ゴキブリの気持ち
今朝ゴキブリがでた。嫌な1日の始まりだ。殺虫剤を滝のように浴びて、足をバタつかせて地の底に落下する瞬間が、切り取られている。不憫だ。産まれた時はこんな風に死ぬとは思わなかろう。俺が憎いか。俺が人間だ。そう呟いて、俺は部屋の隅を覗き込んでいた。
自分より何十倍も大きな巨体がこの世界では幅をきかせている。自分たちはその巨体の影の中を生きる他ない。自分と一緒に産まれた兄弟は目の前で巨体の餌食になった。でも、奴らが不思議なのは、殺すだけなのだ。何もしない。ただ、殺すだけだ。
朝が来た。巨体の目を盗んで動かなければならない。いつも通りの脇道を抜ける、よし奴はいない。ここは安全地帯。そう思った矢先、目の前が真っ暗になりった。奴だ。脇道に戻らねば。ああ奴が追ってくる。ああこの体に降りかかる物はなんだ。あの時の兄弟と同じだ。ああ、自分も殺される。お前か。俺を殺して楽しいか。お前を殺してやりたい。お前が憎い。ああお前に飛びかかってやりたい、この白い滝の合間を縫って。これは名もなき叫びだ。反逆ののろしだ。今に見ていろ。ほらそこで自分の子供があの時の兄弟を見ている。