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女の子になれない

 自分が男だ、と思うから、旦那様へ複雑な思いになっているのだ。と言うことに気づいたので、これから女として生きていくための意識改革を行うことにした。

 まず手っ取り早いところから、脳内でも一人称を俺から私に変えて、女っぽく話すよう心がける。仕草とかは、もともと教育されてたし、パンツ見られたら恥ずかしいとかはあるから、普通に女性的に振る舞っていたのでOKだ。


「お母様、女らしいって、どういう感じだと思いますか?」

「あら、急にものすごく珍しいことを聞くわね、何かあったのね?」

「質問を質問で返さないでください」

「そういう、可愛げのないことを言わないのが、いい女なのよ」

「……別に、いい女になりたいとは言ってませんし」

「もう。拗ねないの。ちょっとからかっただけじゃないの。夫に、女らしいって思われたいんでしょ? 母が協力するじゃない」

「ん……ありがとうございます」


 母の部屋を訪ねて相談した。相談できる相手がいないので仕方ないけど、気恥ずかしい以外のデメリットなしで、親身になってくれるのは母しかいないのだ。


「で、どういう感じだと思いますか?」

「そうね。まずは見た目や所作ね。何事も、形から行わないと」

「え? 見た目って、普通にドレス着てますし、見た目はすでに完全に女ですよね?」

「は? あなた舐めてるの?」


 あれ。めっちゃ不機嫌になった。今まで見たことない激怒の顔してる。こわっ。


「お、お母様?」


 この後めちゃくちゃ、怒られた。

 生まれただけで女だと思ってるのか、とか。用意された服をただ着るだけ、最低限の幼児レベルの女子度の癖に、とか。そんな感じで、私は女じゃなくて幼女だったと言うことを長々言われた。

 ひどい。でも、女になるのは、生まれつきじゃなくて、自分で大人になってなるものだと言われた。


 今までは私が女であろうとしなかったし、礼儀作法の授業受けだしてしばらくして、どうも旦那様が自分がもらうからあのままにしておけって言ったらしい。マジで子供の時から目をつけられてた。ちょっと引いた。

それはともかく、本当の女である母が言うなら、女と言うのがそういうものなのだろう。前世が男だからか、それともここが全然違う古い世界だからかは知らないけど、少なくとも今の常識がそうなら、そうなのだろう。

 なら、それってすごく、ほっとした。生まれつきの女がいないと言うなら、私も今から女になろうとすれば、それは遅いかもしれないけど、でも、みんなと同じと言うことだ。それなら中途半端で男の私でも、普通に、普通の女の人みたいに、男の人を好きにだってなれるはずだ。


「お母様、じゃあ、どういう風にすればいいんですか?」

「そうね、まず興味を持つのが一番だから、色々試しましょう。それで、シャーリーの好みを知るところから始めましょう。明日、用意をしておくから、朝から来ること。いいわね」

「わかりました。行きます。あ、その……旦那様には秘密にしてくださいね」

「あらどうして? あなたが気に入ったものがあれば、クリフォードを呼んでその姿を見せようと思っていたのに」

「な、なんですか、その羞恥プレイ。絶対やです」

「やって。まぁ、いいけど。面白いから」


 面白いからとか言われた。こういうこと言うから、どうにも素直に信用しきれないんだなぁ。









 格好から入る、と言っても、基本的に全部ドレスだ。ごてごてとフリルがついたものは、ひっかけそうで嫌いだ。だから基本的にシンプルなものばかり着ていたけど、それでは庶民の子供か、大人なら病人か修道女が着るようなもので、普通の女が着るものではなかったらしい。

 そこでフリフリはしてないけど、お金をかけられたデザイン性のあるいろんなものを用意してくれた。薄い布を重ねたグラデーションのある曲線的なやつとか、なんか左右非対称な感じで大きなリボンを巻くようなのとか、興味がなくてスルーしていただけで、ドレス一つとっても色んなパターンがあった。

 考えたら、母だって別にフリフリしたの着てなかった。俺が興味ないから気づいてすらいなかったのだ。そういうのならいいかなってことで、他にもそれに合うような宝石とかも見繕ってみた。


「そう言えば、爪はしないの?」

「爪? もちろん磨くけど、あなたまさか、磨いてないの?」

「磨いてないけど、そうじゃなくて、ネイルアートっていうか。爪に色塗ったりするやつだよ」

「ん? 何それ。え、面白そう」


 余計なことを言ってしまった。どうも、ケアの為に磨いたりクリーム塗ったりはするけど、色を付けたりしないらしい。母が調べさせたところによると、遠い他国では宗教的意味合いで染める文化があることはわかったけど、少なくとも近隣ではなかった発想らしい。

 何か知らないけど、母から旦那様や父にも話が行って、そういう染料をつくってみることになったらしいけど、少なくとも私が初めて母に話してから一か月がたつ今でも専用のものはできていない。

