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のら犬  作者: 田村弥太郎
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長芋

携帯電話ユーザーでは端末と呼ばれる電話機は話題になっても、電波塔が話題になる事は少ない。

さて、電波塔と呼ばれる鉄塔を建てるルーチンは大体、次の様になる。

 ①エリアを決定する。無線関係の部署が営業の要望も取り入れ決める。これに伴い、設備量や予算が決まる。当然、携帯電話会社であるので、技術系の基幹部署である。

 ②設備の設置場所を特定する。簡単に言えば、鉄塔を建てる所を借りる。

鉄塔を建て、設備を設置する。

これは建設部署内で行った。実際、土地を探すのは、それを専門とする会社や、施工会社が行った。土地が決まらなければ、施工はできないので、なるべく早く決めようとした。これが後々、騒動を起こす事が多かった。

中田の管轄は、土地を借りた後だった。土地が決まる(賃貸借契約を携帯電話会社と土地所有者が締結する)と施工会社は設計、工事を開始した。中田たちは、その過程で稟議を出したり、進捗を管理した。また、事業者として行政との折衝を行った。

従って、担当する県や割り振られた施工会社によって、当たり外れがあった。

中田が応対する施工会社は特に問題もなく、品質も良いと定評があった。となれば、中田はお任せで、事務だけは速やかにに処理した。

鉄塔を建てるとなると、基礎工事から始まる。

鉄塔用に借りた土地は数百平方メートルだが、三ヶ月程の工事中は別途、同程度の隣接地を工事用地として借りた。重機や機材、掘削した土を置くためであった。

借りた土地は長芋畑だった。その地域の名産だった。

 工事用地が耕作地の場合、その年の作物の補償をした。算定は電力会社の算定評に準じた。これは、よくある事だった。米や各野菜等で単価が決まっおり、高くても数十万円だった。

長芋は高かった。百万円を超えたのであった。さて、上が騒ぎ出した。計算上、そうなるのでどうしようもない。

「もう少し、何とかならんもんかねぇ」

親会社から出向している部長が言った。

中田は(やはり百万円のラインが気になるのかな)と思い、土地オーナーに会う事にした。

新幹線で向かい、駅でレンタカーを借りた。建設場所に行った。

黒土の畑が広がっていた。借りたのは道路沿いの角地になる。土を握ってみた。フワッとした黒土だった。これが、地中に長く伸びる長芋を作る。

こんな所に鉄塔を、と思うが致し方ない。周辺は著名な遺跡だらけで規制が厳しいと言う事は知っていた。

「ごめんください」

 オーナーの家は長芋生産が主だったようだった。納屋には名産長芋と書かれたダンボールが山の様に積まれていた。

オーナーには正直に言った。

「計算してみましたら、百二十万ですが、百万を切る程度でお願いしたい」

オーナーも、そんな高額になるものとは思わなかったらしい。耕作も何もせずに入る金だった。

結局、あっさりと九十万円に決まった。

オーナーには耳の聴こえない息子がいた。

「携帯電話が使えるかな」

 携帯電話を息子に持たせたかった。

中田は自分の業務端末で説明した。バイブレータで着信はわかる。小さい画面ながらメールも読める。オーナーは嬉しそうに聞いていた。

 この街には、営業所があった。それを教え、中田は帰途についた。

稟議書は簡単に通った。

 数日後、建設部にダンボール箱が三箱届いた。

「これが百万円の長芋か」と部長が眺めていた。

中田は自分の席から見たが、オーナーの納屋で見たダンボールだった。

皆、適当に数本ずつ持ち帰った。中田も三本、持ち帰った。

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