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好きです

「旦那様、その、聞きたいことがあるんだけど」

「どうした?」


 夜、帰ってきた旦那様にさっさとはっきりさせておきたい一人称について聞こうと思ってから、俺の顔を見たその顔にどきっとした。

 もちろん朝も見た顔なわけだけど、好きだってもう開き直ってから見ると、やっぱり格好いいなぁ。あ、好きって認めたことも言わなきゃ。ていうか内容的には、こっちのが重要じゃん。間違えた。


「ごめん、その前に、言いたいこともあるんだけど」

「なんだ。その内容を必ずかなえてやる訳ではないが、一応精査してやるから言ってみろ」


 何か知らないけどめっちゃ予防線引かれた。どんな無茶を言うと思われてるんだろう。おとなしくて清楚な妻だったはずなのに。妻……照れるな。なんか、兄が妻妻言ってた気持ちわかるかも。


「あ、あのね、今更かもしれないけど……す、好きです」

「……あ? ああ、何かおねだりか? ふん、仕方のない奴だな。言ってみろ。費用上限は100万だぞ」

「ち、違うし、そんなんじゃないけど、旦那様ちょろすぎない?」


 好きって言っただけで100万までならおねだり聞いちゃうとか、ちょろいとかってレベル超えてる。急に眉寄せてしかめっ面になったくせに。100万とか、相場知らないけど庶民の年収レベルじゃない? さらっと出そうとしないでよ。

 いやまぁ、そんだけ好かれてるって思うと、にやけるけど。


「ふ、ふん。俺は、殊勝なお前に褒美をやろうとしただけだ」


 頑なに隠そうとするなぁ。バレバレなのに、好きとかって聞いたことない。でも、そんなところも、可愛いなって、思ってしまう。

 本当に、好きだ。う、うう……照れる。照れるけど、でも、大事なことだ。今まで好きじゃなかったなんてことを公然と言っていたんだから、ちゃんと伝えなきゃ。


「そうじゃなくて……本当に、好きだから好きって言っただけです。今まで素直じゃなかったから」

「……シャーリー」

「ちょ、ちょっと、やめてよ。お風呂まだ入ってないでしょ」


 だから言ってあげただけなのに、旦那様がなんか抱きしめてきた。い、嫌じゃないけど、こっちはもうお風呂入って綺麗な寝間着を着ているのだ。綺麗になってからにしてほしい。


「む、そうか。そうだな」


 気持ちが伝わったらしく、名残惜しくされつつ離された。お風呂の用意をしてあげる。

 あ、一人称の話してない。まぁ後でいいか。


「じゃあ行ってくるが、寝るんじゃないぞ」

「あ、旦那様」

「ん? なんだ?」


 思いついたけど、いざ言おうってなると、ちょっと恥ずかしいな。でも、お詫びもあるし。よし、言おう。


「その……良かったら、背中、流そうか?」

「……ふん。い、いいいいだろう」


 めっちゃ動揺してる。ちょ、俺も恥ずかしくなるから、そんな、反応しないでほしいんだけど。い、言っておくけど、服は着るからな! もしかして勘違いしてる?









 でも考えたら、自分の着替えは用意してないわけで、濡れたら裸で戻るとか無理なわけで、結局脱いでしました。

 お風呂から戻るときは疲れただろうって、旦那様に抱えられて部屋まで戻ってきた。別に歩けたのに。うーむ。むぅ。誰もいなかったからいいけど、恥ずかしい。


「旦那様、早く降ろして」

「大人しくしろ」


 そっとベッドに下され、掛け布団をかけられた。お、おお。丁寧だ。ぐぬぅ。そういう事、普通にするから、口は悪い癖に、好かれてるって知ったらもう、そのことに疑問持つ余地すらないんだよね。


「そう言えば、お前は聞きたいことがあるとか言っていなかったか?」

「え? そうだっけ?」


 聞きたいこと? なんだろう。そう言われてみれば何かあったような……あ。


「そうそう。そうだった。あのね、一人称なんだけど、私って言うのに変えたけど、元々俺って言ってたでしょ? その、もう旦那様のこと、自分は男で旦那様も男でもいっかって好きって開き直ったから、どっちの方がいいかなって」


