天使の卵の大冒険
【よつ葉お正月企画】の作品です。
この作品は菜須よつ葉さまと、よつ葉さまのエッセイ「よつ葉の看護日誌」の内容からインスピレーションを受けています。
ご本人さまのご了承を受けて、登場人物やエピソードをお借りしています。
「あれ? わたし、どうしちゃったの?」
わたしはパチパチと瞬きをして、首をかしげた。
だって、見たことない場所に立っているんだもの。
ええと、今わたしがいるのは、どこだか分からない森の中。そりゃあびっくりするよね。
「何言ってるの、よつ葉!ボーっとしてちゃダメよ!モンスターを倒さなくちゃ」
あ、美羽ちゃん。何でそんな格好してるの?
美羽ちゃんは、黒いワンピースに黒のローブを羽織っていて、木の杖を持っていたの。わ、かわいい。魔女みたい。
なにこれ、新年のコスプレ大会?
そりより、え? えええ? モンスターって何?
「やだ。怖いよ、モンスターなんて」
「そんなことを言っていられない。あれを倒さなくちゃ、患者さんたちを助けられないんだ」
紺野君……なんだけど、どうしちゃったの? 真面目な紺野君までコスプレしてる!?
紺野君はゲームに出てくるキャラみたいに白いローブを着て分厚い本を持ってたの。わぁ、似合ってるなあ。
「ねぇ、紺野君は何のコスプレしてるの? これって何のイベント?」
はてなマークでいっぱいのわたしが聞くと、紺野君は真面目な顔で答えてくれた。
「何言ってるんだ。俺は賢者だよ。イベントなんかじゃないだろ。よつ葉は勇者なんだから、しっかりしてくれよ」
「ええええええっ」
自分の体を見下ろしてみると、わあ、なんだかカッコいい鎧を着てる。きゃあ、わたし、なんだかすごそうな剣を持ってるーっ。
「ほら、モンスターだよ」
美羽ちゃんの言葉に顔を前に向けたら。
あっ! あれは乳房腫瘍触診模型! なんか羽が生えて飛んでるーっ!
「あれは触診でしこりを探せたら倒せるぞ」
紺野君が教えてくれた。そうなんだ。流石、賢者だね。
それにしても空飛ぶ模型ちゃん。なんだか懐かしい。
「よし! あれは俺にまかせて」
あ、小野君もいたんだ。なんか手つきがわしゃわしゃしてる。
小野君は模型ちゃんがちょっと低い位置を飛んでるときを見計らって、えい!と捕まえた。
「ええと、小野君の職業って……」
小野君は片目に星と涙の化粧をしてて、派手な服を着てる。なんだかピエロみたい。
「にぎやかしの遊び人よ」と美羽ちゃん。
あはは。やっぱり。すごい似合うー。
「よし、ここと、ここと、ここだー!」
小野君はしこりを探り当てた!
あっ、モンスター? ええと、模型ちゃんモンスターが光った。
「やった! 鍵ゲット」
小野君が得意そうに胸をそらして、金色の鍵を高く掲げた。やったね。
「よし、進もう」
小野君が鍵を手に入れたら、森の木がざっと横に移動して道が出来たの。すごい。
新しく出来た道を進むと行き止まりに来ちゃった。
「次のモンスターが出てきたぞ」
あっ、あれは採決の注射器。それに採血針や採血バッグもある。こ、これはもしかして献血!?
もしかして、もしかするの? 痛いのは嫌だなあ。
「もう、よつ葉。そんな嫌そうな顔して。まあ、よつ葉貧血だもんね。しょうがないなあ。私がやるわ」
わたしを見て溜め息を吐く美羽ちゃん。
顔に出ちゃってたかな。でも、ほら、貧血だから仕方ないよね。このは美羽ちゃんに任せちゃおう。
採血の注射器、なんだか本物よりも大きくない? 大丈夫かな、美羽ちゃん。
ハラハラしている間に問診が終わって測定の為の採血も完了。いよいよ本番の採血だあ。
「い、痛くないの?」
「痛いのは最初のチクッだけだよ。平気、平気」
採血バッグがみるみる一杯になっていく。モンスターだからかな。実際の献血よりも速いみたい。
無事献血バッグが一杯になったら、また光った!
光りと共に献血道具の一式が消えて、代わりになにかが美羽ちゃんの前に落ちてきた。
「やったね! ナース名札ゲットだよ」
美羽ちゃんはアイテムのナース名札を持ってにっこり。
献血の後は安静にしておかないとね。ちょっと休憩していたら、また木が動いて道が出来たの。
道を進むとまた行き止まり。
そこへ現れたのは、ふよふよ浮いてる看護計算ドリル問題だぁ。
「ぐはぁ!」
小野君がダメージを受けた。大丈夫?まだやってもいないよ?
