ちゅーされた
「あ、お兄様、あのさぁ、お母様に……やっぱりなんでもない」
「言いたいことがあるなら、言ってみろ」
「ないって言ってんの」
人の話、ほんとにこの兄聞かないよね。前よりコミュニケーションとってるし、さすがに結婚したからか前ほど悪口も悪態も減ったし、話しやすくなったけど。
とか思ってると、真顔をぐいっと近づけてきた。キスかな?
「シャーリー、さすがに二週間近く、そんなもの言いたげにされて、追及しないわけにはいかないぞ。いいから言え。どうせ大したことではないだろうが、お前の小さな頭では答えがでないんだろう?」
は? 気づいてたのか。と言うか、もしかして心配しているのか? 失礼すぎる言い方だけど、もしかしなくても、兄上ツンデレだしな。結婚してそれなりの時間を過ごしていれば、さすがに兄が俺を嫌ってるとは思わない。そう言う好きではなくても、妹とか家族枠ではそこそこ大切にされてるのはわかる。
「いや、大したことじゃないんですけど」
単に、この間、母からあんなことやこんなことを聞こうとしたら、兄に許可とれって言われたから、とりたいだけなのだ。だけど、なんか、めっちゃ積極的みたいで恥ずかしいっていうか。なんか、やっぱりそういうの好きな変態かよ、みたいに思われて嫌われたらいやって言うか。それでつい、躊躇ってしまう。
「……」
どう言おうかと兄の顔を見て、はっとする。
俺さっき、顔近づいただけで、キスかって普通に思ってしまった! う、なんか、受け入れてるみたいで、ハズイ。いや結婚してるのは受け入れてるけど、その、やっぱまだ兄で男相手だって抵抗ある上での、マシにするための母への質問だったのに。
キス受け入れてるのは、なんか、いちゃつくOK的な、恋人感覚として受け入れてる的な感じがして、めっちゃ恥ずかしいんですけど!
う、うう。顔熱い。まだ何も始まってないのに、こんなに照れるとか、おかしいぞ俺。何兄相手に照れてんだ。だいたい、考えたら、男同士なら下ネタ言うのにそんな抵抗感じる必要もないはず。……それはまた違うか。本人なんだし。
「なんだ、そんな顔をして。ふっ、下手くそに、キスでもねだっているつもりか?」
「! ち、違うしっ。ちょっと、考えたけど、でもねだってない!」
キスされた。違うのに。うう。
「で、何を言いたかったんだ? 早く言わないと、始めるぞ?」
「う、その……他意はないよ? 他意はないんだけど……お母様に、俺に、この後することとか、そう言うのに関すること、聞くなって、言ったらしいじゃん? そう言うの迷惑っていうか、やめてほしいんだけど。ってか、まぁ、言って子供の時だろうし、もういいって一言もらえたらいいだけなんだけど」
「……お前、それを聞いて、どうするつもりだ?」
「だって、なんていうか、あんまりよくないし、兄にしてもらうだけってのもあれだし、何ていうか、わかるでしょ? 大人なんだから」
「……」
黙ってされた。もしかしなくても、プライドを刺激したのかもしれない。
さすがにこれは俺も反省。ってか、俺の体が生まれてからずっと綺麗だったし、性欲ないし、慣れてないってのあるし、兄の腕前がうんぬんってつもりはあんまりなかったんだけど。
でもそう言うの説明しにくいし、申し訳ないから今日は黙って受け入れた。
ていうか、俺のいたとこの知識でなら、俺の体のことはわかんないけど、少なくとも兄にしてあげることは考えつくことはできる。でもこっちの常識わかんないし、勝手にして変態扱いされたくないから、確認したいんだよね。
それだけだったんだけど。
「シャーリー、お前は妙なことを知る必要はない。だが……お前の希望はわかった。俺が何とかするから、おとなしくしていろ」
「え、何とかって……ちょ、ちょっと待って。何する気?」
「大丈夫だ。安心しろ」
「安心できない! 俺以外としないって約束しただろ!」
「……あ、安心しろ。そう言うのは、しない。約束する」
「ほんとに?」
「ほ、本当だ」
うーん。目をそらされたけど、顔赤くて照れてるみたいだし、本気っぽいなぁ。じゃあ、いいか。
○
「うーん……あ?」
目を開けると、前で兄が寝ていた。……あれ? 朝? 兄が昨日は俺を起こさなかったってことは、いつもより遅かったのかな? 急にそうなるなんて、珍しいなぁ。
普通に結婚前に寝てた時間で寝たまま朝になったので、自然に前と同じ時間で目が覚めたけど、兄はこの時間まだ寝てたのか。俺、女だから身だしなみの時間かかるしね。
「……」
兄の寝顔なんて初めて見た。こうしてじっと顔を見ると、イケメンだなぁ。やっぱり。
兄は俺と血がつながってないから、髪の色も違う。前世だと、世界中の人間の殆どが黒か黒に近い茶で色の多少の濃さしか違わない。たまに隔世遺伝で色出るくらいだった。でも今は文明レベルが古い時代だからか、いろんな髪の色がある。
俺はちょっと薄い茶色で、あんまり面白みがないけど、兄は青い。青なんて、過去の資料映像でも見たことないから、かなり珍しいと見せかけて、見たことないピンクとか緑とか、この世界の髪はいろんな色が溢れている。
当然だけど、睫毛も青い。よく見るとわかる。ってか、よく見ると睫毛長いな。年上だけど、こうしてみたら、結構無邪気な感じも出てて、普段のしかめっ面考えたら笑えるし、ちょっと可愛いかも。
今日は朝からちょっと得した気分だ。起きたらからかってやろう。
「んん……」
お、起きるかな?
