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獣ヶ森でスローライフ  作者: ふーろう/風楼
第三章 イチゴジャム、ソーセージ、缶詰、そして兵糧丸

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缶詰作り開始


 テチさんも驚いた扶桑の木の急成長だけども、その理由というか原因は、出来る範囲で調べてみてもよく分からなかった。


 テチさん以外の人達……テチさんのご両親とかコン君のご両親とか、扶桑の種をくれた町会長に話を聞いても分からないとのことで、町会長から理由を知っていそうな人に話を聞いてみたけども、心当たりは全く無いそうで……最終的には驚くようなことではあるけども、だからといって何か問題がある訳でもないから気にしないで良し、というやや投げやりな結論になってしまった。


 急成長をしたからどうとかいう話でもなし、大きくならないことには周囲への影響がある訳でもなし。


 ならまぁ、特に気にせず、観賞用として縁起物として楽しんでおけば良いとのことだった。


 テチさんが言っていたように1年か2年楽しんだなら町会長に預けて、どこかに植えてもらって……どうしても恋しくなったらその植えた場所に会いに行くことも出来るらしい。


 手間暇と時間をかけた盆栽ならまだしも、いきなり貰うことになっていきなり大きくなった木にそこまでの愛着を抱くとは思えなかったけども……まぁ、それはその時になってから考えれば良いことだろう。


 それから数日は何事もなく日々が過ぎていって……扶桑の木があるからって特に何か起こる訳でもなく、変化がある訳でもなく、本当に普通の日常がただ過ぎていって……そうして日曜日。


 準備万端、必要なものをあらかた揃えた俺は……コン君を家に呼んでの缶詰&兵糧丸作りに手を出そうとしていた。


「という訳で今日は缶詰と兵糧丸を作ります!

 ……と言ってもそこまで気張る必要はなくて、ソーセージとかよりは簡単だし、失敗することもないだろうから、とにかく自分好みのものを作れるように頑張ることにしようか」


「はーい!」


 台所でエプロン姿の俺がそう宣言すると、割烹着姿のコン君が元気に声を返してきて……大きく頷いた俺はまずはと、缶詰キットの説明書を取り出し、台所のテーブルの上にそれを広げる。


「ではまず、缶詰作りをはじめる前に注意すべきことをチェックしておこうか。

 基本的に缶詰は中に食品と調味液を入れて、しっかりと蓋をして、缶ごと煮込むことで調理と加熱殺菌を同時に行うものなんだけど……缶の中に何を入れてもOKって訳でもないんだよね。

 キットによってはそもそも食品を入れるな、なんてのもあるし、食品OKでも缶を腐食させる可能性のある食品、調味液はNGだとか、缶の内側にコーティングが塗ってある場合にはそれとの相性次第でNGなんて話もあるから、作り始める前にまずそこら辺のことを説明書をよく読んで確認しておく必要があるんだ」


「ふんふん、なるほどー。

 ……缶詰の缶って、コーティング? してあるんだ?」


「うん、そうだね。

 俺もそこまでは詳しくないんだけど、缶詰を食べ終わって洗っている時とかに内側を触ると、独特の滑らかな感触があって、鉄っぽさとかアルミっぽさは全然無いんだよね。

 多分それがコーティングってことになるんじゃないかな?

 ……世の中には市販の缶詰を直火に当てて調理して食べている人もいたりするんだけど、そういうのに関してはコーティングが溶け出したりするかもしれないから、推奨しない、自己責任だ、なんて注意喚起をしている缶詰メーカーもあったりするんだよね。

 本当にコーティングが溶け出すかもよく分からないし、溶け出したからって人体に害があるかはなんとも言えないらしいんだけど……缶のメーカーは直火調理用に作っている訳じゃないから、気をつけるには越したことはないって感じかな。

