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フーセンガム

 想い出なんて呼べる綺麗な物は

 すべて段ボールに入れて送ってしまおうと決めた。


 テレビはあいつの物で、パソコンは私の物。

 あとは全部私が決めていいといって押し付けた。

 いつだって最後の最後は私に任せて逃げてしまう、そんな男だった。


 せっかくの新居だからと気取って雑貨屋で買ったレプリカの絵

 二人とも絵なんて興味がないものだから掃除が億劫になり

 いまや白い額縁はホコリをかぶっている。

 拭きもせずに、あいつ行きの箱に投げ込んでしまう。

 別れたのだから、私だって想い出は少ないほうがいい。

 想い出が届けばあいつも悩む、

 そうだ、言うならば爆弾だ。

 私は今、爆弾を作っている。


 不要になるだろう食器をいくつか詰め込んでいく。

 あいつに送ってやれば料理の一つや二つ覚えるかもしれない。

 取っ手にテーマパークのキャラクターがついた

 可愛らしいデザインのマグカップを見つけ手が止まる。

 私はすぐ割れてしまうからやめようと言ったけれども

 あいつはコレがいいといった。

 夕方に始まったパレードでは年甲斐もなく子供のようにはしゃぎ

 そして、よく笑う男だった。私もつられてたくさん笑った。

 キャラクターを撫でながら丁寧に新聞紙に包み、

 あいつ行きの箱に詰めこんだ。

 どんなに忙しくても、朝だけは一緒にコーヒーを飲んだ。

 きっとこれからもコーヒーを飲むだろう。


 かがめた腰を伸ばし、ソファーに腰掛ける。

 コチコチと時計の針の音がする。

 もう、2,3時間もすれば箱詰めは終わるだろう。

 こんなものは、最初から気が済むまでつめたらおしまいだ。


 白い部屋に映える金色で縁取られた壁掛け時計。

 これは、高級品だ。私がもらおう。

 私は白が好きだ、次の部屋も白くしようと決めている。

 あいつはどうせ片付けもろくにできない、

 部屋をゴチャゴチャとさせるに決まっている。

 私が持つほうがこの時計にとっては幸せだ。

 そう、この部屋を白くしたいといったのは私だった。

 白いソファーに、白いカーテン、白い机。

 真っ白な世界で二人だけが色を持っていた。

 あいつは、大好きなおもちゃの人形を飾るのを我慢して実家に送ってくれたんだった。

 私がいなければ好きなだけ飾ることができるだろう。


 白い机には小さなコップに不釣り合いな造花が活けてあり、

 そのすぐそばにはテレビのリモコンとお菓子の個包装が無造作に置かれている。

 中身は飴ではなく、BubbleGumと記載された近所のスーパーでは

 あまり見かけない輸入菓子だ。

 タバコを家では吸わないでほしいといったら

 わざわざどこかから買ってきて楽し気に食べていた。


 なんとなく、口に放り込む。

 海外の製品らしく甘ったるい大味だった。

 美味しいとは思わなかったが、ただ懐かしい味がした。


 慣れないガムは、私にとっては硬すぎて

 十分に柔らかくなるまでに秒針が2回、金の中で回ったのが見えた。

 とても、長い時間だった。

 ふぅーっと膨らませたフーセンガムは

「パンッ」

 小さな音をたてて爆発した。

読んでいただきありがとうございました。

貴方のお時間をいただいたことに感謝いたします。

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