第一話
「バレー部じゃだめなの?」
彼のことが気になり始めたのはその言葉を言われてからだった――――
キーンコーンカーンコーン――――
休み時間のチャイムと同時に、私、藍川真弓は、堂々と漫画本を机上に広げ、集中し始める。
「まゆみぃ~、また男バス漫画読んでるの~?飽きないねぇ~。」
クラスメートで親友の渡辺紗由ちゃんが声をかけてきた。
「だって、だって、かっこいいんだよ!!見てよ、さゆちゃん!!このダンクシュートを決める羅希くん!!めちゃめちゃかっこよくない!?こりゃ誰でもイチコロだよぉ~///」
クラスメートのさゆちゃんにバーンという効果音とともに漫画の見開きページを見せる。
ちなみに、羅希くんとは、私が絶賛ハマリ中の男バス漫画『君の胸にダンクシュート』の主人公である。
私はこの漫画の見せ場であるダンクシュートのシーンが大好きで、授業中もこの漫画を手放せないでいる。
「はぁ。これほど授業を聞いてないのに頭いいとか、マジむかつくわぁ~。」
「褒め言葉として受け取っておこう!」
「イラッ」
「あははっ」
「はぁ~。ほら、次、理科の授業でしょ?君ダン持って行っていいから、早く理科室行くよ!」
「はぁい。」
さゆちゃんはこんな私に呆れつつも、なんだかんだで仲良くしてくれる。
本当にいい友達を持ってよかった。うんうん。
私が準備を終え、理科室に行こうとした時、ふと、隣の席から声をかけられた。
「バレー部じゃだめなの?」
「えっ?」
その意味を聞こうと振り向くと、隣の席の香久山湊くんと目が合った。
「いや、なんでもない……」
そう言うと、何事もなかったかのように、スッと湊くんは教室を去っていった。
「ほら!早くいかないと遅刻するよ!!」
「い、今行くーっ!!」
さゆちゃんに呼ばれ我に返った私は、タタタッと小走りで教室を去っていった――――
さっきの、どういう意味だったんだろう?今度、湊くんに聞いてみよっと。
キーンコーンカーンコーン――――
「今日も無事に終わったねぇ~~」
「そだね。」
さゆちゃんが伸びをしながら、下校中、私に話しかけてくる。
私はさゆちゃんの隣を歩きながら、湊くんに言われた言葉について考えていた。
……私が男バス漫画ばかり読んでいるから、バレー部の湊くんは妬いちゃったのかな……なんてね。
そんな小さな出来事について考えていると、教室から校門までの途中にある体育館でさゆちゃんが足を止めた。
「そう言えば、まゆみは、リアル男バスには興味ないの?ほら、あの冴木先輩とか、イケメンの部類に入ると思うんだけど……」
体育館は放課後、バスケ部とバレー部が半分ずつ使用している。私とさゆちゃんは帰宅部なので、皆が部活している時間にこうして帰宅しているのだ。
バスケ部側のコートを見ると、ちょうど私たちの一つ上の三年生である冴木先輩が、シュートを打っていた。
「ほら、すごくない?先輩、3ポイント決めたよ!私なんか、授業中何度挑戦してもゴールに届かないのに……」
「確かに、3ポイントはすごいね。でも、私はやっぱ羅希くんの方が好きかなぁ。この、普段の初々しい感じがめっちゃかわいいんだよねぇ――――」
バシッ――――
その時、バレー部側のコートでは湊くんがアタック練習をしているようだった。
私がふと気になって見ていると……
「香久山もスポーツ万能なのに、なんでバレーなのかね?まぁ、好きなら仕方ないけれど、あの顔はサッカーとかの方が似合うと思うんだけどなぁ。」
さゆちゃんが私の視線を追い、そんなことを呟いた。
「……湊くんも頑張っているんだね。いつも体育館を素通りして帰っていたから、知らなかった。サッカーもいいけど、なんか目が生き生きしているし、私はバレー部のままがいいと思うよ?」
「おや、おやおやおやぁ?ついにまゆみもリアル男子に恋かぁ?」
「ち、ちがうよっ!私は羅希くん一筋だもん!!ほら、変なこと言ってないで、帰ろうっ!!」
「あっ、ちょっと、まゆみ~、待ってよぉ~~」
さゆちゃんの言葉に恥ずかしくなった私は、そこから逃げるように立ち去った。
私は感じたことを言っただけ。
恋愛感情なんて、羅希くん意外にあり得ないよっ!
……でも、バレー部もいいかも。アタック、スパイクかもしれないけど、その練習をしている姿は少し、かっこよかったかな。今度、バレー部がメインの漫画買ってみよっかな。
「はぁ、はぁ……あんたって、逃げ足は速いよね……。体育では本気出さないくせに……。」
「さゆちゃん、今度、また一緒に漫画買いに行こっ?湊くんがバレー部じゃだめなのって聞いてきた意味、少しわかった気がする……。私がバスケ漫画ばかり読むから、きっとバレー部の良さを分かってほしかったんだと思う。だから、バレー漫画買いに行く!」
「……また、唐突な。はぁ~、わかったわよ。まゆみは頑固だから選択権なんてないんだろうし。まぁ、振り回されているのは慣れてるけどね。感謝しなさいよ?」
「ありがとう!さゆちゃん、マジ天使!!今度、購買のパン、好きなのおごってあげるねっ!」
こうして土曜日にいつもの本屋さんに行くことが決まり、私たちは帰宅した。
これが、私がバレー部を気になり始めたきっかけの話である――――