9/20 過去に苛まれるだけで
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前回白い景色を見たときは一瞬しか見えなかった。
しかし今回はフッと目に残る程度の時間白い景色が見えた。
物も何もない白い空間の中で
誰かが一人立っていた。
9/20 AM8;45 例のボロアパート 203号室
あの白い空間に行ってからほぼ半日が過ぎている。
うん。あの空間に入ってからというもの時間の流れがおかしいね。
ここで部屋をぐるっと見渡す。
いつも通りの汚い畳に汚い襖。そしてちゃぶ台に置かれた皿。そしてそれに乗っている黒い物質。
そしてその黒い物質をフォークで刺してにこやかに「あーん」と言いながら俺に向けてくる大家さん。
・・・気のせいだろうか。白い空間に行く前と比べ何となく状況が変化している気がする。
念のためにもう一度見渡す。
汚い襖、畳。薄汚れたちゃぶ台にその上にある未確認物質が乗った皿。
そしてその未確認物質をフォークでぶっ刺して俺のほうに満面の笑みで差し出す大家さん。
・・・大家さんが起きている(起動している)。
「・・・っ!!!!」
声にならない恐怖が俺の体中を駆け巡る。
あまり記憶がないが白い空間に行く前、大家さんの暗黒物質を食べた気がする。
あれ以降舌の感覚がないのはご愛敬である。
ついでに言うと意識が未だ朦朧としているがそれもご愛敬である。
まぁそんなこんなでもう食べたくない。
冗談なしに生きた心地がしない。
てなわけでこの場から逃走します。
俺からこの部屋の入口までの距離は2、3メートルもない。対して、大家さんの持つ未確認物質から俺の口までの距離は50センチもない。
というより大家さんの持つ未確認物質からアーモンドみたいなにおいがする。どこかの推理漫画ではあの眼鏡をかけた小さいのがクンカクンカして「これは・・・アーモンド臭!!」とか言いつつ眼鏡きらーんとするシーンである。
ともかくチャンスは一回。これを逃せば絶対に死ぬ。(青酸カリ的な意味で)しかも徐々に大家は俺に黒い未確認物質を近づけてくる。
早めに逃げるかここで死ぬかの決断しないといけない。
あまりの恐怖と緊張で俺の膝は完全に笑っている。そして冷や汗がだらだらである。
ここで動かなかったらきっと将来後悔するだろう。
まぁここで死んだら後悔することもできないですけどね!!
逃げました。そりゃ死にたくないですもん。
グレイ=アンドリューのいなくなった203号室で大家さんは苦笑いしてポツリと
「何となく食べてくれる気がしたんだけどな・・・」といい、未確認物質を口に運び、
倒れた。
9/20 AM8:46 ボロアパート前
地獄の空間と化した203号室から無事脱出できた俺は胸をなでおろす。
とりあえずは死から逃れることはできた……のかもしれない。
203号室に帰ったら大家さんが待ち受けているかもしれない。
その場合は良くて半殺しだろう。 良くて、だ。
まぁなんにしても のこのこと203号室に戻ることはできない。
どうしたものか………と思っていたら、おとといの晩のことを思い出す。
鳥肌が立つ。
寒いわけではないのに。
体に刻み込まれた恐怖はなかなか拭い切れない。
これをトラウマと呼ぶのだろう。
もう会いたくない。
もう見たくない。
もうそれが発する音声を聞きたくない。
もうあの得体のしれないゾワリとした平和な生活が瓦解したような感覚は感じたくない。
自分の足が震えていることが分かる。
いや、足だけではない。
全身が、震えている。
あの不気味で悪趣味な殺戮人形といってもいいだろう物体はこの先慣れることはないのだろう。
まぁもう会うことはないのだろうが。
しかしもう会うことはないだろうが、何の対策をしないほどグレイ=アンドリューは馬鹿ではなかった。
いや、バカなのだが。
そのうえ魔術で飯を食っていくのだから魔術ができなかったらどうしようもないだろう
と思ったのだった。
魔術師を最初に志した理由とは大幅に変化していた。
とりあえずは基本的なことを学ばなければ。
俺はそう決意し、おととい訪れたオフリッド国立図書館のほうに足を向けたのだった。
9/20 AM9:15 オフリッド国立図書館
と流れでここまで来てしまったが、実際のところマナを流したい部位に流す感覚をつかまないといかなる魔術も使いこなすことができないと思う。そもそも俺の生命エネルギーが赤魔術のマナに変化しているか定かではない。大家さん曰く
「一回生命エネルギーを脳内で変換したらそれ以降は何も考えずに変換できるようになるから」だそうだ。
で、小学校の頃にオフリッドの人々の多くは初めてマナを生成するのだがなんせ俺は小学校のころからさぼり癖がついており、なかなか小学校に行かなかった俺は満足にマナを生成することができなかったのでした。
まぁそれはともかくその時に教えられるマナの生成のコツは「イメージ」らしい。
うん。まぁなんともアバウトなことだ。
そこで俺は赤魔術について書かれた本を借りて図書館を出た。