まぁ、うん、そういった注意点の確認と手順の確認のためにも説明書はしっかり読んでおいた方が良いだろうね」


「なるほどなー……。

 でもミクラにーちゃん、このキットの説明書、そこまで禁止だよとか駄目だよって書いてないようなー?」


「まぁ、うん、よっぽどの無茶をしなければ缶詰が腐食したり、コーティングがどうにかなったりすることは無いからね……。

 そうだとしても説明書をしっかり読んでおくのは大切なことだから、しっかり読んでおこうね」


 なんて会話をしながら説明書を読み進めていって……ついでに缶詰の作り方のページもコン君と一緒に確認していく。


 そこには制作例としてサバ味噌缶の作り方が書いてあって……生のサバを丁度良いサイズに切っていれて、味噌タレ調味液をギリギリまで流し込んで、蓋をしっかりした上で、キットの本体でもある大きなハンドルのついた機械にセットする様子が描かれている。


 セットしたなら缶をしっかり固定し、ハンドルを両手でしっかり持って回転させ……一回転が終わったならハンドル横にある調整ネジを規定回数回転させ、もう一度ハンドルを回転させ、また調整ネジを―――と、そういった作業を繰り返していく。


 これには缶詰の密封法である二重巻締という方法が関係しているとかで……機械ではなく手動でそれをやる場合には、そういった細かい作業が必要になるんだそうだ。


 これらの作業が缶詰工場の機械の手にかかれば、ものの数秒で終わるっていうんだから凄いもんだよなぁ。


「……とまぁ、こんな感じに蓋をしながら缶ごとお鍋に入れて、水を入れて火にかけて……しっかりと中まで火を通す訳だね。

 火を通したなら鍋から取り出して……ある程度冷めたら缶切りで蓋を開けて食べるとこまでを目標に頑張っていくとしよう」


 説明書を読み終えるなり俺がそう言うとコン君は目をぎゅっとつぶっての笑顔になって「はーい!」と返してきて……そうしてからコクンと首を傾げてきょとんとした顔になりながら言葉を返してくる。


「あれ? にーちゃん、せっかくの缶詰なのに作ってすぐ食べちゃうのか?」


「まぁ、うん、いくらそれ用のキットを買ったとはいえ所詮は素人仕事だからね。

 完璧に殺菌できるかは分からないし、殺菌できてなかった場合の安全チェックも出来ないし……。

火を通したその日のうちに食べてしまうのなら、それは普通の煮込み料理と変わらない訳だし、安全なはずだし……賞味期限がはっきりしないものを長期保存する訳にもいかないからね」


「あー……まぁ、そっかー。

 保存できるのかもしれないけど、いつまで保存できるか分からない……これも自己責任ってやつになっちゃうのか」


「そういうことだね。

 まぁ、作ってすぐに食べちゃうなんて味気ないかもしれないけど、それでも自分達で作った缶詰を食べられるってだけでワクワクするでしょ?」


「うん! する!!」


 そう言ってコン君は、そのふさふさの尻尾を……夏が近づいてきて、夏毛になりつつあるのか、少しだけ毛量の減った感じのする尻尾をゆらゆらと揺らし始める。


 その姿はワクワクしているというか、期待感に満ちているというか、今すぐにでも缶詰作りを始めたいという感じで……俺はそんなコン君にほっこりとしながら冷蔵庫のドアに手をかけ、中から今日使うつもりで用意していた具材を取り出し、テーブルの上に並べていく。


 イワシにサバ、市販のソーセージにベーコン、それと市販のレトルトパウチタイプのフルーツのシロップ漬け。


 フルーツ缶詰を作りたいといっていたコン君のために用意したフルーツのシロップ漬けに関しては……既に完成品というか、缶詰に入っているのと大差ない中身というか、わざわざ缶詰にするまでもない代物なんだけども……丁度良いフルーツが無かったのと、事前にスーパーで果物を買って試作した結果、ひどい味になったというか、煮崩れたというか、どうしても美味しくなってくれなかったので仕方なくそれを用意したという感じになっている。


 このシロップ漬けを使った場合にはどういう訳か上手くいってくれたので……まぁ、うん、プロにしか分からないシロップの配合比率とかなんとか、そういうのが影響してのことなのだろう。


 ともあれそうした具材を用意し、調味液に使う用の醤油やら味噌やらも忘れずに用意した俺は……腕まくりをしてしっかりと両手を洗ってから、缶詰作りに取り掛かるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自作の缶詰 長期保存できなくても楽しい ここはお餅を入れて 「おもちのカンズメ」 金のくちばしなくても大丈夫 [一言] テチさんの出番がなくて寂しい
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