転章
暗転
教室。
潤 「どうした汐そんな怖い顔して。告白か?」
汐 「そう言うわけじゃねえが、仲良くお話でもしようぜ」
潤 「お、は、な、し? 嫌だねえ、俺と汐はそう言う仲じゃないだろ? いや、違うか。男と男って、そう言う平和な話し合いってもんじゃないじゃん」
汐 「俺はお前のその煙に巻いたようなくどい言い回しが2年前からずっと嫌いだったぜ」
潤 「傷つくなあ。俺は人に言われる言葉で嫌いなものが『嫌い』ってのと『不誠実』ってのなんだぜ?」
汐 「誰よりも不誠実な男が言うに事欠いてそれかよ」
潤 「それは……秋のこと言ってんのか?」
汐 「自分でもわかってたのか。そう言うやつ、嫌いだぜ?」
潤 「おいおい、俺が煙に巻いてるお陰で殺伐とした雰囲気から逃れてたってのに……。俺を怒らせたいのか?」
汐 「怒ってください、とでも言えばいいか?」
潤 「……。お前さ、嫌なやつになったな」
汐 「あああああ!! いい加減煮え切らねえなあ!! お前、いつまでそのままでいるつもりだ!」
潤 「その説教は聞き飽きた」
汐 「じゃあいい加減動きだせよ! いつまでそこで止まってるつもりだお前! ガキじゃねえんだぞ!」
潤 「うるせえ! 俺だっていい加減終わらせてえよ……」
汐 「言い訳すんな! 透はもういねえ! あいつだって生きてたらお前らが今の関係から進むのを願ってるとか思わねえのかよ!」
潤 「そんなの……そんなのお前のエゴだ!」
汐 「じゃあお前の『あいつが~』って言葉はエゴじゃねえのかよ!」
潤 「エゴだよ! 同じエゴなら俺は正しいと思った自分のエゴを信じる」
汐 「はっ、救いようのない馬鹿だな」
潤 「救われたいアホよりはマシだね」
汐 「いい加減にしろよお前。そう言う態度してればいつまでも逃げ切れるとでも思ってんのか!」
潤 「思ってねえよ……。あいつはどこまで言っ」
汐 「透はもういねえ! お前らが勝手に縛られてるだけだ」
潤 「いなくてもあいつの言葉だけは残ってんだよ! お前の中にもあるだろ!?」
汐 「ああ、それでいてあのメールだもんな。たまったもんじゃねえよ! けどな、それが今の俺らが未来に進むのを止めるのは違うだろ」
潤 「怖いんだよ! あいつのいない未来を見るのが……。それで幸せになってしまうのが……」
汐 「じゃあお前は一生、今で立ち止まってろ。お前の分まで俺が進んでやるよ、秋とな」
潤 「安い挑発には乗……」
汐 「秋なんて気が強いだけでただの女だ。押し倒してキスして服ひん剥いてやればあとはどうとでもなるだろ」
汐 「気づいてなかったかもしれないけどなあ……俺、案外このコミュニティぶっ壊しても良いと思ってたんだぜ?」
潤 「お前! 嘘でも言っていいことと悪いことがあるぞ……」
汐 「ああ、悪い悪い。秋は気が強くて、俺が抱いてやっても不満はない女だ。って言えばよかったか?」
潤 「この……クソ野郎!!!」
潤、汐に掴みかかる。
胸ぐらを掴まれるが汐は動じない。
汐 「お前が言うのは俺にじゃないだろ。言えよ」
潤 「お前に言われなくても! でも……透が……」
汐 「いい加減ハッキリしろ! 誰が、とかなんで、とか言い訳は口にすんな! ただ、お前がどうしたいかだけを言え!」
潤 「そんなの決まってんだろ……」
汐 「お前の! 心の声を叫べ! あの馬鹿がいる空に聞こえるくらいの声で!」
潤 「あの気が強いだけのアホ女を俺のものにしてやりてえええええ!!!」
汐を思い切り殴る。
汐 「……なんで殴った!?」
潤 「ありがとうな。こうすればあいつにもちゃんと言えたんだな……。こんな、単純だったんだ」
汐 「だからなんで俺を殴った!?」
潤 「あいつがいないなら、あいつに聞こえるくらい言ってやればよかったんだ……。はは……俺って本当単純だな……こんなんでスッキリするかよ……」
汐 「聞こえてんのか馬鹿!」
秋 「私にははっきり聞こえたけど」
教室に入る秋。
その後ろをおどおどと歩く綾。
汐 「ははは……違う馬鹿に聞こえてたって訳か。面白いなあお前らは」
秋 「汐! あんたの言葉もしっかり聞こえてたからね……?」
汐 「どこからかはあえて聞かないようにしとく……か」
秋 「おいそこの満足してる馬鹿!」
潤 「ははは……俺は馬鹿さ、こんな単純なことにも気が付かない大馬鹿野郎だよ……」
秋 「悦に浸ってんじゃないわよ!」
潤 「いてっ!? って秋!? いつからそこに!?」
秋 「『秋なんて気の強いだけの女だ』って辺りかな」
潤 「じゃあ俺の真意ははっきりと伝わっているのでは!?」
秋 「伝わっててもアホ女とか言ってるのはムカつく!!」
潤 「理不尽では!?」
秋 「ほらこっち来る!!」
秋、潤の襟を掴み教室から出る。
綾 「見せつけてくれますなあ」
汐 「お互いに照れ隠しが下手すぎるんだよ。まあ、これからはマシになるんじゃないかな」
綾 「少しはお互いに自分の本音を見せてくれればいいけど」
汐 「で、あとは犯人……か」
綾 「え、汐くんじゃないの? 全部あの二人をたきつけるための芝居かと思ってたんだけど」
汐 「だから俺らの中にいたら笑えないって言っただろ。……けど犯人探しはまだいいか、いずれわかるさ。半年後くらいにな」
綾 「えー気になるのに」
汐 「あいつが死んだことに納得がいってない人間なんて限られるだろ。その中であいつの完璧さにコンプレックスを抱いてるやつなら尚更さ」
綾 「……それってミステリーのタブー犯してない?」
汐 「この世にミステリーなんてないよ。ただ、納得できないことが多すぎるだけだ」
綾 「犯人さんも答え出せると良いね」
汐 「大丈夫だよ。死んだ人間になることは出来ないけど、その背中を追うことは出来る。それだけわかってれば、大丈夫さ」
綾 「難しいことばっか言わないでよー。で、あの2人はどこ行ったの?」
汐 「まあ……あそこだろ」
綾 「上?」
汐 「透に、一番近い場所。俺らは先に帰るとしようぜ。あいつらいちゃつきはじめると長いぞ多分」
綾 「じゃあ一緒に帰ろうか! 一緒に!」
汐 「お前みたいな真面目ちゃんは騙されないんじゃなかったのかよ」
二人教室から去ろうとする。
フェードアウト。