「しゃー、りー……」
え、な、何で俺の名前呼ぶんだよ。寝てて呼ぶとか、俺のこと好きすぎじゃない? ……ハズイわ!
俺は目を閉じてもう一回寝ようとした。照れた顔では、からかうどころかからかわれる。朝からそんなことされたら、侍女呼べないわ!
「……ああ、夢か。道理で」
げ、俺が寝るより先に起きやがった。くそ。寝たふり寝たふり。
「ん? 赤いな。風邪か? おい、起きろシャーリー」
顔の熱ひいてきてるのに、すぐ気づいてんじゃねーよ。うー、揺らすな。起きないぞ。絶対起きないぞ。俺は寝てるぞー。
「おい、本当に大丈夫か?」
おでこに生暖かいものがあてられて、手で熱を測られてると気づく。う、ストレートに優しくすんな。照れて熱上がったらどうする。
「……少し高い気もするが、シャーリーの朝はこんなものだったな」
あ? え? 俺の朝の平熱覚えてるってこと? え、もしかして毎日触られてんの?
「……ふん。可愛い顔で、誘惑するお前が悪いんだぞ」
は? か、可愛いって言われた? え? 誘惑してないけど、可愛いって言われた!?
と混乱するより早く、頬に何か柔らかいものが触れた。その感触で何かがわからないほど、俺と兄の新婚生活は枯れてない。
「さて」
離れた気配を感じたから、ばれてないと思うけど、俺の体温爆あがりである。
嘘だろ? なんだかんだしてるし、俺の体に関して魅力ゼロと思ってるわけじゃないとは思ってたけど、可愛いって、俺のことそう思ってたの!? そんで俺が寝てる隙に毎日ほっぺにおはようのチューしてたの!?
はぁ!? はー!? ふざけんなよ! なんだよそれ、俺のこと、好きすぎじゃね!?
「じゃあな、シャーリー、行ってくる」
寝てるからって、何めちゃくちゃ優しい声出してんだよ! てか寝てるのに律儀に挨拶して、あ、頭撫でられてる!
「いい子にしていろよ。俺も頑張るからな」
うおおおおお! な、なんだこれええええ!
な、なん、なんだよ。俺にべた惚れじゃん! 今までのそっけなさなんなの! ツンデレにもほどがある! うわぁぁ……やばい。なんか、嬉しいって思ってるのが、やばい。
「……。ぁぁぁ……」
扉の開閉音で兄が出て行って、ちょっと待って完全にいなくなってから、俺は目を開けて小さく声をもらし枕に抱き着く。
なんだよー。なに、もう。
「……はぁ。なんだよー」
あんなの、どう考えても、兄、マジで恋愛感情で俺のこと好きだし。俺のこと、完全に妹とかじゃなくて、妻として、愛しちゃってるじゃん。
う、うわぁ。俺って単純だし、母でも父でも誰でも、優しくされたら嬉しいし、好かれたら嬉しいって思っちゃうタイプだけど。でも、恋愛的な意味で好きって言われたの初めてで(言われてない)、なんか、嬉しいけど、嬉しく思って大丈夫なの?
何か俺までつられて、兄に恋愛感情持ってるみたいに思われない? いや別に誰も見てないけども!
何この状況。うう。やばい。そもそも前世含めて、恋愛とかしたことないし、この状況でどうすればいいのか全然わかんないよ。ああぁぁ。
「……あれ?」
ちょ、ちょっと待てよ? でもよく考えたら、俺と兄、夫婦じゃん? 別に恋愛感情持ってて、おかしくはないよね? 政略結婚ではあるから、持ってなくてもおかしくないけど、持ってるからおかしいってこともないよね?
じゃあ、別に俺、何もする必要ない? 兄も俺に知らせる気ないわけだし、俺が無理に答えだしたりする必要ない?
「……寝よ」
とりあえず寝て、夢か現実か区別つかないようにした。




