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相談しよう

「また相談? いいけど、今まで生まれてからずっと悩みひとつなかったのに、やっぱり恋っていいものねぇ」

「お母様、私の相談相手はお母様しかいないんですから、からかうのはやめてください。私が拗ねて相談できなくなったら、どうするんですか」

「そういう事言うあなたのこと、我が娘ながら、嫌いじゃないわ」

「ん? ありがとうございます、お母様。私も好きですよ」

「ありがと。で、相談って?」

「はい。その……お母様って、同性愛についてどう思いますか?」


 昼下がり。例によって例のごとく母に相談を持ち掛けると、母は、は? と珍しく呆けたような顔になってから、二回瞬きをしてからゆっくりカップをとって唇を湿らせた。

 そして余裕たっぷりにカップを置いて、優しく微笑んだ。これ作り笑いだなってすぐわかるくらいには、母とは仲がいい。何故私に作り笑い? そんな変なこと聞いた? もしかしてやっぱり、同性愛が普通って旦那様の慰めだった?


「そう、ね。同性を気になったとして、そう気にすることはないわ。結婚ができるわけではないし、むしろたまには、そうして心遊びをするくらいが、本命の夫との仲を長持ちさせることになることもあるわ」

「あ、と言うことは本当に、貴族にとって同性愛の愛人作るとか普通なんですか?」

「え、ちょっと待って……えっと、あなたにとって気になる女性ができた、と言うことではなくて、クリフォードに男性の愛人がいて、そう説明を受けたということかしら?」

「いやいや」


 いつになくわかりやすく取り乱した風の母は、どうやら私の相談から色々な心配をしてくれたらしい。でも違うから。どっちも他に相手が、みたいなやつじゃん。


「違います。何というか、その……私、本当は男なんです。で、旦那様のこと好きになったら同性愛になるので、どうなのかなって」

「……は? ………は?」


 説明したけど、端的に言ったからか、全然通じてないみたいだ。なんかちょっと可哀想なものを見る目になってきた。


「えっと、もちろん体は女に生まれて、紛れもなく女なんですけど、心は男なんです」


 前世のことは言わない約束だし、問題はこの部分だからこうとしか説明できないけど、伝わるかな?


「……うーんんん……はい、とりあえず、あなたの主張はわかったわ」


 母はとても不可解そうに眉をしかめてから、視線を二回転泳がせながらこれまた珍しく唸り声をあげて考え込んだけど、最終的にそう頷いた。あっさり頷かれて、私の方が驚いてしまう。


「え、わかったの? すごく突飛なことを言ったと思ったんですけど」

「異性装を好む趣向は存在するし、人間以外として認識されたいという方も世の中にはいるのだから、四六時中主張するかはともかく、あなたが男性として扱われたいという欲求を持つことは理解したわ」

「扱われたいわけじゃないんだけど……今の扱いでいいわけだし」


 と言うか、母の言い方ってもしかして前の職業の時の経験から言ってない? 人間以外として扱われたいって、それ家畜とか……? ま、まぁそれは置いておこう。そう言う性的嗜好とは違うけど、肉体的にじゃなくて精神的な意識と言う点で自分を男と思っていると理解してもらえたならいい。


「ん? じゃあ何が不満なのよ? あなたが男の心だったとして、今の女性としての扱いに文句がないなら、何に文句があるのよ?」

「えっと。だから、私の体は女だから、旦那様が私を好きでも女として好かれていてそれは普通だし気にならないんですけど、私の意識は男だから、旦那様は普通に男だから男が男を好きになるみたいになるから、どうなのかなって」

「あなた、なんだかめちゃくちゃなことを言っているけど、自覚している?」

「自分でもよくわからない時があります。でも、なんだか、どうしてもそこが気になるので」


 私自身でも複雑だなって思うし、考え過ぎて、あれ今何考えてたっけ? ってよくなる。そしてだんだん何で悩んでるのか自体わからなくなったりする。

 でも最初に戻ると、やっぱり私って男だしなって風に思って気になるから仕方ない。


「ふーん……でも、外から見たら普通に男女の夫婦だから、何も問題ないのだけど?」

「それはわかってます。でも、自分の意識で言うと違うので」

「それが気になって、クリフォードを素直に愛せないということ?」

「そうです」

「面倒くさいわねぇ」

「そうなんです。いい案ないですか?」

「女になれないの?」

「そう思って、私もオシャレしたりしてみましたけど、変わりませんでした」

「あ、そういう事だったの」

「はい。今では結構、オシャレするの好きですけど、でも、そこは変わりませんね」

「じゃあもう開き直って、男だけど男好きでもいっかって思いなさい。他人から見たらそのまま男女なのだから、どう脳内で思っていても問題ないわ。同性愛者になりなさい」

「……そう簡単に言われても」

「簡単でしょう?」

「なんでさ」


 簡単なわけないじゃん。普通の男の私が、簡単に今日から同性愛者になれって言われて、なれるわけがない。


「だってあなたは自分を男だと思ってるんでしょう?」

「はい」

「クリフォードのことは男だと思ったうえで好きなんでしょう?」

「ま、まぁ……そうですけど」

「ならすでに同性愛者なんだから、認めるかどうかの違いでしかないじゃない。抵抗あるとか、そんなの悪あがきしてるだけで、とっくに同性愛者なのだから、諦めて認めなさい」

「!?」


 え、え!? そ、そうなの!? 私すでに同性愛者だったの!?

