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お花を買おう

 旦那様と寝る前にキスするのは問題なかった。だってそのちょっと前までいろいろしてたから、さすがにこの状態ならキスしても何ともない。

 そして朝、旦那様に起こしてもらってのろのろしながら起き上がる。


「ん、うう。眠いよぉ」

「お前が絶対に起こせと言ったんだろうが」

「わかってるぅ。ん。おはよー、旦那様」

「ああ、おはよう」


 眠いのでそのまま目を閉じる。旦那様はちゅっとしてくれた。舌も入ってこなかった。よしよし。

 ちょっと目が覚めたので開けると、なんだか少しだけ照れたような顔をした旦那様がいて、でも優しくふっと笑って私の頭をぽんと軽く叩く。


「じゃあ、行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい、旦那様」


 旦那様が扉の向こうへ行ったのを確認してから、ベッドにまた倒れて寝る。


 そしてシスティアに起こされた。はふぅ。朝か。あー。


「くふっ……ふふ」

「シャーリー様、どうされました? 何か室内に食品が落ちていたのでしょうか?」

「え? なんのこと?」

「いえ。急に笑われたので」

「あのね、旦那様とおはようのキスしたの」

「仰られてましたね」

「うん。すごい、嬉しい」


 さっきは眠さ極限だったし、あんまり覚えてないけど、目が覚めた今は嬉しい。なんていうか、新婚夫婦っぽいよね。えへへ。わざわざ朝早く一回起きるわけだし、これで旦那様も、俺の愛を感じてくれるよね。

 これでー、あとは……なんか、することあるかな? うーん。愛妻弁当は毎日するほどレパートリーないし、正直毎日は面倒だし、そもそも毎日出かけないからいらないし。


 あ、とりあえずラブレターは書こう。で、その後はー、まぁ、おいおい考えよう。


 朝ご飯を食べて、部屋に戻ってお手紙の用意をしてもらっていると、別の侍女ちゃんがお手紙が届きましたよってやってきた。なんと、あの生意気、もとい可愛い女の子のアンジェリカちゃんからお手紙らしい。

 いったいなんだろう。まさか、まだ旦那様が云々と言うんじゃないだろうな。


 警戒しながらそっと手紙を開く。


「ん?」


 中には押し花されたカードがあり、裏面に文章があった。内容は要約すると『この間はごめんね。あんなに愛し合ってるとは思わなかったし、もうしないから許してほしい。お詫びの気持ちとしてお気に入りの花を押し花にして送るよ』って感じだ。

 ほうほう。なーんだ。殊勝な内容だ。やっぱり旦那様のことはあきらめてくれたんだ。よかった。それに俺の態度についても一切触れてないし、よかった。


 せっかくなので、アンジェリカにも返事を書くことにした。俺も押し花をつくって返そう。


「システィア、押し花つくるから、まずは花を探しに行こう」

「花ですか。花屋へと?」

「ううん。花壇」


 この家は、実家ほどじゃないけどそこそこの花壇があるので、そこを見る。気候の違いなのか、家でお気に入りの奴はない。ふぅむ。仕方ない。花屋へ行くか。


「システィア、花屋へ行こっか」

「かしこまりました」









「シャーリー様、すべて押し花にされるのですか? ご希望なら、生花のまま送ることもできますけれど」

「え? あ、違う違う。押し花にするのは一部だけだよ注文した花束は、明日普通に使うから、受け取ったら部屋に運んでもらってね」

「かしこまりました」


 花屋に行ってみて回って、急遽思いついたので、俺の両手に抱えられないくらいの花束を明日つくってもらって、侍女に受け取りに行ってもらうことにした。

 それはそれとして、押し花をつくりながら、明日の予定についてシスティアに相談する。


「明日ね、クッキー作って旦那様とおやつの時間に一緒に食べたいんだけど。そういう風にしてもらっていい?」

「……明日、ですか。クッキーについては、可能ですが、クリフォード様もとなると、確認を取らなければ、即答いたしかねます」

「うん。確認してきてくれない?」

「かしこまりました」


 花束を旦那様にプレゼントすることにしたのだ。なんていったって、花束と言えば愛の象徴じゃん? 一時、プロポーズの時は花束だっていって、花束フィギュアが流行った時期あったもん。あ、もちろん前世での話だけど。

 ここでは生花って高くないし、大昔みたいに本当の花を腕から溢れるくらいあげて、こんなに愛してる! って伝えよう。


 夜の薄暗い中だと霞んじゃうし、お互い休みだと旦那様もついてきて店先で渡すのはあまりに風情がない。

 なので平日買って、おやつの休憩位に旦那様へ渡すのがベストだ。完璧な計画だ。ちょっと急だけど、多分旦那様もそんなスケジュール忙しくないだろうし、大丈夫でしょ。


 クッキーならつくったことあるし、間違いない。前は旦那様の執務室にサプライズで持って行ったけど、こっちの部屋に来てもらったら二人きりだし、ついでにあーんしてあげよう。旦那様、あれ好きみたいだし。


