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これが私の王道!?  作者: 首からぼた餅
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2話 拉致

 目が覚めると、知らない天井でした。私はどこ? ここは誰?

 なんて現実逃避をしてから、目の前の現実を見ようと思う。

 まずは手足、拘束具により拘束されてる。フルパワーで解除しようとしても駄目。魔法具である可能性が高いわね。

 隣にはセタスチャンが同じく拘束されて転がっているけど、ジジイだからかまだ寝てるみたい。老人って早起きなイメージがあるのだけど、そうでも無いのかしら? ……まだ現実逃避から逃避出来てない気がする。

 で、次に場所。見たところ鉄格子の檻により脱出は不可能のようで、窓から差し込む月光が夜であるという事を知らせるが、牢屋の外は目が暗闇になれていないせいか良く見えない。


 ……詰んだわ。この状況、拉致された以外にあるのかしら。無いわね。投了。お疲れ様でした。


 ――なんて思考を放棄しては終わりよ終わり! 私、気を強く持ちなさい! まだ希望は有るはずなのよ!


「こら! セタスチャン、起きなさい!」


 ゴロゴロと転がってタックルをしかけてやる。


「セタスチャン! 起きなさいってば!」


 しかし、中々起きない。もしかして死んじゃった? 私のタックルのせいで死んでませんように。

 そんな私の思いも虚しく、どうやら死んでしまったらしいセタスチャンの亡骸らしいものを見て、憂いを帯びた表情で言う。


「……セタスチャン、あなた、良い人だったわね」


 本当に、良い人だったわね……良い人だったかしら? 良い人だったような。あんまりお城に居た時のセタスチャンとの記憶が無い。影が薄いのよ、影が。

 この拉致監禁が終わったら、セタスチャンの墓を建てましょう。木陰にでも。


「……影薄ジジイに神のなんちゃらがあらん事を」

「死んどらんわ!」

「あ、生きてた」


 どうやら今起きたらしい。もっと早くに起きてくれれば良いのに。私だって心細くて茶番の1つや2つはしちゃうわ。

 セタスチャンが私の方を見て、それから牢屋の鉄格子に目を向け、大きく溜息を付いた。


「私、ここ2日で2度も拉致されてるのですが」


 どうやら一瞬で状況を理解したらしい。


「姫様。恐らくこれは姫様の身分を狙っての誘拐だと思うのですが、思い当たる敵組織などありますでしょうか?」

「無いわね。というか私、基本的に政治の事とか全く分からないし、父様から何も聞かされてなかったもの。耳にすら入ってこないわよ、そんなの」

「……よくもまあ、そんな有様で王を目指すなんて言えましたね」


 呆れたような口ぶりに、小馬鹿にした表情。いつか跪かせて靴を舐めさせてやるわ、このジジイ……!


「まぁ、良いわ。セタスチャン。あなた、何とかしてこの状況を打破出来ないの?」

「まぁ、可能では有るのですが……」

「可能なのね! でも持ち物も無しに脱出するって、どうやるつもり?」

「それは――」


 その時、鉄格子の中からは見えない方向で、ドアが開く音がした。

 どうやら、誘拐犯のお出ましらしい。叫び声を聞きつけてきたのだろう。


「セタスチャンが死んでない宣言を大声でするから、脱出する前に来ちゃったじゃない。どうしてくれるのよ」

「えぇ……私が原因なのですか?」

「そうよ、私はセタスチャンが早く起きるように身体を揺すりつつ、音も立てず、祈るようにセタスチャンの目覚めを待っていたわ」

「本当ですか?」

「本当よ」


 そう、タックルとかセタスチャンの名前を大声で叫んだりとかはしてない。してないという事にしておこう。私、一応元お姫様だし。ゆくゆくは王になる身ですし。


「……あの、良い?」


 私とセタスチャンの会話が一段落ついたタイミングを見計らって、影の方から

声が聞こえてきた。

 気絶間際に聞こえてきた声と一致する。セタスチャンはともかく、『武』を持っている私ですら気が付かなかった程の手練の可能性が高い。用心して対話をする必要があるわね。


「あなたが、私達を拉致したのかしら?」


 声の主に問う。


「……そうだ。僕は、君が高い地位に居るという事を知っている」

「そう、私の事を知ってるのね」

「……君については知らないよ、僕が知ってるのは君が高い地位に居るという事だけ」


 その発言を受け、セタスチャンは安堵したような息を漏らした後、こう言った。


「つまり、あなたはここに居るお方を、誰かはご存知で居ない、と?」

「……偉い人なんでしょ?」


 どうやら私自身については、ほぼ何も知らないらしい。私って別に有名じゃないのかも。お兄様の方が色々と凄いからかなぁ。


「フッ、無知というのは浅はかですなぁ」


 そして、小馬鹿にした表情を浮かべ、やれやれと首を振るセタスチャン。やっぱりこのジジイ、性格悪いと思うわ。


「……良いですかな? この御方は偉大なるスイーツ王国の王、マロン=スイーツ様で御座います」

「……え?」

「……え?」


 ついにボケたらしいセタスチャンの顔を見て、愕然とする。私が、何? スイーツ王国の王? マロン=スイーツって誰? 何?


「……えっ、王様って、あの、一番偉い人?」


 ちょっとちょっと、冷静に考えて声の主! スイーツ王国なんて王国は無いから! スイーツ(笑)  と小馬鹿にした態度で応戦するのが正解だから!

 そんな私の心の叫びも虚しく、声の主はうーんと唸りを上げて悩んでいる。

 ここは黙っておいた方が良いのは分かってるのだけど……言いたい。言いたいけど、セタスチャンがジッと見てくるので何も言えなかった。ジジイの無言の圧力、凄い。


「……あの、すいません……」


 声の主が、一転して敬語で、尚且つ震え声で話し始める。


「……全部話すので許してくれませんか? 僕、肩とか、揉むんで……」


 とても誘拐犯とは思えない腰の低さとチキンさに頭がクラクラしてきた。

週一更新ではなく書けたら更新にします。

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