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ショートショート『なろう風』 ~大先生への敬意とともに~

作者: 五日北道

 エヌ氏は机上のパソコンに向かって小説を打っていた。

 アイディアは泉のようにあふれて、とどまることを知らない。小説家になって食べていくのだ、とひそかに決意していたエヌ氏だが、その日、小説よりも奇なることが起きた。

 向かっていた机の、横長のひきだしが突然開いたのだ。

 エヌ氏は腹部を強打した。


 涙目で悶えるエヌ氏の前へ、謎の人物がひきだしから這い出てきた。


「……えーと、ドラ〇もんかな」

「失敬な。私は未来の君だ。忠告しよう。悪いことは言わない。小説家になるといった無謀な夢は捨てて、堅実に生きなさい。それが君のためであり、私のためだ」


 未来のエヌ氏と名乗る謎の人物は、言いたいことだけまくし立て、また手際悪くひきだしに消えた。


「ドラ〇もんじゃなかった。セ〇シくんだったか」


 エヌ氏はひきだしを覗きこんで、謎の人物の言葉を反芻した。

 ひきだしは、もう普通のひきだしに戻っていた。


「未来の僕というのは本当だろうか?小説家になるというのはたしかに無謀かもしれないな」


 エヌ氏は考えた。

 しかし、これまで書いたものをそのままにするのは少々惜しい。エヌ氏はとりあえず、これまで書いた分だけは【小説家になろう】にアップロードしてしまうことにした。


 すると、なんということだろう。

 エヌ氏の長編は見る間に人気を博し、一位に輝いた。

 エヌ氏は有頂天になった。トントン拍子に書籍化の話も進み、気がつけばエヌ氏は小説家デビューを果たしていた。


「なんだ、僕の話は売れるじゃないか。ひきだしから未来の僕が現れるなんて、現実にそんなことがあるわけがなかった。きっと僕は夢でも見たのだろう」


 エヌ氏は、これまで以上に筆が乗って長編を書き上げた。

 そしてそのうち、かの不思議な出来事を忘れてしまった。


 エヌ氏は続けて、次の長編を書き上げた。最初の長編でついた読者は、ありがたくも引き続き読者となってくれた。しかし、人気はあまりでなかった。

 なにこんなこともあるさ、とエヌ氏はまたべつの話を書き上げた。しかし、これもまた人気はでなかった。


 書いた話が二桁になり、あるときは路線を変えて、あるときは文体を変えてあれこれと試してみたが、結局、一作目以降は鳴かず飛ばず。気づけばエヌ氏は、定職もなく妻子もいない、中年といえるのもそろそろ終わりという年齢になっていた。

 エヌ氏は机に突っ伏してつぶやいた。


「ああ、私はなぜ無謀にも小説家になりたいと夢見たのだろう。こんなことなら、真面目に働いて、ささやかながらも家庭を持ち、小説などは趣味にすれば良かったのだ。若い頃の私に言ってやりたいものだ」


 するとなんということだろう。エヌ氏はひきだしに吸いこまれていた。


「いつの間に寝てしまったのかな。なんという夢だ」


 どうにか脱出しなければ。頭上に見えている出口にのそのそと這い出すと、なんとそこには若かりし頃のエヌ氏がいた。

 せっかくだ、これは夢なのだし、言いたい放題言ってやろう。


「……えーと、ドラ○もんかな」

「失敬な。私は未来の君だ。忠告しよう……」



注)『セ〇シくん』というのは、エヌ氏の誤解です。

しいていえば『シ〇カちゃんと結婚できなかったの〇太くん』が近いです。


なお、個人的偏見ですが、Narou諸氏ならば、定職も妻子もない程度のこと、それがどうした。好きなことを書いてここまで来ているのだからそれでいいじゃないか。という人のほうが多いのではないでしょうか。


お読みいただきありがとうございました。

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