 システィアが戻ってくるまでにアンジェリカへの手紙は仕上げておく。これでアンジェリカで友達二人目だ。そう言えば、アイリーンからも、戻ったら友達紹介したいって手紙きてたな。

 何でも話を直接聞きたい人がいるとかで。いきなり知らない人に囲まれるのは嫌だけど、一人ずつならいいかな。他ならぬ、背中を押してくれたアイリーンだし。


「できたー」


 手紙はできたので、後は押し花したらOKだ。押し花って、普通に本に閉じたらいいのかな? あれ? でも、本にシミとかできそう。うーん?

 と悩んでいると、システィアが戻ってきた。


「システィア、どうだったどうだった? もちろん大丈夫だよね?」

「はい。ご了承いただけました」

「やったー。ありがとう、システィア。あ、それと押し花ってどうすればいいの?」

「こちらですね。では作成しておきますね」

「あ、そう? じゃあお願い」


 軽い気持ちで渡したら、システィアはそれを他の侍女に渡した。その侍女は受け取って部屋から出て行った。なんだかいやに厳重だなぁ。

 ま、とりあえず一週間くらいでできるだろうし、できたら送るからと手紙はシスティアに渡しておく。


 そして休憩として、喉が渇いたのでお茶を飲んでだらけようとしたところで、まだ一杯目に口をつける前に侍女が押し花の完成品を手に戻ってきた。

 え、早すぎ。もしかして、魔法? この世界って、俺が知らないだけで剣と魔法の世界だったの? って思ったけど、どうやったのか聞いたら普通にアイロンでしたって言われた。アイロンでできるのか。だから俺にやらせるって選択しなかったのか。疑問に思わなかったけど、挟むくらいなら普通にやらせてもらえるはずだしね。


 そんなわけで、すぐに手紙は送れた。









「おかえりなさーい。ささ、今日も疲れたでしょ。肩もんであげるね」

「ん? ああ、悪いな」

「どういたしまして」


 おっと、相変わらずかたい肩だなぁ。ばりばりもんでやる!


「明日はありがとうね。急なお願いだったのに」

「ん? ああ、構わん。どうせ、一日休憩もなしと言うわけではないからな。来客予定がなければ、動かせないほどの予定はない」


 ふんふん。つまり結構時間の融通は利くんだね。これはいいことを聞いた。えへへ。これからもサプライズ演出してあげよう。実家だと、あんまり目立つことしたら、母とかにからかわれたら嫌だし、あんまりできないし、今のうちにいーっぱいしておこう。だって新婚旅行だもんね。遠慮はいらないよ。

 ベッドに座った旦那様の肩をもんであげてから、服の用意をしてあげる。


「いってらっしゃい。あ、あと明日クッキー作るし、今日はなしね」

「……そうか」


 あ、残念そうだ。ごめんね。と言うか、さすがに毎日ってわけじゃなかったのに、最近ますます旦那様が精力的になってる気がする。


「旦那様、ちゃんと起きてるし、手を繋いでお休みのキスして寝ようね」

「……ああ」


 あれ? ちゃんと愛情表現はするよってフォローしたのに、何故かさらにしかめっ面になったぞ?

 首を傾げつつ旦那様を見送り、俺はベッドを綺麗に整えなおす。一人でごろごろしてたから、ちょっとシーツに皺できてるしね。ふふん。俺も日々進化しているのだ。


 待っているとすぐに旦那様は戻ってきた。ちゃんと洗ったのかな? 早くて怪しいので頭皮の匂いを嗅いで確認する。うん。このくらいならOKだ。


「おい、シャーリー、お前は、全く。いつまでも自覚がないな」

「え? 何?」

「そんなに胸を顔に押し当てて、俺の理性でもはかっているつもりか?」

「!? そ、そんなんじゃないよ!」


 しまった。ベッドの上に立って、ベッド脇に立ってる旦那様の頭を抱えるようにしたから、図らずもそんな体勢になってしまった。そんな意地悪なことしないよ!


「えっと、寝よっか」

「ああ。今日のところは堪えてやろう」

「偉そうだなぁ」

「当然だ」


 ああ、そう言えばこの人貴族だし、偉いのか。結婚して俺も一応貴族とは言え、元々貴族で当主の旦那様の方がくらいが上なのは当然だ。

 あんまり意識してないし、旦那様ってすごい印象薄いから、ピンとこなかった。


「じゃあ、おやすみなさい、旦那様」

「ああ、お休み」


 キスをして、手を繋いでベッドに入る。ちょっと旦那様がおいたして、唇舐めてきたけど、歯を食いしばって守ったので問題ない。

 明日、旦那様の驚く顔が楽しみだなぁ。


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