第三話
クラスマッチに向けて、朝練と放課後練習が始まった。今日の放課後からスタートだ。
……正直、放課後は早く帰りたいな。
だって、羅希くんポスターを眺める時間が減るんだもの!これは、重大事項である!さっそく、抗議に……
「まゆみ、やめなさい。」
さゆちゃんが私の後ろ襟をつかむ。
「まゆみの考えはわかるよ!どうせ、放課後は早く帰りたいからって、抗議しに行くんでしょう?てか、羅希くんのために早く帰りたいなんて、そんな言い訳、通じると思ってんの?その、無駄に優秀な脳みそでよく考えなさい。」
「うっ……。さゆちゃんって、エスパー?」
「んなわけないでしょ!あんたの考えなんて、羅希くん絡みしかないんだから、誰でもわかるよ!」
「そうなの!?学校ではかなりおとなしくしてるんだけど……。」
「どの口が言うか!!」
そう言って、ほっぺをつねられる。
「いひゃい、いひゃいよ、さゆひゃん!!」
「ははっ、朝から元気だね。」
ガララッと教室の扉を開け、湊くんが教室に入ってきた。
「香久山、あんた、まゆみの保護者みたいなもんなんだから、この、しょーもない思考回路をどうにかしてよ!」
「さ、さゆちゃん!?しょーもないって……」
「ははっ、じゃあ、放課後は俺と練習する?元々、俺はバレー部だからあまり練習しなくて良いし、全員での練習は2、3日前から参加すれば大丈夫。そんな俺と練習なら、合同練習不参加でも許してもらえると思うよ?それに、みんなとの練習より早く帰してあげるよ?」
「おお!!それは本当!?湊くんも天使だね!!」
私はキラキラと目を輝かせて湊くんを見つめる。
一方、さゆちゃんは驚きと『何言ってんの、こいつ!?』という感じの表情をしていた。
「ちょっ!?香久山、こいつを甘やかしてどうするの!?」
「まぁまぁ、落ち着きなよ?大丈夫!練習短くする代わりに、スパルタで行くからさ!」
そう言って、湊くんは親指を立てたポーズをして見せた。
――――放課後。
私と湊くんは2人で体育館の隅で練習していた。
さゆちゃんは説得を諦めたのか、『勝手にしなさい』と言って、合同練習に行ってしまった。
「じゃあ、ウォーミングアップとして、軽く打ち合おう!まずは、オーバーハンドからね!」
「はいっ!」
こうして、ポーン、ポーンとパス練習が始まった。案外、スパルタじゃないのかも……。
オーバーハンドパス練習とアンダーハンドパス練習をそれぞれ5分ずつ行った。
「……よし。じゃあ、次はレシーブ練習します!俺が右に左にと、どんどんスパイク打っていくから、レシーブしていって。最初は手を当てるだけでもいいけど、できるだけ俺の方に飛ばして。それと、俺が取りやすいように、高くボールを打ち上げること!じゃあ、行くよ!」
次の瞬間、バシッと音がしたかと思うと、ボールは既に遠くまで転がっていた。
……まじで?こんなの、無理じゃ……
「ぼーっとしないで!怪我するよ!どんどん行くから、しっかり構えて、受けて!」
「は……はいっ!」
そして、湊くんの熱血指導のもと、厳しい練習が本格的にスタートした。湊くんはまるで、テレビで見る、あの熱いテニスコーチみたいだった……。
……結局、合同練習の皆より先に帰れたものの、羅希くんとイチャイチャする余裕はなく、すぐに寝てしまった。
クラスマッチまであと6日間、果たして私の体力はもつのだろうか……。
「まさか、本当にスパルタ練習するなんて……」
翌日、げっそりした私を見て、『だから、素直に合同練習に参加すれば良かったのに』とさゆちゃんに呟かれたことは言うまでもなかった。