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re:end  作者: おっさん
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9/18  未知との遭遇 1

9/18  PM17:30  オフリッド中央魔術センター

 9月になって若干、日が落ちるのが早くなった気がする。、こちらに来て早五日。早いような、遅いような。

やっぱり遅いな。と、どうでもいいことを考えながらそそくさと練習場を出る。

隣で練習していた人は、「ん??なんだあいつ。二時間以上占領していったい何がしたかったんだ??」

と言いたげな顔してこちらを見ているが無視である。無視スキルはわたくし非常に高いのである。(自慢ではないが。)こうしているうちに真っ暗になってしまった。早く帰ろう。


9/18  PM17:40  

 電灯が煌々と光る道をのんびりと歩く。今何気に電灯といったが、電線は地中に埋め込まれている。地震が少ない地域だからこそできることだ。このシステムができたのは大体150年前と言われている。

当時は戦争で地面が更地になったから工事しやすかったそうだ。………ただでは転ばねえな。昔の人。

そんなこと考えてたら、一人の人影が見える。向こうの人はどこか疲れているのか、それとも酔っぱらっているのか、ふらふらとこちらに歩いてくる。そして電灯に照らされて現れた姿は。


              人ではなかった。


青白い肌。髪が一本も生えていないツルリとした頭。顔のほとんどを占めているんじゃないかというほど大きな口。その口からはみ出た長いを赤い舌。

そして人の場合、目がついているとこにはライトが埋め込まれた金属板が取り付けてあった。

その金属板にはめ込まれた五つのライトは赤く光り、正五角形に並んでいた。


9/18  PM17:40

何だあれは。

人は自分の考えが及ばないものに出会うと戸惑い、それなのに好奇心がわくのだろうか。

そんなことを考えているうちににそれは10メートルという距離にまで近づいていた。

………何もしなかったらそれは俺に危害を加えてこないだろうか。

………加えてこないだろう。なんせ相手は歩くのもやっとという感じだ。そう一途の希望を抱いていると、

「………ルギー。」     とボソッとつぶやいたかと思うと、

一気に近づいてきて、俺の左肩を噛み……そして噛み千切った。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

肉体をえぐられた痛みに耐えきれず後ずさりをする。

グレイ=アンドリューの顔からは戸惑い・好奇心などの表情は消え、代わりにそこには恐怖がただ一色張り付いていた。

そんなグレイ=アンドリューの目の前で殺戮人形であるそれは淡々と言葉を紡ぐ。


   「生命エネルギー充填完了。これより破壊活動を開始します。」


9/18  PM17:41

 青白いやつの両手から生み出されたのは青白い炎の球。『ファイヤーボール』ってやつだ。

それが………俺に当たった。いや正しくはぎりぎりのところを通り過ぎて行った。

「っつ!!」

かすっただけなのに感じる熱さ。痛み。

というか弾道見えなかったぞ。今日図書館で見た魔術の教科書っぽいやつに書かれている時速60キロくらいって嘘だろ。

………そういやマナの込め方しだいにより、火力もスピードも変化するとか書いていたよな………。

なるほど。推測するに、今のが最大火力かつ最大速度なのか。(いや、だから俺冷静すぎるでしょ。)

そして一気に距離を詰めてきた青白いやつは手を手刀の形に構えて手からこれまた青白い炎を出す。

まるで炎を纏わせた刀だ。これで切りかかる。

相手との距離は1メートルもないほど至近距離。ふつうはよけられるわけないが、よけなかったら多分死ぬので(というか絶対死ぬので)死ぬ気でよける。

幸いながらも目の前の人形はモーションが大きい。

つまり手刀を振る腕の動きが大きいのだ。

隙が多い。といってもよいだろう。

このことから戦闘慣れしていないのだろう。(戦闘慣れしていないのはこちらも同じだが。)

そのため何となくでも手刀の斬撃が襲い掛かってくる場所が分かる。

どれほど続いただろか。急に青白いやつは炎を纏わせた手刀を振るのをやめた。

見るとやつは手が焼き崩れていた。手首から先がなくなっていた。

勝った!!と思いマウントをとるため、そいつに近づき、頭を手で押さえ、動かぬようにマウントをとろうとした瞬間。急に手が再生し、その手が地面に触れた。

その瞬間。爆音とともに世界は暗転した。


9/18  PM17:43  

 どれほど気絶をしていたのだろうか。一瞬なのかもしれないし10分なのかもしれない。

顔色が悪い顔面が口だけみたいな化け物の魔術のせいか、アスファルトで舗装された地面は広く、深くえぐれていた。

地中にあった電線が切れたのかそこらへんは闇に覆われていた。

あまりにも暗いせいか、あの化け物の姿は見えなかった。

爆発に巻き込まれた瓦礫に全身を打たれたのか身体の節々が痛む。

その中俺はよろよろと力なく立ち上がる。

人は恐怖に襲われたとき本能的に光を求めて歩き出すのだろうか。

俺は本能的に遠くのほうでまだ灯っている電灯の方向に歩き出した。

……とその時、

「エネルギーエネルギーエネルギーエネルギーエネルギーエネルギー!!生命エネルギーーーー!!!」

背後から奴の叫び声が聞こえた。

どうやらさっきの魔術(地面を爆発させたやつ)でマナが切れたようだ。

つまりこれからアイツに噛まれなければ奴はマナが切れて魔術を発動することができなくなる。

もしかしたら奴に勝つことができるかもしれない。


………まだ死にたくはないから生きるために戦おう。

    

