庫で、ここで熟成させようと思ってね、棚に並べてみたんだ」


 曾祖父ちゃんが生きていた頃、この倉庫のこの棚には所狭しと瓶や壺が並んでいた。

 その全てが中身入りで、様々な美味しい保存食が詰め込まれていて……その圧巻の光景は今でも脳裏に焼き付いている。


 いつかはその光景を再現したい……と思いつつも、中々棚に並べられる程の保存性のある保存食を作ることが出来ず、満足の行く保存食作りをすることが出来ず、これまでずっと空棚となっていたのだけど……以前作ったコンフィは、その味も保存性も大満足の、大成功といって良い保存食となっていたために、めでたく棚に並ぶ保存食第一号となったのだった。


「えーっとえっーっと……作った日は同じだけど、味付けがちょっと違うのか。

 ハーブとかお塩の量とかが違って……お醤油のもあるんだね」


 そんな瓶のラベルを読みながらコン君は、そんなことを言って……そうしてからこちらに振り向き、にかっと良い笑顔を向けてくる。


 コン君もあの光景を見ていたのだろう、曾祖父ちゃんが作った保存食を食べていたのだろう。

 そしてあの光景をまた見たいという気持ちも、俺と同じくらいの大きさかは分からないが、その心の何処かにあるはずで……その気持ちがあの良い笑顔を作っているんだろうなぁ。


「コンフィの次は梅干しが並ぶことになるかな。

 その次は……んー、フルーツのシロップ漬けでも並べてみるのも良いかもね」


 そんなコン君にそう言葉を返すと、コン君は笑顔を更に大きなものとしてから……こくりと首を傾げて、言葉を返してくる。


「ジャムはならべないの?」


「んー……ジャムはまだ常温保存に挑戦したことがないんだよね。

 砂糖を多めにしてしっかり消毒をして脱気をしたなら常温でもいけるはずなんだけど……自分で作ったのはいつも冷蔵庫で保存していたから、ちょっと怖い感じなんだよね。

 だからまぁ、今度、ちっちゃな保存瓶を買ってそれで少しだけのジャムを作って実験するつもりだよ。

 いきなり大きいのでやってカビさせて全廃棄とかはもったいないからね」


「そっかー!

 コンフィと梅干しとフルーツのシロップ漬けが並んで……ジャムもならんだらカラフルで良い感じになるかもねー。

 ……んでもあれだね、それだけじゃ全然棚がいっぱいにならないね」


「あー……うん、そうだね。

 ジャムがここで保管出来るなら、色々な果物のジャムを作りまくるっていう手もあるんだけど、それも限界はあるからね。

 食べもしないのに作るっていうのはアレだし……毎年毎年食べる分だけ並べるとして、それだと……まぁ、一列を埋め尽くせれば良い方なのかな。

 コンフィも色々なお肉で作って並べる手もあるけど、それも限界はあるし……いやはやまった曾祖父ちゃんはどうやってこの広い棚全てを埋め尽くしていたんだろうねぇ」


 そう言って俺とコン君は……倉庫の中に並ぶ棚をぐるりと見渡す。


 倉庫があって、その壁と冷蔵庫のエリアと区切る壁があって、俺達がいる場所は壁と壁に挟まれた通路のような形になっていて。


 その通路の左右にいくつもの棚が並んでいて、棚は大体上中下段に別れていて……この全ての棚に瓶や壺を並べるとなったら、一体何十個の瓶と壺が必要になるのか。


 それらを買うだけでも大変で、それらの中に詰める保存食を作るのも大変で……全部の棚を埋めようと思ったら1年や2年ではなく、もっともっと長い……5年10年くらいの時間が必要になるかもしれない。


「ただ埋めるだけなら楽なんだけど、保存性のことも考えなきゃいけないからねぇ。

 常温のこの倉庫でも保存できて……素人でも作れて、出来ることなら保存する意味のある、コンフィのように熟成することで美味しくなるような品が良いんだけど……うぅん、そう簡単にはいかないんだろうねぇ」


 と、そんなことを言いながら俺は、子供の頃、曾祖父ちゃんと一緒にどんな保存食を食べたかと思いだしていく。

 

 多かったのは漬物だろうか、塩漬け味噌漬けぬか漬け。

 ……ぬか漬けはなぁ、ぬかの管理が難しそうで中々挑戦できていないんだけど、それでもやっぱり……この棚を埋め尽くするもりなら挑戦していかないとだよなぁ。


 後は……なんだろう、ジャムとかシロップ漬けとか、シロップそのものとか……。

 ……ううん、結構色々なものを食べたはずなんだけども、中々その詳細を思い出すことが出来ない。


 あの災害の時なんかは、しばらくの間保存食ばかりを食べていたはずで、この棚に置かれていた大半のもんを食べたはずなんだけど……何故だろう、全く思い出すことが出来ない。


 この棚には何が置いてあったのだろう、ここで曾祖父ちゃんは何をしていたのだろう、どんな保存食を作っていたのだろう。


 なんてことを考えながら棚と棚に挟まれた通路を歩いていって……歩きながら棚をそっと撫でていって、そうしながら鼻をすんすんと鳴らし、棚の匂いを嗅いだりもする。


 定期的に掃除をしているけれど、長年使われていただけあって棚のそこかしこに様々な匂いが染み付いていて、塩や味噌やらの匂いを感じ取ることが出来て……コン君が俺の真似をしてなのか棚のあちこちで鼻を鳴らし始めて……。


 そうやって二人で鼻を鳴らしながら足を進めているとある場所で……倉庫の入り口近くの棚の辺りで、ある独特の鼻をつく匂いがして……俺とコン君はこの棚に何があったのかをすぐさまに察し、お互いの顔を見合わせる。


 鼻をつく匂い、嗅ぎ慣れた匂い、社会人になってからは嫌でも付き合う必要があった独特の匂い。


 それはお酒の……いわゆるアルコールの匂いで、俺とコン君は同時に『あー……』と声を上げる。


「そう言えば曾祖父ちゃんは酒好きだったなぁ。

 ……なるほど、ここに自作の酒を並べていたのか」


「じーちゃん、毎日毎日飲んでたからなー……夜は特にお酒臭かったよ」


 俺が曾祖父ちゃんの家に遊びにきていたのは子供の頃で、コン君は今でも子供で……その酒を味わったことはないし、どんな酒なのか細かいことを教えてもらったこともないが……アルコールの匂いが広範囲に渡っていることから、その量の多さを大体察することが出来て……そうして俺とコン君はしばらくの間、その匂いを嗅ぎながら曾祖父ちゃんの昔話をして、その頃のことを懐かしみながら盛り上がるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アルコール? 自治区だから有りなのか [一言] テチさんがいるから気合い入れないと保存食がたまらないような気がする
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