1話 帰路
そも、何で私が旅に出たくなったか、という話。
「マロンちゃん、お散歩行かない?」
「マロンちゃん、これおみやげ」
「マロンちゃん、こんな話しを知ってる?」
母様からも父様からもうんざりするほどの寵愛を受けてきたと思う。
つまり、反抗期。自己分析するに、反抗期が原因だ。
ほら、寝付けない時ってあるよね。そういう時って思考が変になっちゃうじゃない? 今回の旅の始まりはそれなの。
「私はこんな国の姫で収まる器じゃない! 父様も母様もクソ食らえだわ! 私は大国の王になるのよ!」
そう言って、衝動的に窓から飛び降りてしまった。私は『武』の持ち主だったから容易に実行に移せてしまったのだ。
そして城から城壁の方まで飛ぶように、それでいて隠れながら走って、それでも出会ったのが――
「ひ、姫!? どうしてここに!?」
「――ッ!?」
驚くセタスチャンの顔を見て拉致という発想が浮かぶまで3秒。
セタスチャンを捕獲するまで1秒。
城壁を飛び越えて走り去るまで18秒。
そして落ち着いた頃にセタスチャンに趣旨を説明し、夜通し歩き続けて今に至る。
いや、私も「王になるわー! こうなったら世界を牛耳ったるわー!」という具体性の無い目的で出てきてしまったのに反省してる。
さっきまで王を目指すために姫という地位を捨てた自分に酔っていたのだけど、追っ手が来てるかもと考えると怖気づいて――私って意外とビビリなのかも。
「姫様」
「おうああぁ!? 急に音も立てず出てくるんじゃないわよ!」
私、ビビリでした。
「食料の調達が完了しました」
どれどれ、とセタスチャンの手袋の中を覗き込んでみる。
イモリ、芋虫、草、草、草、草、草、草、草、草、草、草。
「良くこれで完了したなんて言えるわね」
「照れますな」
「褒めてないわよ、いよいよボケ始めたのかしら?」
「失礼な。姫様、焼けば食べられますよ」
「草に至っては焼けば燃えるでしょうが」
やれやれ、と眉間を指で押さえる。
道具を何も持ってこなかったのは誤算だった。衣服から金銭まで何も無し。
私の所持品は着ているワンピースのみ。これでも1番地味に見えるやつに着替えてきた。どうやら出発する前のハイな私にも寝間着のままは不味いと理解していたらしい。
セタスチャンも見たところ着ている燕尾服以外に何も持っていない。ポケットの中に何か入ってるのかもしれないけど。聞いてみた方が良いかもしれないわ。
「姫様」
「えっ? 何かしら」
ちょうど聞こうとしたタイミングで声を掛けられたので動揺してしまった。
そんな事は気にせず、セタスチャンは重大な事を聞く前触れかのように、静かに目を閉じ、重く語りだした。
「焚き火用の木を集めて食料も確保出来たまでは良いのですが、火起こし器とか無いですか? 火打ち石でも良いのですが」
「持ってるわけ無いでしょうが!」
限りなくどうでも良かった。
焚き火用の木とか集めてるくらいだから火を付ける手段でも持ってるのかと思ったのに。
「では、生で食べるという事で」
どうでも良くなかった。死ぬ。私、きっと食あたりで死ぬんだわ!
しかし、これからもこんな食生活が続くのかしら、続くのよね多分……温室育ちにこんな生活、無理。絶対無理。帰りたい。
っていうか帰る。そうと決まれば話は早いわね。
「……さっ、帰りましょうセタスチャン。こんなクソみたいな所に居ても仕方ないわ。土って汚いし。虫も飛んでるし、そろそろモンスターの湧く時間かしらね。そういう事で、はい、撤収」
「はっ!」
セタスチャンから何処かしら、帰れて良かった~という雰囲気を感じる。私も内心、帰るって言い出せて良かった~と思ってる。馬は合わずとも意見は合ってたみたいね。というかセタスチャンは拉致されて巻き込まれた側だから当然といえば当然なんだけど。
しかし、たまには散歩も悪くなかったわ。帰るまでが散歩。昔、そう習った気がする。ピクニックだったかしら。
でも帰ったらお母様にもお父様にも絞られるんだろうな……まっ良いか、その時はその時よ。
「帰ったら最高級の紅茶を入れて頂戴、甘いお菓子もね」
「このセタスチャン、紅茶には自信がありますゆえ、おまかせくだされ」
朝方の出来事がウソのように和やかな空気に。木漏れ日が差し、気持ちが良い。散歩の帰り道だと思うとこの森も悪くないわね。
――なんて気の緩みさえ生まなければ。
「……隙あり」
「……!?」
「……えっ?」
――突如、背後からの奇襲を受ける事なんて無かったのに。
何が起きたのか理解が出来ない。追いつかない。背中を、斬られた? それとも殴られた? いつの間に背後へ? 毒? 麻痺? セタスチャンは無事か?
そんなまとまりのない考え達が頭の中で走った後、私は強烈な睡魔に襲われ地面に倒れ込んだ。
次から最低週一で更新したい。書き溜めは無い。どうにか完結させたいとは思ってます。




