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賈詡の覇道  作者: 劉基
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5 『未来』を守らんとする漢たち


「賈瞬様が討たれだと?」

彼は賈瞬隊の百人隊長である。その場にいた男たちに動揺が走った。

賈瞬隊1000が全滅したことは前述した。

では、なぜ賈瞬隊に生き残りがいるのか。

そもそも賈瞬は賈詡か伝えられた策を実行する為に守備を堅くした村がいくつかあったのだ。

当時賈詡が独断で動かすことのできた兵は2000ほどである。

その際に各村の防衛に割いた。そして、今賈瞬が討たれたとの情報を聞いたのは主戦場に比較的近い距離にある村を守る隊であった。

ところで、この百人隊の隊長はなかなかの切れ者で賈瞬に見出された漢の一人であった。名を張繍という。後に張遼と共に賈詡の腹心となる男である。

再度、兵に確認した後に張繍はしばらく目を閉じた。

暫くの間場を沈黙に覆われた。

そして、張繍が語りだした。

「私はあの方から此度の策を聞いていた。故に調子に乗って慢心しているはずの匈奴に負ける可能性など万に一つもない。ではなぜか、援軍3000の李儒だ。あいつなら賈瞬様を殺すことができる。そのうえ奴にとっては賈瞬様は政敵だ。目の上のたんこぶだったに違いない。」

張繍は淡々と述べた。その様子にはいかなる時も冷静にいることを心がけている張繍らしいと言えばそうかもしれないが、その姿には多分に悲壮と憎しみを漂わせていた。

「まさか裏切りだなんて・・・しかし、そうなれば董卓様が黙っておるわけがありません。李儒とて自分の命が惜しいのでは。」

張繍の百人隊に所属する一人の男が張繍に恐る恐る訪ねた。

「賈瞬様が討たれた時のことが性格に董卓様の耳に届くことがあるならばな。あいつは今まで散々汚い手をやって上り詰めてきた男だ。情報操作をしないわけがない。そうすれば、董卓様がそのことをお疑いになっても奴は口八丁で誤魔化すだろう。それに加えて、あいつは信頼も得ている。下手したら董卓様自信もこの殺害に関与している可能性すらある。権力を持てばそれまで共に手を取り合ってきた腹心すらそれを脅かす存在を疎ましく思うことは人の常だ。さらに賈瞬様は朝廷から大した官位を貰っていない。殺すなら今だろう。どちらにせよ、賈瞬様の死は不幸な討ち死にとして片づけられることであろう。」

張繍の言葉にその場にいる漢全員が沈んだ。

「張繍様、賈瞬様の仇討ちをしに行きましょう。今なら虚をつき奇襲に成功すれば李儒を討てるやも知れません。」

張繍の部下が縋るように言った。

「いや、今それをすべきではない。私たちの残された時間は少ない。やれることを何か探せねば・・・」

張繍が全てを言いきってない時であった。

「張繍様!悔しくないのですか。私たちのことをここまで面倒見てくださった親同然の賈瞬様が卑怯な手で討たれたんですよ。張繍様の賈瞬様への思いはそんなものなんですか。」

張繍の部下が泣きながら言った。その姿は復讐に燃える男の見せる、異常性そのものであった。張繍の率いる百人隊もそれに同調する声が揚がってくる。

しかし、瞬間その場の雰囲気が変わった。

張繍が目の前の敵討を熱く語った男のことをぶったからだ。

「・・・」

ぶたれた兵が唖然としている。

「お前ら、賈瞬様への侮辱をよくも意気シャーシャーと言えるな。今私たちが仇討ちに行っても全滅するのが落ちだ。それこそ。今は亡き賈瞬様への冒涜ではないか!賈瞬様の後を託された我らのできることは本来あの人が守るはずであった『未来』を守ることだ。其れすなわち賈瞬様の御子賈詡様を御守りすることではないのか!お前ら、どうなんだ、仇討ちに行きたい者は行くが良い。しかし、それは、今は亡き賈瞬様への裏切りと同意義だと心得よ。

私と共に賈詡様を守りに行く奴だけここに残れ。さすればあの人の守りたかった『未来』を守れるやもしれぬ。即断せよ!」

張繍は普段冷静にいるように心がけているのだが、心の内には誰も負けないくらいの激情を湛えているところがある。そして、それ故に彼は一本芯が通った漢であるのだ。

では、彼以外の今ここにいる百人の兵が皆芯が通っていなヒョロヒョロの人間なのかといえばそれも違う。兵士一人一人が曲がりなりにも賈瞬のもと異民族の匈奴との激戦を生き抜いてきた漢である。ただ、彼らは悲しみと憎しみで目の前のことしか見えていなかったのである。

そして、張繍の言葉で皆我に返った。そして己の軽率さを皆後悔した。その場で悔しさに耐えられず涙を止められぬ者もいた。

もう、この場に張繍のことを新参者等といって嘲笑する者はいない。

皆が固まった。当然張繍の言葉にである。そしてこの場にいる漢が皆志を一つにしたのである。齢25で張繍はその才能を見せたのである。

「我ら、百人賈瞬様の『未来』を守ることをここに誓います。」

この場にはたかが百人しかいないのにもかかわらず考えられないような熱量が感じられた。それはその場にいるだけで、興奮の汗が止まらぬ程のものであった。

「では、皆の者、賈詡様を御守りにいくぞ。そして我らで守ろうではないか、賈瞬様の残したかった『未来』を。」

「オー、オー、オー・・・」

漢達の雄叫びはしばらくの間止まることはなかった



こうして、後の奇跡の御膳立てがなされたわけである。

しかし、李儒の討伐隊が賈詡一行に静かに近づいていた。



「賈瞬を死んだと。」

董卓は李儒によって賈瞬が討たれことを聞くと満面の笑みをそのいかに悪どいことが理解できる顔に浮かべた。

「あいつがいなければ今儂は涼州で太守をやれていたかどうか解からんくらい奴は働いてくれた。だが、なまじ人望を集め過ぎた。奴は私の脅威になりうるほど力を持ってしまった。恨むのなら儂や李儒ではなく己が儂の脅威になってしまったことを恨むのだな。愚か者よ。儂に馬車馬のように働かされて挙句待っているのが死とはな。」

董卓は語り終えると急に寒気に捕らわれた。勿論賈瞬の幽霊とかそういったものではない。董卓自信殺した今でも賈瞬のことを恐れているのだ。事の真相を知られたら賈児たちがいつ自分に復讐しにくるか解からない。彼らは己の命を擲ってでも仇討ちを執行しようとするであろう。その狂犬のような男たちの様子が想像できれば後に魔王と呼ばれることになる男ですら警戒せずにはいられないだろう。

ところで、賈児とは賈瞬に育てられ引き揚げてもらった実力のある漢のことである。また、彼らは賈瞬へ絶対の忠誠を誓っていて父同然の認識をしているものがほとんどである。やはり、それだけ賈瞬に人望があったということであろう。そして、彼は人望だけでなく武将としても類稀なる器を有していた。もしかしたら、遅かれ早かれ今回のように謀殺される運命にあったのかもしれない。



賈瞬は死んだ。しかし、彼の董卓陣営に残したものは実は彼自身の武将としての器や人望よりも大きかったのかもしれない。少なくとも後に魔王董卓に引導を渡したのは賈児たちであった。勿論最終的に董卓を殺したのは呂布であるがその呂布を動かしたのは間違いなく賈児であった。

しかし、目の上のたんこぶを潰せて喜んでいる董卓と李儒にそんな遠い未来のことなど知る由もなかった。


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