第二話
「へぇ、バレーも悪くないね……」
私は今朝も教室に漫画を持ってきていた。しかし、今日は、羅希くんはお留守番である。
持ってきたのは、先日購入した、バレー漫画だ。
「でも、男バスが出る少女漫画みたいに、ヒロインがバレーをしないっていうのはあまりないんだね。ヒロインもバレー部か、男子バレーなら少年漫画みたいに、主人公がバレー部っていうパターンが多いみたい。君ダンのヒロインは文芸部の女の子だったんだけど…………なんか、面白いね。」
「あれ?今日はバスケ漫画じゃないの?」
私が漫画に没頭していると、ふいに頭上から声が聞こえた。
「ぅわっ!?み、湊くん!?」
「え!?なに!?そんなに驚くことなくない?」
「あ……ご、ごめん……」
「……まぁ、俺も急に声かけちゃったし、こっちこそごめんね。ところで、それ、もしかして、バレー?」
湊くんが私の持つ漫画を指さす。
「あ、うん、そう。いや、この前、体育館でバレー部の練習を見て、少し興味が出たから、買ってみたんだ。」
私は簡単に、バレー漫画を買うまでの流れを説明する。
「そうなんだ!でも、外まで聞こえるほど、教室で”羅希くん、羅希くん”って言っていたのに、浮気しちゃっていいの?」
「うっ……で、でも、本命は羅希くんのみだから、大丈夫だよ!」
「そ、そっか。まぁ、そうだよね……」
あれ?湊くんの笑顔がどことなくひきつっているような……?
まぁ、気のせいかな……。すぐにいつもの表情に戻ったし。
「まぁ、漫画読むのもいいけどさ、ちゃんと授業は聞きなよ?俺だって、いつでも助け船出せるわけじゃないんだしさ?」
「ははっ。善処します!」
私はビシッと敬礼のポーズをして応える。
そう、恥ずかしながら、いつも授業中に問題をあてられた時、どの問題か湊くんに教えてもらっているのだ。
「ふっ、こりゃ、期待できねぇな。」
そう言いつつ、湊くんは口に、軽く握った手を当てながら優しく笑ったのだった。
そして湊くんは席に着き、朝のSHRを待ちながら、今日の時間割表を眺めている。
「今日の体育って、男女合同だっけ?」
「ん?あぁ、そう言えばそうだったな。確か、クラスマッチの練習だっけ?」
そう、なぜか私の通う高校は、クラスマッチの種目が男女合同なのだ。イメージ的には、男子がサッカーや野球で、女子がバレーやバスケだと思うんだけど……。
しかし、この学校は男女関係なく、今挙げた4種目から好きな種目を選び、もし人数に極端にばらつきがあれば、少人数の種目のメンバーを残り3種目に割り振り、最低限必要な人数に届くようにしている。
つまり、私たちのクラスは6クラスあり、1クラス当たり30人いるわけだが、仮に、サッカー希望が10人だったと仮定する。そして、残り170人はバレー、バスケ、野球にバランスよく希望が分かれたとする。すると、サッカーは今年は行わず、バレー、バスケ、野球の3種目のみ実施するのだ。その場合、サッカー希望者の10人は、泣く泣くバレー、バスケ、野球から選びなおさなければならないというわけである。
時たま、人数調整のために、強制的に希望でない種目に入らされることもある。そうなったら逆らえないので、ドンマイというわけである。
まぁ、今のところ希望以外の種目になったことはないので、問題ないのだけれど。
「藍川はやっぱバスケなの?」
湊くんが尋ねる。
「……う~ん、この前まではバスケ一筋だったんだけど、バレーもいいなって思ったんだよね。湊くんのアタック?してるとこ、かっこよかったから。」
「えっ……///」
湊くんの顔を見ると、赤く染まっていたのがわかった。
「……?どうしたの?」
「あ、い、いや、なんでもない!バ、バレーにしなよ、今年は!バレーも楽しいよ!!」
私が湊くんの異変に不思議がって尋ねると、慌てたように湊くんがバレーを薦めてきた。
「?本当に、大丈夫?なんか赤いよ?」
「だ、大丈夫!バレーに興味持ってくれて嬉しかっただけだよ!お、ほら、せっかくだしさ、バレー、一緒にやろーよ?」
「わ、わかったよ。そこまで薦められちゃ、断れないしね。羅希くんに謝って、今年はバレーにするよ!」
こうして、クラスマッチ種目をバレーに変更してもらい、体育の授業はバレーの練習をした。
人数調整のためにも、クラスマッチの2日前までは変更ができるので、簡単に手続きできた。
もちろん、さゆちゃんも道連れである。
その日の帰り道――――
「それにしても、ついにまゆみも彼氏持ちかぁ……」
「!?そ、そんなんじゃないよ!?だから、私は羅希くん一筋なんだってば!!」
「ほんとにぃ~?バレー漫画買ったり、クラスマッチの種目変えたりしているくせにぃ~?」
嫌味たっぷりにさゆちゃんが責めてくる。まぁ、おっしゃることはごもっともなんだけど……。
「うっ……でも、羅希くんへの愛情は変わらないよ!今日も手作り羅希くんだき枕におはようのキスをしてから学校に来たし、寝る前も手作り羅希くん人形に今日あったことについて話すし……」
「それは引くわ~……」
さゆちゃんが軽蔑のまなざしで見つめる。
でも、羅希くんへの愛情はそれほど大きいってこと!
「……漫画のキャラとはいえ、羅希くんに少し同情する。」
そう言って、さゆちゃんは私から距離を取った。
「えっ、それはひどくない!?」
私はガーン!という表情をして、その場に立ち尽くし、固まった。
「ははっ、嘘だよ。今さらそんなことでまゆみと友達やめないし、それくらいのことはどうせしてるんだろうな~って思っていたし。」
「も、もうっ!!でも、さゆちゃんの私に対する評価って……!?」
「変人。」
「そ、そんなはっきり言わないでよ~」
ポカポカと力ないパンチを食らわせながら、私たちは今日も仲良く帰るのだった――。
クラスマッチまであと一週間。
種目はバレーだけど、羅希くんに勝利話を持って帰れるよう、がんばろっと。