変態!
それから和やかな会話に成功していたのだけど、アンジェリカが持ってきたリラブルがなくなるころ、アンジェリカがところで、と急に話題転換する前振りをした。ドキッとしながら続きを待つ。
「ところでシャーリー様、私、ずっとお伺いしてみたいと思っていたことがあるのです。ぶしつけな質問だとは思うのですけど、どうか、お許しいただけないでしょうか?」
あ、えと。何かわからないけど、なんかいい子っぽいし、そんな変なこと聞かれないよね?
「もちろんです。もう私たちはお友達ではないですか。遠慮せず、何でもおっしゃってください」
「ありがとうございます。あの、シャーリー様はクリフォード様とどのようにして、恋仲になられたのでしょうか?」
「え」
え、そういうこと聞くの? えー……いつって言ったら、普通に結婚してからだし、なんか、そういうの言いにくい。夢見て聞いているんだろうし。でも嘘つくのもなー。
「だ、旦那様は、その、婚姻する前から、私のことを長く思ってくださっていたらしくて、私も、以前から、憎からず思っていましたので」
嘘は言ってない。憎くは思ったことない。うざいとは思ってたけど、兄弟としては思っていたし。
「へー、そーですか」
あれ? 何か反応冷たくない? 思わず照れからそらした目線をアンジェリカに戻す。にこっと微笑まれた。聞いておいてあんなローテンションな返事なわけないし、イントネーション聞き間違えたかな?
「で? 今は具体的に、クリフォード様のことを、どう思ってらっしゃるのですか?」
あ、さらに突っ込んできた。やっぱり女の子らしく恋バナに興味あるんだ。さっきのはやっぱり聞き間違えたのか。恥ずかしいけど、これなら語れるし、変に話題変えたことで淑女話題振られても困るし、続けよう。
「い、今は、そうですね。えへへ。旦那様も私のこと好きって言ってくださいますし、もちろん、私も大好きです。旦那様って、お仕事はできてもちょっと抜けてるところがあって、結構可愛い人なのです。寝顔とか無邪気な感じがして、年下みたいに思うこともあります。もちろん普段も、きりっとしている顔も格好良くて、素敵ですし、じっと見つめられると、心が読まれているのではないかって思ってしまうくらいまっすぐな目で、どきどきしちゃいます。年上らしく、頼りがいがあって、私のこともひょいって抱き上げられてしまうので、安心して、つい甘えてしまうんですけど、それも全部受け止めてくれるところとか、本当に好きです」
「……」
「あ、あれ? アンジェリカ様?」
具体的にどう思ってるとか言われると、何を言えばいいかなぁとか思いながら話していると、ついついあれこれ言ってしまった。何だか、ちょっぴりのろけたみたいになってしまったかな? と思ってアンジェリカの様子を伺うと、アンジェリカはうつむいて両手も膝にのせていて、無反応だ。
「……、……」
「え? 何ですか?」
名前を呼ぶとわずかに反応したけど、何言ってるか全然聞こえない。もう一度促すと、きっ! と顔を上げて睨み付けてきた。うわ、なんか恐い顔してる。
ええ? なに? さっきまでの可愛い幼女の顔どこにおいてきたの?
「シャーリー様!」
「ひゃい!?」
あまつさえ、テーブル叩かれた! な、なに? 俺、アンジェリカのリクエストに応えただけなのに、なんで怒られてるの? あ、勘違いかな。こないだのアイリーンみたいに、本当は喜んでいるのかな? やだなー、そんなに喜んでもらえるなら、頑張ってのろけたかいがあるよ。
「私の、私の方が、クリフォード様のこと好きなんですからね! 調子にのらないでください!」
「え? えええ?」
調子にって、アンジェリカが言えって言ったのに。と言うか、アンジェリカの方が好き!? な、何言ってるの!?
「あの、アンジェリカ様、お言葉ですが、私の方が好きなのは間違いありません」
混乱するけど、とりあえずこれだけは言っておかないと。
だけどアンジェリカは、ばっと立ち上がってどんどんと机をたたいて威嚇してくる。な、何だこの子。やばくない?