    第二ラウンドの始まりだ。


9/18  PM17:46

 俺は今のところ魔術を使えない。いままでの生活を恨む。

なぜ小学校で真面目に授業を受けなかったのか。

なぜ叔父の口車に乗り王都にやってきたのか。

なぜ爆睡している大家さんを起こしともに帰らなかったのか。

なぜ なぜ なぜ なぜ なぜ……。

そんなことが脳内の片隅に思い浮かぶ。そんな思いを振り切って前をにらむ。

必ず帰ってみせる。

大家さんをとっちめるために。

そのためには………目の前の奴をしばきあげるわけしかないわけで。

「うーん。無理ゲーな気しかしないけどやるしかないですよね。」

状況は変わらずに最悪なのに、なぜか心は軽い。

何かが振り切れたのだろう。

その時奴は動いた。

「生命エネルギイイイイイイイイ!!!!!」

奴は姿勢を低くとって突っ込んでくる。どうやら太ももを噛んでくるようだ。

ただこちらには好都合。

こぶしを振りかぶって上から下へ勢いよく振り下ろすだけの簡単なお仕事をするだけで………

「ぐしゃり」という生々しい音を立てて相手は崩れ落ちた。

こぶしに残る嫌な感触。

そして鈍痛。

これだけではムクリと起きるかもしれないので(手が再生するほどの再生力を持っているし。)

マウントをとって何回もこぶしを振り下ろす。

何回、何十回、何百回こぶしを振り下ろしたのかわからない。

ただただ何も考えず何も感じず振り下ろす。

振り下ろして振り下ろして振り下ろした。

俺の下にいるよくわからない物の顔は血なのかわからないが赤く染まっていた。

その化け物は血が流れているのだろうか。

あいつは起きる気配がない。

勝利を確信して、俺はふらりと立ち上がる。

愛するべきボロアパートに帰るためゆっくりとその場を立ち去る。

もともと体力がないため走る体力がなくなっていたのである。

殴りすぎたせいかこぶしが痛い。

血がついていた。

赤い血がついていた。

手が切れてその付近に血がついていた。

手の切り傷から泉のごとく血があふれ出ていた。

………………………………………は??

血が出ている? 俺の手から?

…………ならあの化け物の顔に付いていたあの血は………………。

気配であの化け物がふらりと立ち上がるのを感じる。

「あらま。やっちまった……。」

「生命エネルギー少量充填。これより破壊活動を再開します。」


9/18  PM17:48

 嘘だろ………………

振出しに戻っただけだと………………

いや、今の俺はぶっちゃけて言うと満身創痍。

肩を噛み千切られ、手は血が滴れるほどのけがを負っている。

前よりも状況は絶望的。

………それでも戦わなければ。

逃げた瞬間死んでしまうような気がした。

もはや恐怖や過剰な自衛意識で冷静に考えることなどできないようになっていた。

「おらあああああ!!」

俺は雄たけび(?)を上げながら顔が血で赤く染まり切ったあの化け物のほうへ突っ込む。


9/18  PM17:49

 「あああああああああああああああああああ!!」

奴を殴るたびに俺は痛みのせいか叫ぶ。

奴を殴るたびに「ぐしゃり」と鈍い音を立てる。

奴の体がつぶれて発せられる音か俺のこぶしがつぶれて発せられている音かわからない。

どれだけ時間がたったのだろう。

終わりは突然だった。


  「ぐじゃり」


と、鈍い音とともに、こぶしが腹を貫いた。

詳しく言うと、相手のこぶしが俺の腹を貫いた。


恐る恐る下を見ると、青白い火炎を纏った化け物の手が俺の腹を貫通していた。

「ぁ??」

何が起きた?

貫かれた腹の周りは炭化しており、血は出てない。

焦げ臭い臭いとともにボロボロと崩れる自分の肉片。

見ていて気持ちのいいものじゃない。

と、ここで今更のことながら痛みがやって来た。

あまりの痛みで立つこともできない

       叫ぶこともできない。

       何も   できない。

ただただ地面に転がりながら静かに ゆっくりと瞼を閉じることが精いっぱいだった。

かすかに「ニートよ、こんなところで死ぬとはしょうもない」

みたいな男のような声が聞こえる。

幻聴なのだろう。

あと一応魔術士だからニートじゃないし。

きっと意識が遠のいているから聞こえたんだろう。

誰かがやってくるのが見える。

これも………多分………幻覚だろう


そして視界が狭く、見える風景の色が薄くなっていき、


        俺は死んだ。












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