「俺が解くよ。文系だから苦手なんて言ってられないから」
流石、紺野君。計算ドリルが勝手にめくれていって、紺野君は一つずつ答えていった。
そこへ、アナウンスみたいな声が響いた。
『ドリルの内容について、作者に知識はございません。読者のみなさんも難しいことは読み飛ばしかと思いますので、割愛いたします』
「えっ? なんか聞こえたぁ」
びっくりするわたしに、美羽ちゃんが当たり前のことみたいに答えた。
「ああ、あれは天の声だから。気にしない、気にしない」
そうなの? モンスターとかいるくらいだもの。深く考えちゃ駄目だよね。
「よし! 全部解き終わった!」
「お疲れ様、紺野君」
最後の問題を答え終わると、ドリルが光ったの。
光が消えて現れたアイテムは、成績表S。また新しい道が出来た。
ようし、もうパターンは分かっちゃったよ。進むとモンスターが出てくるんだよね。
意気揚々と進んだところで、わたしは目をまるくしちゃったの。
えっ、あれもモンスター?
だって出てきたのは小さい女の子。意表を突かれちゃった。
「聴診器で心音を聴けたら倒せるぞ。よつ葉、勇者の君なら出来る」
紺野君がそう言ってわたしの肩を叩いた。
「えっ?わたし?」
「よつ葉なら出来るよ。頑張って」
小野君も握りこぶしを作って、にっと笑った。
「ファイト! よつ葉」
美羽ちゃんも応援してくれる。
よーし、頑張っちゃう。
すると、持っていた剣が聴診器になっちゃった。わあ、便利。
「こんにちは。もしもしさせてくれるかな?」
「嫌」
キラキラした瞳でかわいく「嫌」って言われちゃった。
「どうしていやなのかな?」
「だってそれかわいくないんだもん」
わたしが持っていたのは聴診器は先生が持つ黒くてゴツいタイプのもの。そうだった。
「そっかあ。そうだよね、かわいくないと嫌だよね。じゃあ、これならどうかな」
わたしがそう言うと、黒い聴診器がぱあっと光って、ピンク色の聴診器に早変わり。ふふ、やっぱり便利ー。
「これだったら、いいよー」
にっこり笑ってくれた。かわいい。
女の子に聴診器を当てて心音を聞く。
女の子からピンク色の光がふわっと出て、眩しくて姿が見えなくなったと思ったら、いかにもな宝箱が現れたの。
「流石、勇者よつ葉。宝箱ゲットだ」
「よし、鍵で開けようぜ」
小野君が鍵を渡してくれた。
宝箱の鍵を差し込んで回すと、カチャリという音がした。
「開けるね」
ドキドキ。
宝箱の中に入っていたのはナースキャップ。
たくさんの人に囲まれて、よつ葉の為にしてくれた戴冠式を思い出しちゃって、目頭が熱くなる。
とっても温かくて、忘れられない戴冠式。看護師長や教授、医師から頂いた言葉と、あの時の誓いが胸に溢れてきた。
わたしが着けていた鎧が白衣になって、胸にナース名札、剣がバインダーに変わり、手の中に収まった。
『おめでとう、よつ葉さん。これは看護師としての、未来のあなたの姿です。あなたのおかげで、これから沢山の患者さんが救われます。さあ、ナースキャップを取って』
また天の声とかいう、アナウンスが響いたの。
わたしが宝箱の中からそっとナースキャップを取り出すと、前が見えなくなるくらい眩しい光に包まれて、思わず目を瞑っちゃった。
ぱちりと目を開けると。
「あれ?」
布団の中でわたしはキョトンとした。いつものわたしの部屋だ。じゃあ、さっきのは夢?
手をついて半身を起こすと、何かが当たった感触がした。ナースキャップだ! あれ、わたしこんな所に置いてたかなぁ。
おかしいなと首を傾げたけど、まあいいかとわたしは笑った。
新年に見た初夢は、正夢になるっていうものね。
今まで学んで経験を積んできた三年間、関わった患者さん、教えてくださった指導看護師や医師の方々、教授や看護学生の先輩たち。
大丈夫。みんなわたしの中に積み上がってる。
嬉しいことや、簡単にいくことばかりじゃなかった。
大変だったり、辛かったり、傷ついたり、上手くいかなかったり、命を預かる責任に潰れそうになったりもしたけれど、みんな糧になってる。
看護師になった時、これは全部キラキラ光る宝物になる。
白衣の天使を目指して、きっと夢を現実にしよう。
そう、新年の目標を立て直したのでした。
とてもがんばり屋さんのよつ葉さま。
あなたなら、きっと素敵な看護師さんになることでしょう。そしてきっと沢山の患者さんが、あなたの笑顔や前向きな言葉、的確な判断で救われることでしょう。
未来はあなたの努力が引き寄せます。応援しています。
私を含め、患者になるかもしれない人たちへ。
採血や点滴、その他もろもろ、やっぱりベテランの看護師さんの方が安心だし、痛くないんじゃないかと思う。
でもですね、誰もが初心者から始まるのです。看護師の卵である看護学生は、いつか立派なベテラン看護師になります。
もしも看護学生さんがあなたの担当になったなら、どうか温かい目で見てあげて下さい。
学生だからという色眼鏡で見ずに、彼らの働きを見てあげて下さい。
詳しくは私から説明するよりも、下記の作品を見た方がよく分かると思います。
「よつ葉の看護日誌」
https://ncode.syosetu.com/n0999eb/