「寝ぼけないでください! そんなの、私の方が好きなんです! 好きなんです!」
「いやそれはない」
「何なんですか! あなた何て、いきなり出てきて!」
ええぇ? 生まれた時から旦那様とは一緒だったし、年齢的にもアンジェリカの方がいきなり出てきたよね? アンジェリカが生まれた時には、もう旦那様は俺と結婚するって決めてたみたいだし。
「アンジェリカ様、落ち着いてください。よくわかりませんが、旦那様は私のものですから、諦めてください」
「ふざけないで!」
「ふざけてません」
「だって、私だって、クリフォード様と結婚するって約束したもん! だから、結婚するんだもん!」
「え、う、嘘だっ」
なんてことを言うんだ。あの旦那様が、俺以外の幼女と結婚なんて……幼女!? え…まさか、そんな、そんなわけ……
動揺した俺は、アンジェリカに合わせて立ち上がる。アンジェリカはそんな俺に、好機と思ったのか歯をむき出すような恐い顔してさらに口をひらく。
「本当だもん! シャーリー様なんて、すぐ捨てられるんだから!」
「っ、やぁだー! なんで、なんでそんなこと言うのー!?」
「!?」
堪えきれなくて、目から涙がこぼれる。旦那様が、アンジェリカと結婚の約束してるなんて、そんなの、嘘だ!
8歳だから結婚できる15歳まで7年あって、7年後にはちょうど年をとった俺を捨てられるとか、そんなの絶対、絶対ないんだから! ない、な……う、うううううわーー!?
「うわーん!」
「ちょ、ちょっと、シャーリー様、子供みたいに泣かないでくださいませ」
アンジェリカが何故かさっきまでの鼻息を潜めて、そんなことを言ってくるけど、旦那様と結婚する相手にそんなこと言われて、涙が止まるわけがない。実感するほど、涙は勢いを増してくる。
「やぁだー! 旦那様と別れたくないー!」
「お、落ち着いて、落ち着いてください。私が言いすぎましたわ。離別については、別にクリフォード様は何も言ってませんでした」
アンジェリカが俺の隣に来て、どうどうと手をかざすようにしてそう言ってくる。別れないと言うことで、ひとまず気合で呼吸を整え、大事なことを確認する。
「ひぐっ……う、そ、それじゃ、結婚、のっ、約束、は、本当、なの?」
「それは、は、はい」
「うわーん! 旦那様の馬鹿ー!」
じゃあダメじゃん! 形だけ残してもらっても、旦那様がアンジェリカしか見ないなら意味ないじゃん! そんなの余計につらいだけだよ! ひどい! ひどすぎる!
「ううわああぁぁぁんっ!」
「おい! 何をしている!?」
「く、クリフォード様! こ、これはその」
「旦那様の馬鹿ああぁぁ!」
もう取り繕うことなんてできなくて号泣していると、旦那様がアンジェリカの父親も連れて中庭にやって来たので、罵倒しながら近づく。
俺だけなんて言ったくせに、そんなの全然嘘で、ロリコンの変態なんだ。俺が成長していい感じになる頃には捨てる予定を始めからたててるなんて! こんなひどい裏切りが他にあるか!
怒り心頭だ。普段は淑女な俺だけど、体の奥から怒りと悲しみが空高く体を突き上げるほど湧いてきて、もう、どうにかなってしまいそうだ。
旦那様なんて、もうぼっこぼこにしてやる!
「しゃ、シャーリー? どうしたんだ? そんなに泣いて。何か嫌なことがあったのか?」
「う、ううっ、あっち向いて!」
「は?」
「いいからあっち向いて!」
「あ、ああ」
旦那様が背中を向けたので、遠慮なく腕を上げ、思いっきり振り落とす!
振り落とす! 振り落とす! 振り落とす!
「シャーリー、どうしたんだ。急に肩叩きをして」
「ううっ、旦那様が、浮気をするからっ」
「はぁ!? 何を言っている! 馬鹿なことを言うな!」
旦那様がぎょっとしたように振り向いて、振り上げた俺の手をそれぞれ掴んだ。
て、抵抗するんじゃない!
「触んないで! 変態! ロリコン! 畜生道に落ちろ!」
「お前は何を言っているんだ」
「アンジェリカと結婚する約束したんでしょ! この幼児性愛者!」
「は、はあ!? ふざけるな! そんなことするわけないだろうが!」
「えっ!?」
あれ?