 でも絵具とか染料自体はあるから、体に悪くないと確認がとれてるものだけ許可をもらって、塗ってみたりしている。


 母は教えてもないのに、絵を描いて完全にネイルアートになってるけど、時間がかかり過ぎる上に、害のない簡単に落ちるもので長くて二日程度しか持たないから、普通に塗るだけにしてる。

 でも、ふとした瞬間に指先が目にはいると、色がついてるだけでなんかちょっと、嬉しい。オシャレの楽しさがわかってきた。最近では、自分でアクセサリーとか買ったりもするし、デザイン考えたり、組み合わせるのも楽しい。


「シャーリー、最近、ずいぶんと淑女らしい見目になってきたな」

「そうでしょ!? ふふふ。私、ちょー可愛いでしょ。頑張ってるからね」

「ああ、俺も最初はどうなるかと心配していたが……女らしくなっても、お前はお前のままで、よかった」

「そりゃ、私は私だよー……ん?」


 あれ? これでいいんだっけ? 最近すっかりオシャレに目覚めて楽しんでたけど、女らしくなるための目的とかあったよね?

 忘れてない。忘れてないよ。女になって、生まれかわるんだよね。うん、で、で……私、女なのかな?


 私って、脳内でもすんなり言えるようになって、女らしい装いとかにも興味でて、仕草も丁寧にって感じで割とできるようになってきた。パッと見た目は、少なくとも前より女に近づいてきたと思う。

 でも、じゃあ実際のところはどうなのか。私は女か、男か。そう自問して、私は、答えをすぐに出せない。


 女らしくなったと思っても、男でないと思わない。女じゃないとは思わないけど、女であるとも思わない。


「どうした? 急に黙り込んで」

「……私って、女なのかな、男なのかな」

「ん? 見た目は以前より女らしくなったと思うぞ」

「見た目はね。でも、問題は私の気持ちなんだよ。気持ちがどっちなのか」

「そんなもの、俺が判断できるわけがないだろう」

「うー……そうだけど」


 そうだけど。だって。自分でもわからない。ただわかるのは、やっぱりこの旦那様のこと、素直に好きって言うのは抵抗があるってことだけだ。

 ってことは、やっぱり、男だって思ってるのかな。女のような趣味を持っても、女らしく振る舞っても、根っこのところは男のままなんだ。


「……私、頑張ってきたつもりだけど、やっぱり、駄目かも」

「よくわからんが、元気をだせ。お前が駄目でも、俺がいれば問題ない」


 よくわかってないのかよ!

 頬を膨らませる私に、旦那様はそっと頭を撫でてきた。これで機嫌をとっているつもりか。いや、嫌いじゃないけど。


「前に俺がいったことを気にしているなら、忘れてもいい。女になってみればいいと言ったが、無理ならいい。むしろ、軽く言って後悔していた。お前が本当に、どこにでもいる女になったら、面白くないからな」

「面白くないとか……」

「だが、お前は女らしさに寄せても、お前のままだった。それは、俺にとっては嬉しいことだ。だから、今の状態がお前の中で駄目だったと言っても、俺にとっては今の状態は成功だ」

「……」


 いや、そんなこと言われても。女らしさそのものが目的じゃないし。俺は、旦那様への思いをはっきりさせたくて。


「……」


 はっきりっていうか、はっきり言って、私だって、わかってる。旦那様のこと思って、受け入れてるこの気持ちが、そういう感じのだって、察してる。

 でもそれを認めることを、なんだか受け入れられない。


「そもそも、お前が同性愛を認められないようだから、俺はああ言ったが、別にいいだろう。同性愛でも」

「は? いやいや。ないでしょ? そもそもこの国では認められてないし」

「それはそうだが、貴族にもなれば、嗜みとしている者もいる」

「は? 意味が分からないし、そんな下手な慰めされても」

「慰め、と言うわけではないぞ。下手に異性の愛人では、不必要に子をなして貴族の血を無秩序に増やすことになるからな。政略結婚であるなら、同性の愛人をつくることが推奨されている」

「……ま、またまたぁ」


 なんかそれっぽいこと言われたけど、そんなわけない。前世では確かに認められていたけど、正式に認められるまでは迫害の対象だったと習った。なのに、法的に認められてないのに世間的にOKとか、ないない。


 ぽんと旦那様の肩を叩いて、そんな嘘言わなくてもいいんだよって意味を込めて微笑む。だけど旦那様は私の頬を軽くひっぱる。


「お前は、夫の言葉を信じられないと言うのか。俺が慰めでこんなことを言うものか。俺は、異性愛者で愛人をつくるつもりもないからな。誤解を招かないよう、特に教えなかったが」

「そ、それを疑ったりしないって」

「だが、お前の内面が同性愛者でも、俺は何も思わん。それが、俺にだけ向くなら、どう言う思考のものでも、構わん。許す」

「う」


 や、やばい。なんだよこいつ。

 なんだよ。格好いいじゃん。格好よすぎじゃん。


 こんなの、どきってするに決まってるじゃん。う。ううう。駄目だ。

 旦那様に聞いてたんじゃ、内容より旦那様の存在に気をとられてしまう。他の人に相談しよう。



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