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結婚しました

「あの、お兄様?」

「なんだ。早くしろっ。この期に及んで、結婚しないとでも言うつもりか!?」


 俺の誕生月が来た。今月から正式に、成人となる。

 兄に相手に会いたいなー、どんな人か知りたいなーと可愛く甘えても怒鳴っても、あれ以上の情報がないまま、この日を迎えた。そして朝食が終わるなり、兄の執務室に呼び出され、サインしろと出されたのは婚姻届けだ。

 とにかく届だけ先に出すから、早くサインしろと言われたけど、中身を読んだ俺は戸惑って兄の様子を伺ってしまう。兄は焦れたように急かすけど、でもこれは聞かないと。


「いや、あの……もしかして何ですけど、私って、お兄様と結婚するんですか?」

「……お前は、文字も読めないのか。そうか」

「読めますけど」

「書いてあることが全てだ。早くしろ」


 婚姻相手として書いてあるのはクリフォード・マクベア。同姓同名でもなければ兄である。まじで。しかもこれ、妾とかじゃなくて正式だし、いくら貴族が複数妻を持てるっていっても、最初の妻は重要で妻の中で一番の地位を持つことになる。そうなれば貴族でない俺の後に、ちゃんとした貴族のお嬢さんが来てくれるなんて没落寸前でお金に困ってとかじゃないとプライド的にあり得ない。


「えっと、でも」

「なんだ。俺に従うと言ったのは嘘か」


 そんなこと言ったっけ?


「いいから早くしろ。俺はお前と違って暇ではない」

「わ、わかりましたよ」


 色々聞きたいことはあるけど、まあ本人が言うんだから、そう言う心配ごとはクリアーしてるんだろう。なら形だけでも兄と婚姻すれば、今まで通りの生活なのだ。

 飼い殺しって気もするけど、何が何でも働きたいわけでもないし、まあ、知らない人とガチで結婚するよりは、仮に形だけの兄のほうがいいか。


 名前を書いた。兄の字が若干ゆがんでいたので、特に丁寧に書いてやった。兄は満足げに頷いて、さっと俺から紙を奪うように取り上げる。


「ふん。無駄な抵抗だったな」

「別に抵抗したわけじゃないですけど」

「もういい今日は戻れ。次の準備もこちらでしておく。お前は心の準備だけしていろ」

「はーい」


 俺を外に出して弱みにならずにすみ、飼い殺せるからか、いつになくにやっとした気持ち悪い顔をした兄に、適当に返事して俺は部屋を出た。


 それから、何かよくわかんないけど部屋を移ったり、式の準備とか言って採寸したり布を選んだりして、一ヶ月くらいして式の日がやってきた。


 式は羞恥プレイもほどがあるので記憶から消去する。その後も披露宴的な大規模な宴会で見たこともない人に沢山祝われた。これを機に、貴族として社交とかさせられるんじゃないかとひやひやしつつも、何とか全部終わった。


「はー、疲れたー」

「本当にな」

「えっ!? お、お兄様、まだいたんですか!?」


 昼から始まって夕食時までずっとなんか宴会で、やっと終わってご飯食べて、それまで兄とずっと一緒だった。なんかノリで同じ部屋まで帰ってきたけど、お風呂入ってリフレッシュしてあと寝るだけだーって戻ってきたら、まさかのまだいた。

 大きな明かりもつけず、薄暗い中ソファに座ってた兄に、気味が悪いなぁと思いつつ愛想笑いする。


 兄は宴会時の気持ち悪い位の晴れやかな笑顔を消していて、相変わらず不機嫌そうに眉を寄せたまま口を開いた。

 

「ずっといたわけではない。ちゃんと俺も、風呂には入ってる」

「そうなんですか。今日はお疲れさまでーす。今後ともよろしくお願いしまーす。じゃ、お休みなさい」

「待て」

「え、なんですか?」


 なんでいるのか知らないけど、話とかも明日にしてほしい。問答無用でベッドに入って終了させようとしたのに、兄は立ち上がってベッド脇に来る。

 えー、なんか大事な話なの?