 起き上がって、隣に腰掛けた旦那様に尋ねると、旦那様は顎に右手をあてて考えるように相槌をうった。


「ん、そうか……俺は、前にも言ったがお前はお前だからな。好きな方をつかえばいい」

「そうだけど、そうじゃなくてぇ、どっちの方が、旦那様的に好きかっていうか、可愛いと思うかを聞きたいんだってば」


 って、言いながら、旦那様に可愛いと思われたいんだって、自分で気づいてしまった。なんか、恥ずかしい。羞恥プレイかよ。もう女子じゃんって思うけど、それは旦那様にだから思うだけで、男だけど好きな人に可愛いって思われたいって言う……なんかもう男なのか女なのかよくわからなくなりそうだ。


「……」


 言ってから自分の発言の恥ずかしさに、ちょっと目をそらしたけど、あれ、旦那様の反応がない。ちらっと視線を戻すと、旦那様は右手で顔下半分を覆って、視線を右側いっぱいにそらしていた。

 え? なに? って思って一回右側見たけど何にもなくて、よく旦那様を見ると、指の隙間から口元がにやけているのが見えた。手がおっきいから、見えちゃうんだなー。そうか。旦那様も照れていて、顔隠して目をそらしてるから反応なかったのか。


 ん? あれ、別に旦那様が照れるとこあった? 旦那様の好み聞いただけなのに?


「ん、んんっ! ふんっ! べ、別に、まぁ、なんだ。私と言うお前は、女性的でこう、柔らかい感じで、まぁ、悪くない。俺と言うお前は、素に近いからか、あ……あ、んん! い、幼気で、悪くない」

「柔らかいとか、いたいけとか言われても、あやふやすぎるよ。それでどっちが好みなの?」

「だからだな……どっちのお前も、悪くない」


 わ、悪くない。そう言われるの、悪くないんだけど、どうせなら好きとか、もっとはっきり言ってほしいなって思う。だってこっちが恥ずかしいのに改まって好き好きって言ったのに、自分は誤魔化したままとかずるくない?


「あ、あのさ、旦那様。俺は旦那様のこと、好きなんだよ?」

「……ああ、わかっている。そう何度も言わずとも、お前の気持ちは、十分受け取った」

「うん。えへへ……で、だからさ、旦那様は、俺のことどう思ってるのさ」


 ちょっと恥ずかしいことなので、あえて俺で聞いてみた。自分でも意識してなかったけど、俺と私だと、ちょっと感じ違う気がする。どっちも痛しかゆしだなぁ。


「ど、どう、だと。馬鹿なことを聞くな」

「いっつもそういう言い方するけど、何が馬鹿なことだっていうのさ。だいたいさっきのだって、何だよ、幼気って。子供っぽいってことなら、私一択じゃん」

「あ、あれは……気に障ったならすまん。うまい言い方が他になかった」

「あれ、でも最初別の言葉でいいかけてなかった? あ、って」

「……それは、別に、何でもない」

「なんでもなくなーい。何て言いかけたのさ」


 何だかわからないけど、言いかけて辞めたってことは誉め言葉だよね? 聞きたい聞きたーい。

 言えよ言えよー、と今だ旦那様の口元にあてられている右腕の袖をひいて促す。


「……」

「ねー。何黙ってんのー?」


 そんでなんで、口元のにやけがひどくなったの? え? もしかして甘えた感じになってた?

 うーん。ちょっと恥ずかしいけど、こういうのが旦那様好きなのか。……う、ううん。なんか、自然にやってたことなのに、反応わかっちゃうとわざとしたくなるし、でもそれあざとすぎるし、わざとらしくてもおかしいだろうし、ど、どうすればいい?


 なんか、どう動けばいいのかわからなくて固まってしまう。


「……」

「シャーリー?」


 固まる俺に不審がった旦那様は、手をおろして不思議そうに俺の顔を覗き込んできた。


「……う、うるさいな。女の子の顔を覗き込むなんて、マナー違反だよ」

「女の子なのか?」

「男だけど、女の子でもあるんだよ、時々都合のいい時には」

「ふっ。本当に、都合がいいな。だが、悪くない……そういう風に、俺と私を使い分ければいいだろう」

「気分によってって? それって、すごい情緒不安定な人じゃない?」


 会話の中で俺になったり私になったりするとか。二重人格者じゃあるまいし。


「どうせ、俺の前だけなんだから、いいだろう」

「うーん」


 いいっちゃいいんだけど……と言うか、あれじゃない? もしかして旦那様自身が、どっちの俺も楽しみたいってこと? そ、そういう事なら、やぶさかでもないけど。もうちょっとはっきり褒めてくれたらね!


「じゃあ、旦那様がさっきの質問に答えてくれたらそうする」


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