9/20 AM10:30 あのボロアパート
早速俺の部屋に入ろうとするが、大家さんがいたことを思い出す。
危ない危ない……危うく死ぬところだった。
さて、どうしたものかと思いつつ街をぶらつく。
あてもなく町を散策し始める。
9/20 AM10:35 ある公園
自然とたどり着いたのはとある公園。
試験を受ける前日に魔術についてちょろっと勉強をしたあの公園である。
初めてこの公園に来た時と何ら変わっていない。
まぁそれもそうだろう。上京してきてまだ一か月しかたっていないのだから。
……一か月か。なんかこの一か月でいろいろなことが起きた気がする。
現在住んでいるアパートの大家さんからふんだくられて、
警官の気まぐれによってつかまり、その上パフェ代を支払う羽目になり、
無事釈放され、無事アパートを借りたら爆発に巻き込まれ、大家さんから冤罪で殴られ、
親戚の住んでいる部屋のインターホンを壊し、自分の部屋のドアが壊れることになり、
インターホン・ドアの修理代を支払う羽目になり、
なんやかんやでアパートの住民全員からプロレス技をかけられ、
大家さんの作った謎料理を有無を言わさず渡され、
よくわからない化け物に会った。
ここで俺の足がはたと止まる。
後ろから人の声が聞こえた気がしたが、詳しくは聞こえない。
自分の世界に入ったのだから。もう外界からの信号は拒絶され、カットされる。
視覚も、嗅覚も、味覚も、聴覚も、触覚も。
再びあの化け物のことを思い出したのだから。
再びあの化け物と心の中で対峙したのだから。
逃げ出したくても足がすくんで自力では逃げられない。
恐怖で固まり顔すら背けられない。
その中で思い出す、あの無機質な赤い五つのライトを。
その中で直視する、あのぽっかりとあいた赤黒い口とそこから伸びている舌を。
何となく肩に外的刺激を受けた気がするが体が反応しない。
幾度もフラッシュバックする恐怖によって、
痛みによって、
絶望によって、
瞳孔が開き、
体中の汗腺から汗は吹き出し、 口からは荒い呼吸がこぼれる。
と、ここで「ガチャリ」という金属と金属が触れ合う重苦しい音とともに、左手首にずっしりとした質量がかかるのを境にして意識が覚醒する。
あの化け物の姿が霧に紛れるかのように薄れていくのを感じる。
再び体にありとあらゆる情報が入っていくのを感じながら俺は目の前を見る。
そこには砂場で砂遊びをする二人の幼女。
そして後ろを振り返ると一人の警官。
自分の手首を見ようと下のほうに視線を送るとそこには手錠がはめられていた。
ここで俺の頭はフル回転し始める。
が、出てくる答えは「なぜ手錠が?」ばかり。
そこで後ろで左手にも手錠をかけようとしていた警官に物申そうと口を開く。
とそこで気づく。この警官何となく見たことがある……気がする。
名前は確か……田中さん!!
と、ここで田中さんは口を開く。
「犯罪を犯しそうなやつは逮捕ですね。」
かくして俺は再び逮捕されたのだった。
9/20 PM7:15 警察署前
今回もパフェを食べつつお話をしただけで済んだ。
取り調べって何なんだろう……。
すっかり遅くなってしまった。
またあの化け物のことを思い出そうとするが、頭を振り、強制的にその存在を振り切る。
そして俺はそそくさとあのボロアパートに向かい歩き出すのだった。
9/20 PM7:35 ボロアパート
無事にアパートについた。
様々な回想や逮捕のせいでうやむやになっている気がするが、俺の右手に収められている図書館から借りた本は健在である。
借りるときは寝る前に少し読むか程度だったが、今はどっと疲れており、読む気が全く起きない。
おとなしくアパートの外にある鉄製のぼろ階段を手すりによかるように上り、203号室のドアを開け、
ゆっくりと中に入る。
203号室は真っ暗で人の気配がない。
出る前にここで戯れていた大家さんは出て行ったのだろう。
そりゃそうだ。
半日近く一人で他人の部屋に滞在するってどんな苦行だよ。
そう思い一人でほほ笑もうとしたら後頭部に鈍い衝撃を受ける。
「ゴッ!!」と音とともに俺の体は前のめりに倒れる。
何が起きたかわからなかった。
床に倒れ伏し、徐々に視界が狭まる中、見えたのは二本の足。
聞こえたのは「あなたが悪いの。」という声。
ここで俺は背後から殴られたことに気付く。
「なんで……。俺が……?」
とグレイ=アンドリューはつぶやき、意識が途切れた。
投稿するのすごい日にちがあいてしまった……。すいません。
ところでボロアパートに住む住民が全然出てこないという事実。
題名変えて「主人公と大家さんと田中さん」でいい気がしてきた。(良くないです。)
というより田中さんって話し相手が欲しいだけで善良な市民を逮捕するんやな。
すごい人だ。 いろいろと。
今回文章で遊んでみました。
読みにくいかもしれませんがそこのところはすいません。
謝ってばかりですね。すいません。←確信犯
というよりこんなにあとがきをだらだら書いたのは初めてですね。
それではまた。(近いうちにアパートの住民を出したい。)