「お前な、今日は初夜だぞ」

「……は? え? 私って、家から出さない口実に結婚しただけで、ガチの跡取りつくる妻じゃないですよね?」

「……口実だとして、初日に共に過ごさない訳にはいかないだろう」

「えー……めっちゃ気ぃつかうんですけど」

「どこがつかっているんだ」

「つかってます。ほんとはもっと口悪いですし」

「なら、二人の時は、口調はくだけてもいいぞ」

「えー……」


 そんなこと言っても、そんなめちゃくちゃ独り言言ってるわけじゃないし。

 単に自分以外の人いると落ち着かないんですけど。一人なら男と同じで、半裸とかで気楽に過ごすのに。


「まあ、しょーがないですから、そこのソファ貸してあげます」

「ふざけるな。俺が風邪でもひいたらどうするつもりだ」


 妥協してあげたのに、兄は無遠慮にベッドに入ってきた。

 ちょちょちょ! まじかこいつ! いくら俺でも、まじでうら若き乙女だってのに、入ってくんな!


「わ、わかりました。私がソファに行きます」

「あのな……お前は、この結婚をどう考えてるんだ」

「え? まあ、私が外に出たら迷惑だから、家から出さないためですよね」

「……それも、ある。が、結婚をした以上、その……あ、跡取りも、んん! まあ、義務になる、な」

「ええっ!? そ、そんな。ええ。えー? 俺のこと好きなの?」

「ばっ、馬鹿もの! す、好きとか、そう言う問題ではなくてだな、貴族の一員としての義務であってだな」

「えー……やだー……ほんと、やだー」


 もう敬語とか猫被ってらんない。だって、他人ならいざ知らず、兄じゃん。兄だからそう言うのなしの結婚だと思い込んでた。血はつながってないけど、生まれた時から知り合いだよ? 兄じゃん。兄妹でそう言うことするのは、ちょっと、なんか気持ち悪い。


「そ、そんなに嫌なのか?」

「だって、兄だし。ってか、俺、俺のことほんとは俺って言っちゃう系の、全然淑女じゃないし、俺の子供とか絶対ろくなものじゃないから、やめた方がいいっすよー」

「知っている。お前は、昔何度か俺と言っていたからな。侍女もいない、二人きりなら、俺と言ってもいいぞ」

「え、まじで。やったー。ってのは別として、ねぇ、じゃあマジで聞くけど、まじでしちゃう気? 俺の赤ん坊の時から知ってるじゃん? それでできるの?」

「……義務だからな」

「えー。ドン引きなんだけど」

「うるさい。義務なんだ。お前に拒否権はない」


 猫を外したのに全然効果ないんだけど。まじか。この人の貴族的義務感の効果やば過ぎ。それだけで何でもしちゃうの?

 しかもガチで、俺のこと押し倒して上に乗っかってきた。あ、薄暗いけど近いからちょっと顔赤いの見えるな。貴族って貞操観念高いのか。そうか、初めてか……そう思うと、可哀想だよね。俺なんかを、家の為にガチ嫁にするんだから。