 あ、ああ……それは、そうか。だって、わかってて、でも抵抗があって認めきれないから、ちゃんと認められるよう相談したり、女になろうとしたわけだし。


「……」


 いや、でも……あれ? なんか、そんな簡単な話だっけ? あ、いや、でも、旦那様にも同性愛者でもいいだろうとか言われたわ。えー、でも、なんか、受け取り方全然違うものだなぁ。

 旦那様に言われたら、格好良くって内容どうでもよくなるから、それでいいかもって思ってしまう。だから後からそれじゃ駄目だって思って否定してしまってた。でも、母にこういう風に言われると、確かになーって素直に思う。


「……」


 ふむ。旦那様のことを無条件で受け入れてしまいそうになるけど、それが分かってるから逆に旦那様のことを無条件で却下してしまっていてちゃんと吟味してなかったのかも。

 そうなると、本当に後は私が同性愛者と認めるしかないのか。認めるって言ってもなぁ。そんな。うーん。


「……」

「シャーリー」

「は! あ、何ですか? お母様」

「考え込むのはいいけど、私の意見に反論がないなら相談はこれで終わりかしら?」

「あ、そ、そうですね。お邪魔しました」

「まぁ待ちなさい。異国から新しい衣装が届いたのよ。あなたも来てみなさい」

「あ、いいですね。興味あります」


 とりあえず、すぐには答えが出そうにないし、今日は疲れたから考えないことにした。









「あら、マクベア侯爵、と侯爵夫人。御機嫌よう。奇遇ですわね」

「!」


 恒例の旦那様とのお外デートをしていると、声をかけられた。この街は国の中心部なので、どうしても他の貴族もよくいる。お休みの日が決まってるわけじゃないし、徒歩の貴族はそう多くないけど、月に一回くらい声をかけられることはある。だけどそもそもまだ結婚してから半年もたっていない訳で、慣れない。貴族に声をかけられただけでビビってしまう。

 すまし顔を装いながら振り向くと、そこにいたのがどこかで見たことのある人だった。


「ああ、フィリップ嬢か」


 旦那様が名前を口にしたので思い出した。このくるくるした髪形は、なんかこう、婿探しの肉食女子だ。うむ。

 二人が挨拶したので、俺もそっと隣で挨拶してみた。フィリップ嬢はにこっと微笑んでくれて、ほっとする。他の声をかけてくる貴族はだいたい男性なので、貴族女性ってだけで気おくれしてしまう。

 男なら私は可愛いからそれだけで多少の粗相は許すだろうけど、女性となるとそうはいかないからな。


「マクベア侯爵、本日は私の友人もいるのですが、ご紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、構わん」

「ご紹介にあずかりました、キザイア・バルタチャと申します。この度は、マクベア侯爵と、マクベア侯爵夫人にお目通り叶う幸運を承り、恐悦至極に存じます。以後、何卒よろしくお願い申し上げます」


 ふわぁ。私も挨拶対象に入ってる。めっちゃ固い。えっと、ふ、普通に挨拶返していいよね?

 旦那様が偉そうに返事をして、私を目線で促したのを確認してから挨拶する。


「シャーリー・マクベアです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 バルタチャ嬢はふんわり笑った。うーん。でもなんか、ちょっと恐いかも。別に腹黒さが透けて見えるとかじゃない。私にそんな人を見る目はない。ただ、あまりにお上品で大人しそうなザお嬢様って感じで、自分とあまりにも違いすぎて、何考えてるかわかんないし。

 まだフィリップ嬢の方が、ずっと笑顔じゃなくて感情を出してる自然な感じがして、とっつきやすいかも。いやまぁ、この人も普通にお上品なお嬢様なんだろうけど。

 このフィリップ嬢も、普通に社交界に出て、普通にしている、一般的なごく普通にお嬢様なんだろうなぁ……あ!


「あの! フィリップ様!」

「! なんでしょう? マクベア侯爵夫人?」

「私と友達になってくれませんか? そして相談に乗ってほしいです」


 旦那様への相談では意味がなく、母に相談した結果で悩んではいるけど思い切れない。ここは全然関係ない人の意見を聞いてみよう、とひらめいた。

 偶然に二回も会うフィリップ嬢なら、連絡つきやすいだろうし、万が一おかしなことになっても、旦那様の方が爵位上だし大丈夫だよね。あと旦那様を100%狙ってないのもポイント高い。


「は、まぁ、構いませんけど」


 フィリップ嬢は驚いたようで、そう戸惑いつつも頷いてから、はっとしたように猫をかぶりなおして、私と住所の交換してお手紙を送る約束をしてくれた。

 そういう、簡単に猫はがれるタイプってわかったし、やっぱり私の人を見る目は確かだね!


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