偉大な魔女だって最初は下手なんだよ、魔法
気が付いたら、ここにいた。ただそれだけのこと。それでも、転生という言葉は俺に強く響いた。
「俺が、転生者?」
「はい、そうです。あなたはこの世界に、転生したのです。」
「・・・転生って、本当にできるんだな。」
それにしても、ここはどんな場所なのだ?俺が女性?一体どういうことだ?王宮?まさか王女にでもなったわけでは・・・ないよな?
「俺は何者なんだ?」
「あなたは魔女ですよ、サティア様。」
「魔女だと!?転生ってふつう王子とか勇者になるもんじゃないのかよ!?」
というかここにきてから、ずっと声がおかしいと思っていたが、女になったからなのか・・・
「・・・勇者になる転生者もいますが、例外もいるわけです。しかもあなたは異能を持っていらっしゃる。
「異能・・・?」
「左様。いまも発動している、言語完全読解能力です」
「というと?」
「あなたはこの世界で、いかなる言語も話せるようです」
――つまりこういうことらしい、彼の話を聞く限り、俺は王族直属の魔女として転生してきて、ここに住むことになったらしい。今いる部屋は寝室だと思うが、相当広いし、ここが王宮なのは間違いない・・・はずだ。そして、俺はいくつか異能を持っているようで、そのうち一つが、言語完全読解能力だという。この国の公用語は転生者ならだれでも最初から話すことができるが、俺はその他の言語も聞くことができ、しゃべれば勝手に相手の喋る言語として伝わる。ついでに読み書きも最初からできるようだ。彼は自分の知っている言語を言えるだけ言い、確信したそうだ。あれ?これなら和睦とかもできるし、楽勝じゃね?
「ところで魔法使いってことは、属性とかあるの?」
「はい。あなたには水属性のオーラが見えます。」
「そういうのわかるんだな。」
「私の異能です。これしか異能はもっていませんが、普通の人間が異能を持つこと自体ほとんどないので、非常に珍しいのですよ。」
「そうなのか。で、水属性ってのは強いのか?」
「この世界では二番目に強いです」
「一番は?」
「・・・闇です」
彼はいきなり真剣な表情で言った。
――つまり俺は水属性で、魔法族で二番目の強さ。闇が一番強く、一時期世界を支配していたこともあったそう。俺がこうして魔女になって転生したのは、強大になりつつある闇の勢力を抑えるためでもあるそう。でもさ、なんなら俺、男のがよかったんじゃね?
「魔法って今使えるの?」
「ここでは無理ですが、庭なら使ってもよいですよ。」
庭に出て魔法を使ったのはいいが、それは到底魔法とは言えないレベルで、そう、下手だった。水を扱うなんてまったくもって不可能、風を作って雑草を揺らすことさえ出来なかった。
「大丈夫、初心者なんですから、初めのうちは出来なくたって、そのうち出来るようになりますって!」
――彼は微笑みながらそう言ったが、目は笑っていなかった。