三話 逞しい胸
「ほほう。それで、全裸で逃げ帰ってきたのか」
「もっ、申し訳ありません!」
ナイフの男が頭を下げている相手、それは彼らのボス、王都防衛軍総司令である。
「悔しくは無いのか?仕返しに行こうとは思わんのか?」
「悔しいです!しかし、奴ら驚くほど強く、我々第七部隊だけではっ!」
「言い訳か?それとも事実か?その者らはお前ら第七部隊二十名を相手にたったの四人で全滅させたってか?」
「はっ!そうにございます!」
「偉そうに言ってんじゃねぇ!!どアホ!!それでも兵士か?この国を平和と秩序を守る兵士かよう!!さっさと反逆者を殺せ!」
「はっ!今度こそ、今度こそやってみせます」
「うむ、期待しているぞ。第七部隊隊長、オルタスよ」
ナイフの男オルタスは、この国マウロイの兵士であった。冒険者の国、交易が盛んで活気のあるこの国の、一番の問題は兵士の質である。昼間から酒を飲み、博打に明け暮れる者が多い。しかしそれでも問題が起きないのは、彼ら兵士の強さが由来している。そこら辺の冒険者じゃ決して勝てない程の強さを誇る。普段は飲んだくれで、賭場を荒らし回る荒くれ者達だが、以前の戦争からこの国を無傷で守り抜いたのは紛れもなく彼ら兵士である。
クソ!クソ!ツイてねぇぜ。何だってんだあいつら。強すぎだろ。いくら何でもよ。でも今度会ったらぜってぇ油断しねぇ。全力で叩き潰す。待っていろ!待っていろよくそったれ!必ず俺たち第七部隊がお前らを始末する!俺たちをコケにしたことを後悔させてやる!必ず!必ずだ!
宿屋で受付していると、マイケルがやってきた。
「よお!マイケル!お疲れ様!!」
「うるせえボゲェ!なんだって俺を置いて行きやがった!!」
「マイケルなら大丈夫だって信じてた!」
「かっこよかったぞマイケル!」
「ひゅーっ!さっすがマイケル!!その筋肉は伊達じゃないね!!」
マイケルの顔が少し赤くなっていた。
「お、おまえらぁ、別にあんなの余裕だったし、置いてかれても何とも思わなかったぜ。なんだって僕の筋肉は世界一だからな!」
「あぁそうマイケル。恥ずかしいから服を着てくれ」
マイケルはそこで初めて自分の状態を確認した。上半身裸。さっきの戦闘で服を脱いでからそのまんまだった。
「あ、服、置いてきちゃった」
「取り行ってきたら?俺たちは部屋で休んでるから」
「あ、うん分かった」
マイケルが走って出て行った。さて、疲れたし寝よう。ああ、金がないから相部屋だけれども。部屋に入った途端ロザリンドにベッドを占領された。もう一つのベッドはハルが使うようだ。金が無くて二人部屋を借りて寝るのだが、やはりベッドは二つしかない。仕方がない。俺はソファに寝よう。あ、マイケルは床で。きっと筋肉でなんとか眠ってくれるだろう。そんなことを考えながら眠りについた。
目が覚めると、目の前に逞しい胸があった。傷跡の残るマイケルの胸だった。なんで隣に寝るんだよ。密着してるんじゃないよ。最悪の目覚めであった。