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これが私の王道!?  作者: 首からぼた餅
1/3

プロローグ 旅立ち

「暑い~」

 

 何時になったら着くのかしら、その近況の村って。

 旅立ちの次の日に、この快晴。何だか晴れ晴れとしてて良いのだけど、暑いわね……

 隣を歩いているセタスチャンを、残りどれくらいなの? という意志の篭った眼差しで見つめる。


「姫様、あともう少しの辛抱です」

「ちょっと、その姫様ってやつ、早く直してよね」

「……はい、偉大なる王」

「よろしい」

 

 何度言っても直らないセタスチャンの呼び方には困ったものだわ。

 私、もう姫様でも、マロン姫でも無いんだから!

 そう今の私は壮大な成り上がりを狙う、無謀過ぎる若者なの!

 キャー! そういうの凄い良い! 凄い!


 「王よ、顔が王を目指す者のものでは無くなってきてますぞ」


 ハッ、また悪い癖が出てしまった。

 正直、自分が玉座に座ってる姿が脳裏をよぎるだけで表情が緩む。


「よだれ、拭いてくれる?」

「……それくらい自分で拭けよ」

「ん? 何か言った?」

「いえ、拭かせていただきます」

「よろしい」


 素早くセタスチャンがポケットからハンケチを取り出し、私付きの執事にふさわしい優雅さで私の口を拭きだす。


 ゴスゴスゴスゴス!!!!


「ちょっと!」

「何か?」

「いや、もう拭くっていうか、ハンケチで唇を殴ってるわよね!?」


 擬音がゴシゴシとかフキフキとかじゃなくてゴスゴスなんですけど!?


「まぁまぁゴシゴシとゴスゴスの違いなんて二文字しか無いですから、気にしないでください」

「気にするわよ! さっき偉大なる王とか忠誠っぽい事を言って、それ!?」


 薄々気付いてたわ。このジジイ、私の事を全然尊敬してない。なんならお前を王にした後で寝首かいて俺が王になる、みたいな意志すら感じるけど、それは流石に気のせいだと信じたい。


「しかし、よりによって何であんたみたいなジジイをお供に連れて来ちゃったかな」

「しかし、よりによって何で城から抜け出す姫様に拉致されちゃったのですかな?」

「もう尊敬してない事を隠す気無いわね」

「別に隠してたつもりは無いんですけどね」

「……ハッ」

「……ハッ」

「あはははははははははははははは!」

「ハッハッハッハッハッハッハッハッ」


「「クソが」」


 それっきり会話は生まれなかった。ぶっちゃけ、相性最悪だった。


 昨日の夜、部屋の窓から飛び降りて少し先に行った所で、私はセタスチャンに見つかった。

 どうやらボケ始めてるのかなんなのか知らないが、夜の散歩をしていたらしい。

 で、私の旅立ちの口封じの為に連れてきたって訳。しかし、このジジイの口を永遠に封じるにはどこに連れて行けば良いのかしら。魔物の巣? 天国? 地獄かな?


 無言のまま30分ほど歩いた頃、セタスチャンが突然口を開いた。


「しかし、よろしいのですか姫よ」

「姫じゃなく王。で、何がよろしいの?」

「お城のもの達も気付いて追手を出しているでしょうし、こんなチンタラ歩いてたら連れ戻されるのでは?」

「……あ」


 しまった。夜通し歩いて距離は離れてるものの、馬に乗って追ってこられたら終わり。野望に目がくらみすぎてた。


「セタスチャン、あと村までどれくらいなの?」

「5分ほどかと。目と鼻の先ですな」

「――なら、もっと前に言いなさいよ! 村に立ち寄ってる間に捕まるでしょうが!」

「次から気をつけます、次から」

「反省の色が見えてこない……」


 頭痛がしてきた。こういうジジイ執事ってやり手なんじゃないの? ジジイ執事という自覚はあるの?


 とにかく、仕方ない。私達は話し合いの結果、道を外れた所にある森の中で身を潜めることになった。


 村に立ち寄ったら、自分達の行方がバレてしまうだろう。そうなったら王になるという野望はパー。それだけは避けたい。野宿もやむを得ない。


「しかし、野宿なんて初めてでドキドキするわね」 


 草木を分け、森の奥地に進んでいくだけで興奮する。今まではお城の外に出たことがあまり無

かったし、あっても馬車の中で揺られるだけだったから。


「こう、冒険の始まりって感じがするわよね!」

「そうですか」

「……」


 セタスチャンって、本当に私に仕えてる執事なのかしら。旅は道連れ世は情け、じゃないの? どうにも薄いのよね、反応が。

 

 しばらく歩いた頃、少し木の間隔が広い、ちょっとした広場のような場所に出た。


「姫様、ここに一旦仮拠点を作りましょう」

「ん、そうね。あと、呼び方は王よ」


 その訂正を無視し、黙々と焚き火用の木を集めだすセタスチャン。もう訂正しなくても良いかも。直す気が無いみたいだった。

 セタスチャンの労働をボーッと見る。やる事が無い。追ってきてるかどうかも分からない兵士に怯えて旅をするだなんて、面倒臭い。

 でも、だからといって捕まるわけにはいかない。15歳の馬鹿女のくだらない妄想と影で嘲笑されるのがオチ。ビックになって帰って、そして見返してやるんだから!

 なんて絶対に揺るがない硬い決心をしてすぐに、木を集め終えたセタスチャンが声を掛けてきた。


「姫、私は食事の用意をしてきます」

「うん、旅を始めて最初の昼食は何が食べられるのかしら」

「良く分からない動物の姿焼きとかですね」


 そう言って森の奥地へと姿を消すセタスチャン。


 ……なんか、急に帰りたくなってきたな。


 正直、硬い決心は緩み始めていた。

2話から週一更新になります。

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