「うーん。でも、痛いんでしょ? ちょっと心の準備できてないし、今日疲れてるし、明日にしよう? ね? 俺も、逃げたりできるわけじゃないんだし」

「悪いな、シャーリー」

「え?」

「俺も、さすがに、もう、とまらん」

「え、ちょ、嘘でしょ? 俺まだ服着てるし、触ってもないじゃん?」

「痛くない。気持ちよくするから」

「え、えー……」


 された。









「嘘つきっ。死ねっ」


 めちゃくちゃ痛かったし、痛いって言ったのに全然やめてくれない。なんなの。童貞だからなの? ひどい。俺も処女なのに。

 終わってから罵る俺に、兄はさすがにちょっと申し訳なさそうにしつつも、呆れたようにため息をつく。


「……悪かった。だが、お前、いくら何でも、口が過ぎるぞ」

「これが素ですー。いやならもう二度とこの部屋入らないでください」

「いや、この部屋も今日、いや、昨日から俺の部屋だから」

「えっ、同室!? そんな、兄みたいなケダモノと同じ部屋なんてヤダ! 許されない!」

「夫婦が同室で、誰が許さないと言うんだ」

「そんなぁ……」


 毎日このケダモノと一緒なの? 兄だからって安心して結婚したのが間違いだった。俺、こんなに可愛いんだから、兄でも警戒すべきだった。あー、可愛い俺可哀想。


「おい、泣くな。明日から、今までと同じように、好きに過ごせばいい。変わらない日々だ。嬉しいだろ?」

「うー、別にそんなの望んでないしぃ」


 情けないけど、ちょっと涙でちゃう俺に、兄はなんかまた機嫌悪そうに眉をよせる。さっき夢中で俺につっこんでた間抜け顔を客観視させたい。


「なんだよ、俺の何が不満だなんだ。見た目も、階級も、悪くないだろう? 婚姻の申し出だって、多くあったんだぞ」

「そういう問題じゃないし、だったらそっちとしてよ。だって、兄だよ? 兄弟として育ったのに」

「俺は、お前を妹だと思ったことはない」

「え……きも」


 赤ん坊の時から狙ってたの? まじロリコンじゃん。考えたら俺、15歳で、この人23歳だし。え、中学生に手を出す社会人とかロリコンじゃん?


 思わずもれた言葉に、さすがにショックだったのか、嫌そうな顔になる兄。実際、この人イケメンだし仕事できるし、いちいち嫌味言う器の小ささを無視したら、まぁ、外面よさそうだしモテるだろうけど、妹にそう言う目で見られてないことでショック受けるのはまたキモイ。


 うう……正直、高校生のころは女子中学生のアイドルとか普通に好みだったし、気持ちわかったかもだけど、女の身としては自分が対象と思うと、気持ち悪いって感情しか出てこない。しかも赤ん坊から? ド変態でも生ぬるい。


「……百歩譲って、俺はあんたの嫁だとして、頼むから他の幼女に手を出したりしないでよ」


 夫が幼児性愛者で、よその赤ん坊をさらって悪戯するとか、悪夢よりひどい。いっそ生まれ変わったことから嘘にして首くくるレベル。


「……シャーリー、俺は、お前にしか、しない」

「ええ……ええ? 俺のこと、好きなの?」

「……妻のある身で、余所に手を出すような、そんな身を崩すようなことは、貴族としてあり得ないことだ」


 あー、そういう、そういう倫理観はあるのね。まぁ、確かに。俺に悪態つくけど、娼婦的なやつよりひどいのないし、物理的には絶対なにもなかったし、ぶっちゃけ男の俺がマジで傷つくようなのなかったしね。

 たぶん本人の感覚的にも、そんなひどいこと言ってると思ってないでしょ。貴族として、恥ずかしいことはしないんだとね。だから今まで俺にも手出さなかったんだね。


「……まぁ、それなら、我慢するけど、たまにだからね。明日とか絶対無理だから」


 まぁ、こうなった以上、もう何ともならないし、嫁として生きていくしかないよね。ほんと嫌だけど、でも最中も、男同士って嫌悪感はなかったし、まぁ、我慢できるでしょ。

 少なくとも、今までと全然環境変わらないし、ここまで猫外しても変わらない兄が、今更俺を嫁から外すわけない。俺が成長していやになって夜が無くなっても、外聞的に籍はそのままだろうし、情はあるだろうし何とかしてくれるだろうし。


「あ、ああ! シャーリー、その……幸せにするよ」

「あ、はい」


 初体験だから、盛り上がってるのかな? 体は好みみたいだし。好きじゃなくても、そういう気分になるよね。流してあげよう。兄思いだなぁ、俺。


「じゃ、おやすみなさーい」

「あ、ああ」


 マジ疲れた。明日から兄、一か月くらい出張しないかなぁ。


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